奇跡を起こす男~夫、カツラを検討するの巻 後日談~

あなたは覚えているだろうか。
我が夫がカツラを検討していたあの日のことを。

夫の髪の毛は薄い。ついでにテンパで猫っ毛で眉すら薄いがこれ以上はお口チャック!
なんだか私が夫を必要以上に執拗に攻撃しているような錯覚に陥ってしまう。

夫は特に頭頂部がやばい派に所属していて、ここ数年彼の頭頂部を見下ろすと、毎度律儀に想起させられるものがあった。

学校の体育館。

ライトに照らされツルツルテリテリと輝く磨き上げられたオレンジ色の床。

耳をすませばボールの弾む音すら聞こえる気がする。
「安西先生…!!バスケがしたいです!」

我が愛する夫の頭頂部、およそ5㎝四方は体育館の床となっていた。

それでもういっそカツラをこしらえようか、と去年の5月夫はアデランスとアートネイチャーに行って話を聞いてきた。

最初に訪ねたお店の営業マンは非常に雄弁にカツラについて語った。
方やもう一方のお店の営業マンは大層口下手で寡黙。かゆいところに全く手の届かない男性であったという。

「ふーん、なんでそんな話下手な人が接客してるんだろうねぇ」
私のつぶやきに、夫は待ってましたとばかりに言った。
「と思うじゃん?その人とんでもない武器隠し持ってたんよ!!」 

勘のいい人ならピンときたかもしれない。

そうなのである。

自社の超高額カツラをシドロモドロに説明していたその営業下手な彼は、実は…とおもむろに自身の頭に手を添えた。
「私、今装着しています」
カポッ。

超精巧なそれを外して見せられ、夫はひっくり返りそうになった。
その分野には非常に鼻の効く夫を持ってすら見破れなかったそのナチュラル、その技術。

無口な彼はなんと一撃必殺の大技、圧倒的攻撃力の飛び道具を所持していたのだ。
この際、話下手なんて些末な事柄である。
セールストークなんて磨く必要がなかったのだ。
とんでもない説得力を前にひれ伏すしかない夫。

とはいえカツラは高い。
特に営業マンが着用していたカツラは超高額のうえ、日々のメンテナンスが不可欠だ。
それに、これは今回夫が伺った2社ともに言えるのだが、耐久面について尋ねたところ、とたんに彼らは口が重くなった。

人による、使い方による、使う頻度による、メンテナンスのやり方による…等々の言葉を次々に繰り出し最後まで濁し切った。

なにがなんでも明言しないぞという強い決意を感じる。

きっとそれは、どれも仰る通りなのであろうが、目安の期間さえ提示してくれないとなると購入する側としては不安の一言である。

カツラ購入案はここに立ち消えた。

ところが、ところがである。
昨日なんとなく夫の頭頂部をまじまじと見た私はわが目を疑った。

ツルツルテカテカと輝いていた中心部が光を失っている。

ー光を失うー
通常この表現は、物事が悪い方へ傾いた時に使う言葉であり、絶望の臭いが濃厚な表現だが、今回の場合は恐らくただ1つの例外である。

夫の頭頂部が光っていない。
かぶりつくように顔を近づけ様子を探ると、そこには産毛と呼ぶにはもう少し逞しい毛たちが、「ふさっ」と呼ぶには少し足りないくらいそこそこに生えているではないか。

戻ってきた!
ああ〜!黄泉の国から戦士(毛)たちがかえってきた!!

この画像使うの何度目?どうも私は乙事主様のセリフが好きらしい

あの日あの時の乙事主様の昂りが私に乗り移った。

「嘘だ嘘だ!なんてことだ!」
夜中12時をまわった平日の夜に、かつてこれ程昂ぶったことはなかった。

確かに夫はここ数ヶ月これまで以上にヘアケアを丁寧に行っていたし、ついでに3カ月ほど前からウォーキングも始めていた。
だが、もちろん育毛剤の類も、AGAのお薬のようなものも利用していない。

やったことは以下である。

■少しだけ品質の良いシャンプー(ミルボン)に変えた
■省いていたトリートメント(ミルボン)を使用するようになった
■洗髪後、髪をタオルで拭くときに力任せにゴシゴシすることを止めた
■ドライヤー前に流さないヘアミルク(ジョンマスターオーガニック)及びヘアオイル(ミルボン)を塗布するようになった
■時々私の特別なシャンプー(ミルボン)を貸してあげた
  ※Hanonさんから教えていただいたもの。こちらの記事で。
■時々私の特別な頭皮に色々いいらしい美容液(ミルボン)を貸してあげた
 ※これ個人的に気持ちよくて大好きです。

いや、ほんとに私ミルボンの回し者ではないので(汗)
通ってるカリスマ美容師のとこでおススメされるのがミルボンで、なんとなく使っているだけなんですが、どれも気に入っています。

えー?そんなので髪の毛生える?
男性の薄毛って不可逆的なものじゃなかったの?
最終的かつ不可逆的に解決(という名の断念)されたものなんじゃないの?

ウォーキングやシャンプー時の丁寧なマッサージにより血行が良くなったことで足場(頭皮環境)が改善され、それまで必死にしがみ付いていたかぼそき命(毛)たちの脱落率が減少した。
さらに、かぼそき命(毛)たちを十二分に保護してやったことで極度の栄養不良だった彼らが今、スクスクと成長してきている?
そういうことだろうか…

まるでコンクリートのひび割れから芽を出し花を咲かせる健気なタンポポではないか。
思わず目頭が熱くなる(うそ)

私は夫のために頭部の様子をスマホで写真に収めた。

ちなみに夫は自身のその場所を直視するのが怖いと言ってこれまで出来る限り見ないようにしていたため、恐る恐ると言った様子でスマホを覗き込んだ。

私に騙されて、てかてかに光る悲しき頭頂部を見せつけられるのではないかと大変な疑いようだったが、そんなことするか!(するから疑われる)

「え!うそっ(嬉)!?」

その夜夫は羽が生えたような軽い足取りで部屋をうろつき、俺今日眠れないかもしれない、などと頬を上気させ喜んでいた。

ちなみに翌朝、あれは夜の魔法が見せた夢まぼろしではなかったという不安が俄かによぎり、再度夫の頭頂部を確認した。

夢だけど!
夢じゃなかった!!
夢だけど!

夢ではなかった。
産毛と呼ぶにはもう少し逞しい毛たちが、「ふさっ」と呼ぶには少し足りないくらいそこそこに、やっぱり生えていた。

守りたい、この命。



サポートいただけたら、美味しいドリップコーヒー購入資金とさせていただきます!夫のカツラ資金はもう不要(笑)