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『読みたいことを、書けばいい。』 田中泰延

私は田中さんのことをあんまり知らない。電通で24年間コピーライターをしていたけれど辞めて文章を書いているらしい。今年4月、彼による伊藤若冲展のRetweet記事を読んで、有給をとって福島まで若冲展を見に行って、それから本人のTwitterをフォローしている。

ぷっ、と吹き出すようなゆるい例が織り込まれた文章の書き方の本。字も大きいしサクサク読めるのだが、とてつもない智恵というか熱量というか尋常ならざるものが根底に流れていて、隙間からグツグツしているのを感じる。一つだけ、本書の中から紹介をさせてほしい。「随筆」の定義とは?田中さんの定義は「事象と心象が交わるところに生まれる文章」。こんな定義、見つけられなくない?唸ってしまう。

広告代理店で働いていた時は「誰か」のために書いていた田中さんが、「自分」のために文章を書く。その道筋や思い、それが運んでくれるものについて惜しげなく書いてある。

「自分の読みたいこと」として書いたわけではないけれど、私も正直に書いた自分の言葉に救われたことがある。今年上期、私は婚活をもりもりしていた。「とりあえずご飯に行け」とアドバイスをもらったので、さほど興味のない人に向けて、気を持たせるべく本心に沿わないLINEを書いていたら自分で自分がわからなくなった。そんな時に、書いて1年ほどになるこの読書感想文シリーズの下書きを読んだら、自分の本音が書いてあって、戻ってこられて、なんか救われたのだ。(ちなみに婚活はあまりにリターンがなさすぎるので、下期は中止の予定。なんなんだ、もう!)

先達による、読みやすさと情報量と熱量を兼ね備えたすごい技に触れてしまった。私も「文字が連れて来た世界」を見たい。あぁ、仕方ない。この世界に踏み込もう。

まず、この文章が愛と敬意がたっぷり込められたものになっていますように。

115 読みたいことを、書けばいい。


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