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『中国ジェンダー史研究入門』【新人読書日記/毎日20頁を】

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新人読書日記シリーズ、4冊目。
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記事一覧

進歩か後退か【新人読書日記/毎日20頁を】(66)

「中国ジェンダー史研究入門」、441〜463頁、読了です。 これで、全体を読み終えました。 コラム5では、セクシュアル・マイノリティをテーマとし、前近代から2000年後までの男女の同性愛について、議論しています。同性愛が一般的といわれる明・清時代もありながら、アメリカのドラマの同性愛に触れるシーンが全部消されてしまったのはつい最近のことです。世界中でLGBT運動が広く展開されている一方で、中国におけるセクシュアル・マイノリティの扱いは一体進歩しているといえるでしょうか?

フェミニズムとSNS【新人読書日記/毎日20頁を】(65)

「中国ジェンダー史研究入門」、421〜440頁、読了です。 フェミニズムが中国のSNSでより多く取り上げられるようになったのは、私の個人の感覚では、ここ5、6年間のことです。とても面白い変化は、15年前の中華系SNSでは男性が処女でない女性を猛烈に批判するのは合理的で正義であったのが、今はもうすっかり様変わりしました。「なぜ女性が男性と同じことをしただけで批判されるのか。」と、女性が男女差別に抵抗する姿、また他の女性を擁護する姿をしばしば目にする時代になりました。 もちろ

中国医学における治療・身体とジェンダー【新人読書日記/毎日20頁を】(64)

「中国ジェンダー史研究入門」、401〜420頁、読了です。 曖昧で捉えにくい「気」を重視する中国伝統医学から、何もかも数字で測る西洋医学の導入まで、中国の医学は紆余曲折を経て現在の科学的な医学環境に辿り着きました。伝統社会では、女性の受診及び治療は儒教思想「男女授受不親」(夫婦でない男女は親しむべきではない)の概念に深く影響され、男性の医師と直接の面談ができず、治療が手遅れになることが多かったようです。今日医学の現場は大分様変わりしました。ただ、婦人科では未だ男性医師が珍し

才女、遊女【新人読書日記/毎日20頁を】(63)

「中国ジェンダー史研究入門」、381〜400頁、読了です。 古代史上活躍していた才女の一方は、良い教育を受けるチャンスを持つ上流階級の女性、残りの一方は、まさに正反対とも言える、妓女(遊女)だったのは興味深い現象です。男性の下位に置かれた一般の女性と比べて、妓女の方が礼教に縛られず、自由に活躍できていたということでしょう。 本章で言及されている「秦淮八艶図詠」は清末に刊行され、八人の有名な妓女を紹介する画文集です。現代中国でも名前がよく知られている「柳如是」、「陳圓圓」も

中国古代の戸籍と家族【新人読書日記/毎日20頁を】(62)

「中国ジェンダー史研究入門」、361〜380頁、読了です。 戦国時代から既に存在している戸籍はジェンダーにどんな影響を与えてきたのか、本章では「中国古代の戸籍と家族」というテーマをめぐって面白い議論を展開しています。戸籍が作られた要因、女性が古代家庭内にどう位置づけられているのかなど、色々と勉強させられます。生まれつきの戸籍というものの本質を初めて考える機会になりました。部屋を片付けるにはまず所有物をリスト化してからといったところでしょうか。挙げられている戸籍情報を記録した

ナショナリズムとジェンダー【新人読書日記/毎日20頁を】(61)

「中国ジェンダー史研究入門」、341〜360頁、読了です。 本章はIII期 近現代中国のジェンダー秩序の最終章です。「婦女連合会」に着目し、改革開放期のジェンダー秩序を議論しています。女性の権利を擁護する組織として、1949年に発足し、文化大革命期には10年間活動停止となりましたが、文革後、再出発を遂げ、現在に至るまで活動を継続しています。 歴史を振り返ってみれば、女性の地位は疑いなく昔より上がったのですが、残念ながら、女性の活動を決めるのは依然として女性自身ではなく、多

「今」を知るには歴史を学ぶ【新人読書日記/毎日20頁を】(60)

「中国ジェンダー史研究入門」、321〜340頁、読了です。 本章では私は再び歴史を学ぶ重要さを感じました。今まで個人の体験と感覚で捉えてきた社会の現実は、所詮破片のようなものです。歴史の目で社会の変化を見ることこそ全体像を論理的に捉える良い方法です。実行されてきた政策と歴史上の大事件は知っていますが、ぼやっとしたイメージしか残っていません。やはり時間順で研究者のコメントを対照しながら歴史を概観する方が、無秩序に見える現実でも頭の中でグラフ化され、理解が深まり、新たな知見を得

近現代の「女工」【新人読書日記/毎日20頁を】(59)

明けましておめでとうございます。 今年も新人読書日記をよろしくお願いします。 「中国ジェンダー史研究入門」、301〜320頁、読了です。 本章「近現代の女性労働」では女性の労働事情について論じています。初めて家から外に出て工場といった職場で働き始めた彼女たちが直面した社会からの偏見、労働条件の問題と地域差別などが取り上げられています。大学を卒業してスムーズに社会人となり、会社に勤め始めた私にとって、当時の女性たちのプレッシャーは想像を超えるものがあります。また、「工人」と

難しき「独身主義」【新人読書日記/毎日20頁を】(58)

「中国ジェンダー史研究入門」、281〜300頁、読了です。 上記は、1922〜23年に行われていた「恋愛討論」で、とある女性の「独身主義」の主張です。正直、これは100年後の世界で生きているこの私にとっても衝撃的です。なぜかというと、自由に「独身」を選べる環境はいまだ整っていないからです。恋愛しないどころか、親からの「早く結婚しろ」との催促は並大抵ではありません。社会からの暗黙の偏見も無視できません。また、2000年前の思想家・孟子が残した名句「不孝有三、無後為大」(子孫を

「断髪」と「辮髪」【新人読書日記/毎日20頁を】(57)

「中国ジェンダー史研究入門」、261〜280頁、読了です。 本章「近代中国の男性性」では、中国の「男性性」はどのように定義・左右されてきたかを概観しています。19世紀末、清末民初の政治家・康有為が「断髪」を提起、女性的「辮髪(おさげ)」は中国人が西洋人に笑われる原因だと、辮髪を切ることを提唱し、男性性への復帰を求めていました。「辮髪」の歴史と対照してみると、このエピソードは興味深いと思います。 もともと「辮髪」は統治階級になった満洲族が自民族の風習を漢民族に押しつけたもの

「纏足」の恥【新人読書日記/毎日20頁を】(56)

「中国ジェンダー史研究入門」、241〜260頁、読了です。 子供の時、おばあちゃんの足の形が「変だ」と思っていました。今日「纏足」に触れる内容を読んで、初めて画像検索してみたら、「あっ、おばあちゃんの足だ」と、驚きも懐かしみも複雑な感情になりました。 あの時代に、「纏足」はああいうふうに取り上げられていたのかとわかりました。一千年ほど続いていた男性の審美眼に合わせる習慣が、ある日ナショナリズムの正反対に置かれ、国家の恥ともなり、国家の無能も女性の足の問題になったなんて、皮

近現代中国のジェンダー【新人読書日記/毎日20頁を】(55)

「中国ジェンダー史研究入門」、221〜240頁、読了です。 近現代中国は紆余曲折を経て、対外戦争から対内闘争までの長年の混乱を乗り越え、経済成長を遂げ、「中国夢」を見る段階に辿り着きました。この流れの中で、ジェンダー秩序はどのように変化してきたのか、第III期「近現代中国―変容するジェンダー秩序」で論じられている課題です。 冒頭の「はじめに」で時代をおって政治と政策に伴う女性の地位の変化や、男女格差などを概観しています。ジェンダー秩序に影響を及ぼす原点は、政策にあると思い

身分感覚と「紅楼夢」【新人読書日記/毎日20頁を】(54)

「中国ジェンダー史研究入門」、201〜220頁、読了です。 本章では「身分感覚」が論じられています。触れられている「女子教育」と「上流階層の女性」の節から、『中国四大名著』の一つである「紅楼夢」を思い出しました。清代中期に曹雪芹と高鶚より、書かれた小説で、上流階級の賈氏一族が繁栄の極みから没落するに至るまでの流れにそって、貴族と庶民の男女を描いたストーリーです。登場する貴族のお嬢さんたちの、詩文の才は感服のほかなく、その人格と学識が下層階級の侍女のそれと対比となり、いわゆる

朱子学と再婚【新人読書日記/毎日20頁を】(53)

「中国ジェンダー史研究入門」、181〜200頁、読了です。 「餓死事極小、失節事極大」(餓死するよりも、貞潔さを失う方が大きな問題だ)は、朱子学の代表的なキャッチコピーの一つとして広く知られています。前近代の女性の抑圧の原因となっています。寡婦の再婚は批判対象となり、「節」を保った女性は推奨されるなど、現代人には想像しにくい世界でした。 とはいえ、今の中国でも、バツイチの女性は、お見合いの場では不利になるなど、これは普通だと認識されているのも、長年続いた朱子学の思想に影響