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【長編小説】僕と彼女とオレンジの香り

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2話【僕と彼女とオレンジの香】

※人間に恋をすると死んでしまう吸血鬼と、香水職人の女の子のお話し。

「ただいまー」

「…おかえり」

時は1930年、フランス。

満月の夜に、夜警に追われる吸血鬼と出会ったのは1週間前のことだった。そして、なぜか私を襲わずに、すっかり家に入り浸っている、この吸血鬼、名前を「ルークス」というらしい。

「ルークス、邪魔しないで」

がちゃがちゃとフラスコと試験管を片付け、さて、次はどんな調合の

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1話【僕と彼女とオレンジの香】

※人間に恋をすると死んでしまう吸血鬼と、香水職人の女の子のお話し。

今宵は満月だった。

大きな大きな坂をオレンジの香りが登っていく。ふわふわと後ろ髪を靡かせながら。

僕はそれとは反対に、その坂をまさに転がり落ちようとしていた。何人かの夜警が僕を追って、それに抗うように、そしてどこか楽しげに、僕は逃げていたのだから。

長い長い下り坂の途中で、くるくるとした長い髪がふわっと浮いて、僕は思いっき

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