見出し画像

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

まさか、この映画で泣くとは…。

邦題がカタいせいか、難しい政治系映画を覚悟して観に行ったんですが、想像とは全っく違いました。

ポリティカル・サスペンス?いやいや、ヒューマンドラマでしょう。

新聞社を亡き夫から引き継いだ発行人のキャサリン(メリル・ストリープ)と、編集主幹であるベン(トム・ハンクス)。本作は、政府の重要機密の公表うんぬんよりも、社を懸けた決断を通して、この2人の人間関係が変化する様を描いた映画でした。

そういう意味では、日本版ポスターより、ヘッド画像に使ったオリジナルポスターのほうが、映画の内容をよく表していると思いました。

映画の冒頭、2人が一緒に朝食を食べるシーンがあります。ここで、2人がどんな関係なのかが明確に描かれます。

2人は発行人と編集主幹という仕事上のパートナーであり、ジョークを言って笑い合う友人同士でもありますが、こと新聞社の実務に関して、ベンはキャサリンの口出しを許しません。

人として彼女を尊重しながらも、経営者としての彼女の手腕は認めておらず、"夫が死んだから跡を継いだだけの元主婦"である彼女に新聞社の経営なんてできるとは思っていないのです。そして新聞社の誰からもそう思われている、ということをキャサリン本人も重々承知している。

短い朝食のシーンで、新聞社が置かれている状況と2人の関係が絶妙に描かれており、もうこの時点で映画に引き込まれていました。

とにかく、主演の2人の演技がうますぎます。

正直、英語ネイティブの俳優の演技って、日本人俳優よりも演技の上手い下手が分かりにくくないですか?英語が母語ではない私たちにとって、英語でのセリフ回しが自然かどうかなんて、日本語ほど敏感には感じ取れないと思うんです。それでも!それでも分かるほど、2人の演技はすごかったです。

ベンなんて、役作りがすごすぎて、トム・ハンクスだと気付けないぐらいですよ。

メリルの演技で好きだったところは、電話を取る時に大ぶりのイヤリングを外すところ、ガッと言われて思わず涙目になるところ、プレゼン用のメモを持つ手が震えるところ、社交の場でのあいさつはめっちゃ流暢なところ、男性ばかりの会議室に入る時の声のかけ方、上品な啖呵の切り方、最高裁で判決が出たあと、裁判所の階段を下りるシーン...とかとか!とにかく、いちいち名演技でした。

ところで、ベンの奥さんが、キャサリンの決断に対して「勇気がある」と言うシーン、めっちゃよくなかったですか。

彼女は夫よりもキャサリンの立場をよく理解していて、その決断の意味も分かっている。だから勇気があると思った、とちゃんと理由を夫に説明してキャサリンを褒めるところ。最高でした。そこで初めて、ベンも気付くわけです。奥さん、グッジョブ!

終盤、印刷機の横でキャサリンとベンが話すシーンも、最高でしたね。歩くときに手を後ろで組むのがキャサリンの癖のようで、そのために少し丸くなった柔らかい背中と、その背中を見つめるベン。2人の隣で、真実を綴った新聞が何本もの柱になって上に上がっていくシーンは、誰もがグッときたはず。

とにかく、メリルの演じたキャサリン・グラハムという人物に、すっかり魅了されてしまいました。見てよかった!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?