アート×ビジネス共創事例紹介ー株式会社サンエムカラー[後編]
写真集やカタログなどの美術印刷、文化財・美術作品のデジタル化・複製などを手がける株式会社サンエムカラー。近年、その高い印刷技術を生かし、現代美術分野のアーティストと作品制作に取り組まれています。後編では様々な作品や印刷物が生まれる現場(社内・工場)を見学しました。
前編はこちら
最初に案内いただいたのは、サンエムカラーが手がけた印刷物が一覧できる展示室。複製画、写真集、美術作品まで実に様々です。
大畑:こちらはサンエムカラーの真骨頂とも言えるものです。文化財の複製画でUVプリンターを使って金表現を再現しようとしたもので、金泥部分と箔の部分で質感を作り分けています。
木村:オフセット印刷はサンエムカラーのいわゆる「本業」です。
大畑:通常、CMYKの4色*ですが、CMYKを使わず絵の構成要素の色、墨の濃淡、和紙の地色や汚れ、落款の朱で校正した刷り、CMYKに古色の特色を7色加えた11色刷り、FMスクリーニングとシルクスクリーンの併用などといった細かな仕事が、サンエムカラーでは日常にあります。私は元々日本美術の複製画を専門とする技術者で、7年ほど前にサンエムカラーに入社したのですが、このレベルでの仕事が当たり前にある環境に驚きましたし、いまだにすごいと思います。このベースがあるから、新技術の開発やコンテンポラリーの仕事もできているのだと思います。
ー社内の様子
木村:社内には模写絵師がいます。こうして箔を貼ってもらったり、ちょっとした日本画の手直しなどをやってもらっています。その手直しも印刷のための調整で、「原画はこうなっているけど、デジタル化したものを刷った時に少しおかしくなるから一部だけ強調して欲しい」といった要望に対応してもらっています。
木村:この機械はオンデマンドですが、ゴールド、シルバー、ホワイトといった特色も出すことができて小ロットの印刷が可能です。
木村:弊社のUVインクジェットは様々な媒体に印刷できるので、木やコンクリートにも印刷できますし、通常の印刷用紙ではなく、フリーマーケットで買ってきた古い和紙にプリントするという作品を手がけたこともあります。
木村:CMTK(金氏徹平さんと森千裕さんのユニット)のレンチキュラー作品のサンプルです*。これまではアクリルに印刷していましたが、これは紙に印刷しています。おそらく世界初の技術です。これによって媒体や表現の幅がグッと広がります。アーティストとの協働は、新しい技術開発の実験場でもあります。
大畑:立体をそのまま複製する技術もあります。大型スキャナーで上下左右をスキャンして、それを3Dデータに起こし、その3Dデータを印刷でまた起こしなおすというものです。このような複製技術とUVプリンターのデジタル技術は繋がっていて、文化財複製のノウハウをコンテンポラリーに応用するという連鎖がとても多いです。
ー工場へ
木村:新しく導入した大型のオンデマンド型の印刷機Jet Pressです。通常のオフセット印刷より色領域が広く、モニターに映るものと同じデータで印刷できます。リアルな発色ができる強みがあり、かつ小ロット対応なので写真集やポスターも1部から制作できます。
井上:これは、「燦・エクセル・アート(印刷の8K)®」という、サンエムカラーと株式会社SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ・ 富士フィルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社が共同開発した印刷機です。これほど高精細に印刷できるのは、日本、いや世界でもこの1台しかありません。共同開発者とともに、数年かけてトライアンドエラーを重ね、絶えず改良して出来上がった1台です。
木村:もう二度と同じ機械をつくることはできません。アーティストの協働でもこれを使う機械が増えてきています。どうにか残していきたいですし、有効活用できる方法を探りたいと考えています。
美しい印刷、再現性の高い印刷だけではなく、その先の表現の拡張を目指して進むサンエムカラーとアーティストの協働。今回の取材を通して、それを裏付ける高い技術と探究心、そしてオープンな姿勢を垣間見ることができました。今後のサンエムカラーの "アート×ビジネス" の取り組みに、ぜひご注目ください。
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