マガジンのカバー画像

宝石箱

18
開けたら消える
運営しているクリエイター

#詩

その言葉に色をつけるとしたら 何色だろう あるいは君は今日 何色の言葉を吐き出すのだろう 僕が昨日 塗りつぶした言葉は 明日にはきっと 別な色に変わってる いっそ無色透明でいられたら楽なのに 無味無臭でさえいられない僕らは 懲りずにまた言葉を紡ぎ出す 空虚を塗り潰すように

感性という麻薬

私のなかの とても美しい絵画は 現実には ラクガキにしかならない 私のなかの とても美しい映画も 現実には 学芸会のようなものだ 感性という麻薬が イタズラに心をみだしてくる あの夕陽も 温もりも 涙も すべてはまぼろしなのに 私はなぜか 駆け出したくなってしまう 真っ白のキャンパスにぶつかって トマトのように潰れてしまえば 芸術になれるだろうか。

『青林檎』

僕が「青いね」っていうと 君も「ええ……青いわ、とても」っていう 僕は――「海」を見て 君は――「血」を見て そう言う 僕が「もう帰ろうか」っていうと 君も「ええ、還りましょう」っていう 僕はひと気のなくなった暗い浜辺で 君はただ、遠い空を眺めながら そう言う もう一緒には居られないのに…… ふいに潮騒が大きくなる ボートの底で仰向けに寝かされていた君が 永遠に黙り込んだ 最後まで僕を許しながら笑って けして許さなかった君 これで、おあいこだ 僕はコートのポケ

年縛り

スマホを機種変したので アドレス帳を整理しました もう会わない名前たちを 一括で削除しました 未送信トレイに残っていた あけっぴろげな想いの残滓を 建前と共に飲み干しました 取り返しのつかないことだけが 今も私に苦悩を強制します どんなに傘を広げたところで 雨には抗えないように もう大人になったので 卒業アルバムにしつこく居残る 私の下手な笑顔だけ潰しました 消せない歴史ごと修正テープを 横に一本強く引きました どんなに傘を広げたところで 全然気分は晴れないけれど