More betterをどう訳すか

字幕翻訳をしていると、英語のセリフの中の文法的な間違いや言い間違いをそのまんま、日本語に訳さなければならない、という場面に多々出くわす。大抵がジョークにつながるセリフなので、原文の可笑しさを残したまま、日本語にしなければならない。

"オレたちの作品をmore betterにしようぜ!"と、ちょっとおバカなキャラの男が言った。betterはgoodの比較級で、moreはmuchの比較級だから、比較級のダブル使いということで、英文法的にはNGである。betterを強調したいなら、much betterが正解。彼の発言のあと、すぐに仲間が、”お前、more betterってなんだよ、アホか!”と突っ込み、笑いが起こる。

笑いが起こるということは、笑いが起こっても納得できる日本語字幕を作らなければならないということで、翻訳のハードルは上がる。

more betterを訳せば、「より良く」とかになるんだろうけど、これでは真の意味で翻訳ではない。こういうときこそ意訳の出番で、柔軟な脳みそが必要になる。どういう発言なら、原文の意図を損なわずに、日本語としてクスッと笑えるセリフになるだろうか?

moreとbetterがダブルで比較表現になっているように、日本語でもうっかり冗長表現を使ってしまうことはよくある。頭痛が痛いとか、犯罪を犯すとか。日本語の冗長表現を使う方向で悩んだ結果、“いちばんベストなの作ろうぜ!”としてみた。"いちばん"と"ベスト"で冗長表現にしてみたものの、正直この選択がいちばんベストかどうかは分からない。まあ、アホっぽさは出せたと思う。

原文の面白さを損なわず、言語だけを日本語に変える。しかも、字幕の限られた文字数の中で。これぞ、映像翻訳の醍醐味。日頃から面白い言葉に敏感でありたいなと思う。

そういえば、日本でときどき「モアベター」って言う人がいますね。特にビジネスの場で多い気がするけど、「こっちのほうがモアベターだよね」みたいな感じで。言いたいことはめっちゃ分かるんやけど…。



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