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令和反共神話

 日本に限らず、共産党が席巻した時代は資本主義自体がそもそも未発達で持つ者、持たざる者の格差が大きなものでした。封建体制が崩壊し、新たな支配階級となった資本家と高級官僚は「庶民を搾取して、自分らが何も働きもせず、殿様気取りの成り上がり」が国家の財産を支配し、日本でも実際に地方の小農民は娘を売る(それが工場であったり、体を売る仕事であったり)は別に珍しくなく、国粋主義からの資本主義批判もたいして珍しくありませんでした。
 しかし実際に資本主義批判の最大勢力となったのは、党派が異なるとは言え社会主義勢力であり、その分派であるマルクス・レーニン主義に基づく共産主義は実際に国家を運営しました。と言ってもまるっきり共産主義を国家運営に導入したわけではなく、共産党一党独裁の元、それこそ2・26事件の青年将校が嘆いたように地方から富を吸い上げる中央と常に監視と投獄の危険がある市民との縮図になっていきました。歴史は繰り返す。
 さて日本でも、実際に勢力を伸ばした日本共産党は2・1ゼネストで議会制に頼らないクーデター方式による国家権力独占を目指しましたが、結果は現在の日本国を見れば一目瞭然。共産党も戦術を変え議会制を擁護するようになりましたが、保守派はもちろんのこと社会主義者も共産党の独善とした階級理論には反発しそれらをまとめて「反共主義」と呼ばれました。反共と言う言葉は共産党が政権をとってもおかしくない。かつて日本ばかりではなく世界中で武力闘争や議会外活動で政権を奪取しようとした共産党を危険視する風潮は昭和時代の方が圧倒的に高かったです。しかし実際日本共産党は一定の勢力を持ち、日本社会党や民主党が振るわない時に躍進する政党になり誰もが選挙による共産党政権は現時点ではかなり難しいという事は事実です。実際かつて保守を擁護してきた人も「共産党の方がいいことを言っている!」と褒めはしますが、それでは政権に値するかと問われるとしり込みするのが事実です。ただ私が聞くだけの範囲ですが、案外共産党にシンパシーがある、でも共産党に投票するわけではなく、そもそも選挙自体を棄権する地方の高齢保守票は多いのですが、共産主義が歴史的遺産となりつつあるように反共自体もまた歴史的スローガンになりつつあるのが実態です。

ゼンセン同盟の実態

 繊維産業は日本の産業革命の中核となったのと同時に労働運動も初期から盛んでした。繊維産業が祖業である労働組合ゼンセン同盟は確かにまだいわゆる「テロとの闘い」がニュースを賑わしていた時代は、日米同盟強化による日米同時の軍事作戦を!ブレア首相を見習え!!という労働組合としてはかなりタカ派というのも事実です。
 ただこれに関して言えば組織の惰性力というものがあり、かつてそういう組織の特性があったから正直現代人にはピンとこないスローガンを掲げ続けないといけない事情があるのです。例えば靖国神社の評価がいい例でしょう。靖国では「英霊の選別」が行われている追悼施設としてあるまじき事をやっているのですが、それを知っている人は日本国民の1%どころかもっと少なく、実際戊辰戦争から『英霊』になっている人もいるんですが左右ノンポリともども「太平洋戦争の犠牲者」しか触れません。左右ノンポリともども、あれがイデオロギー戦であり細かいことはどうでもいいからです。ゼンセン同盟が靖国神社の隣の資料館である遊就館に見学に行くのですが、実際みんな感想は原爆資料館と行った時同じ感想「戦争はいけないね」のみです。たまに「こういう犠牲があったから今の日本がある」ぐらいは言いますが、あれを見て大日本帝国復活運動をするような人はほぼゼロです。自民党の極右党員か極右活動家ぐらいです。
 ゼンセンも「過激派が乗っ取る労組にゆだねてはならない」ぐらいは言いますし、その過激派=共産党という認識でしゃべっている人もいますが、実際日本共産党主流派が法廷闘争する事例はほとんどなく、団体行動も法廷闘争もなんでもやる。当然成功報酬を多額に設定するというユニオンは別の新左翼党派か思想とか関係のないビジネスユニオンです。当然ゼンセンにも労働運動の知識が深い人もいますが、ちょっとしたオルグぐらいなら「正直共産党ぐらいしか分からん。別に共産党の何が悪いか分からん」という事を言います。私が実際に聞いたので今ここで証明することはできませんが、今時そんな歴史的スローガンが第一になる労組は、そのイデオロギーで飯を食べている人間だけです。

全労連の実態

 連合結成時分裂した非主流左派である全国労働組合総連合略して全労連はかつて連合を右傾化として批判し、総評の日本社会党支持傾向を批判し政党支持の自由を求めて結成されたナショナルセンターです。実際は日本共産党支持のナショナルセンターになっていますが、この全労連は現在でもかつての共産党のようなゼネストによる議会外活動で権力を奪取してやる!これが本物の階級闘争だ!という人は、ほぼゼロです。実は心に秘めている人がいるなら話は別ですが、全労連の組合員も基本的に就職したらそこは全労連の組合があったぐらいの話で、研修時に多少の「心得」ぐらいは教えられても自信が共産党支持者と思われているなんて夢にも思っていません。
 また「連合は第二経団連!全労連が本物の労働組合だ!」と言いますが争議自体減っている現状で全労連もバチバチ階級闘争するわけではありません。この前のヤマト運輸のようなことがあれば、全労連の方が頼りになったという事例は少なくはありませんが、多くもありません。連合の方が頼りになるケースもあるのです。残念ながらもしかすると全労連よりも少ないかもしれませんが。
 そもそもこれだけ新しい労働問題が浮上しているのに全労連も組合員が増えていないということは、もうこれは労働組合自体に力が無くなっているのです。その一員である末端の私も大いに反省すべきです。ですが第二経団連と言われるほど政策決定力はなく、むしろ追認という形が多いのでよくTwitter内にいる「連合悪玉論」を唱える人は連合を過大評価しすぎだし、全労連を過小評価しすぎ。全労連運動は非正規雇用問題で連合より多少は先行しましたが、それだけです。全労連もゼネストを起こす気力は最早なく、それこそ「第三経団連」と言われても仕方ないです。
 自民党極右の杉田水脈代議士が自身が市役所勤めの時の自治労連批判をしていましたが、あの程度で闇と言えちゃうのは杉田代議士自体スローガンで飯を食う政治家で、また私より少し上の世代ですから今は「搾取」という言葉自体、全労連も普段は使いません。組織の惰性力で公式には階級的労働組合のような発言をしますが。

本当の労働者が打倒すべき相手は

 盛者必衰。共産主義という言葉が廃れたように反共主義という言葉も廃れはいます。中国などはいまだ共産党一党独裁ですが、あれを共産主義だというのはマルクスもレーニンも顎が外れるでしょう。株の取り引きが認められている共産国家なんて畑からマグロを釣るぐらいあり得ない話です。そして現在資本家階級自体も完璧とは言えませんが改善はされています。労働法を守らない資本家は案外大企業のエリートだとか元お役所の専門職だとか、そういう人の方がいざ独立するとブラック企業経営者になる事例が非常に多いです。もちろん大企業全ての問題が解決されたわけではありませんし、非正規雇用の労働問題はなんら解決していません。また働き方も多様になった反面労働問題も一概に階級闘争一本やりでは解決できるような領域ではなく今後労働組合の課題は、他組織といかに連携ができるのかが課題です。
 さてナショナルセンターの最大国際組織、「国際労働組合総連合」は2022年定期大会で3つの緊急決議が決定されました。一つ目はロシアのウクライナ侵攻批判、二つ目はイラン政府の市民弾圧の非難、3つ目は極右との闘いです。はっきりと「闘い」という表現を交えて全会一致されました。共産党がなぜ反共というスローガンが流行ったのかもうご存じかと思います。彼らは性急にも議会外から政権を転覆しようとした。その歴史的事実は消えません。大日本帝国がアジアで取り返しのつかない罪を犯したように、日本共産党も「絶対にやってはいけない不文律」を犯し、反省はしましたが先祖返りするような党運営は結局ただの党員からの提言を無駄に敵対勢力を増やす愚をおかしました。繰り返しますが彼らは、ゼネストで政権を転覆させようとした事実はあります。これは消せないのです。
 ただ共産党に階級闘争を仕掛ける余裕はなく、一党員の提言一つで党が揺らぐほど組織の屋台骨が揺らいでしまいました。それよりも現在議会外から勢力を伸ばし、人権すら脅かす危険な勢力が迫っています。彼らは移民を敵視し、人権の淘汰を平気で口にし、いざとなれば敵対勢力の暴力すら辞さないかつての共産党のような危険な勢力です。地方はインフラ整備が遅れているから、国家が淘汰すればいいと口にする政治家は本当に恐ろしいです。人権に関することに対して後退することは許されません。それがそのうち「国家に選別された優良種だけが残ればいい」という思想に変形するのだから。そしてその基準が極めて曖昧な基準なのだから。ナチスが純粋アーリア人の基準があやふやだったのと同じ、大日本帝国が軍の都合で亡くなった人を「英霊」扱いせず、一部危険な国家主義者はその曖昧な基準をスローガンに利用しているのと同じです。2010年徳島県教職員組合襲撃事件は全ての労働組合関係者が危険を感じました。当時まだ組合専従になりたての私は、その危険さをあまりよく分かっていませんでした。過激な極右は暴力で世の中を変えることに躊躇しません。その怖さはかつての共産党を知っている人こそ、そして共産党自体も知っておかねばなりません。極右は地方の保守ではなく、かつて社会主義に熱狂したような労働者を支持層に変えているのです。そうした兆候はいたるところに見られます。労働者と労働組合の真に闘うべき相手は資本家でも共産党でもなく、いまだナチスの亡霊に囚われ続けている「アイツら」です。

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