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正義の赤旗ひらめく日

 1980年代労働組合は日本でも世界でも明らかに傾向が変わってきました。社会主義者と同盟を組んでいた労働組合はいつのまにか資本主義体制内で雇用と福祉を守る立場になっていきます。特に輸出セクターの製造業労組にとって福祉は企業内福祉(企業年金や労組による豪華保養地の建設)を意味することになり、企業の利益に協力することで労働者の生活を守ろうと運動方針に変化していきました。それは「小さな政府」と「分割民営化」そして「市場万能主義」と同義でした。そもそも争議を捨て、経営と協力することで企業内利益を労働者に還元し、企業の利益を追求するために政府に圧力団体として行政改革に賛同するのが初期の日本労働組合総連合会のポジションでした。当時の連合執行部の判断は自民党とのチャンネルを増やすべき、民主党に徹底的な行革を求め2大政党を確立すべきなど意見が様々でました。結果鳩山政権が発足するとロビイストであった労働組合が一斉に与党の利権に群がり誰もが関係官庁の大臣政務官になりたがった見たくもない現実があったわけです。彼らの頭には日本、世界の労働者のことなんてこれっぽちもなく自分の組織の利益、ひいては組織貢献を多大にした偉大な人物として歴史に名を残したいという姿勢がアリアリではっきり言ってあんな人間を労組出身だからと言われても全ての労働者の利益になるとは一切思いませんでした。
 民主党政権の崩壊は本格的に日本の労働運動が見放された結果だと断言します。あれ以来労働組合は格差拡大に懸念を示しても、自らも賛同した小さな政府路線と信じていたはずの自社製品が海外市場において骨董品のような扱いをうけるようになりました。企業の衰退に経営陣は一番バッサリ切っていったのは企業内福祉でした。連合の労働者福祉を企業内に求める運動方針は完全に敗れ去ったのです。
 それでは昭和の中期ごろのように戦闘的労組に戻るかどうかというと私含めてほとんどの労組は否定的です。そもそも戦闘的労組が闘争の末解雇になった組合員の補償金があまりに高額になったから労使協調と企業内福祉の拡充に求めたわけです。労働者の立場が悪くなったのは昭和中期の戦闘路線の敗北と80年代から2000年代の新自由主義の受け入れが労働組合自体の求心力が後退した要因です。新たな運動方針を常に模索しなければなりません。


全米自動車労組のスタンドアップ・ストライキ

 全米自動車労働組合(UAW)は物価高における組合員の生活保障を企業に求めました。経営陣は当然突っぱねますがUAW執行部は全面ストライキに方針を変更します。戦闘的な労組が左派と言われ、労使協調的な労組が右派と言われます。正直この分け方も適当なものですが便宜上左右はこの意味として説明します。UAWの会長は選挙で決定しますが左右対立が激しい産別の一つでしたが人事では右派が圧倒的に有利を誇っていました。会社の方針に従っておけば労組役員は退職時に組合費で景勝地に「山小屋」を建ててもらえる。塩路一郎すら達成できない労組指導者の理想郷がUAWでした。当然ですがアメリカ自動車産業はアジア、欧州勢の攻勢の前に利益は減益し一般組合員の給料はほとんど昇給していない現実がありました。2023年地域の草の根運動の末、改革派のショーン・フェインがUAW会長に当選します。そして9月15日にGM・フォード・クライスラーの自動車ビック3の従業員を中心にストライキ闘争に入ります。
 ストライキという団体行動は一斉に職場放棄を実施し、会社の運転を完全にストップさせることで経営陣に改善案を迫る手法であり、よほどのことがない限り短期決戦です。なぜならストライキ中に給料は一銭も出ないからその人件費は全て組合費かカンパに頼らざるえません。長期化を覚悟した経営陣ならいくらでも切り崩せてしまうという大きな欠点もありました。今回UAWが選んだ新戦略「スタンドアップ・ストライキ」は初動は一部の職場でスト闘争を開始し、要求との開きの差次第で第二陣がスト、それでも要求が通らなければ第三陣がストという初めから長期戦を想定した運動手法です。確かにこの手法ならストライキが長引いても、資金調達まで時間が稼げます。このストが始まったとき、多くのアメリカ民主党の議員たちがスト支援を明言しました。そして共和党側もEV批判を展開し、ストは支持しないが自分たちこそ労働者の味方であるという発信も行っています。その典型的な共和党員がドナルド・トランプでしょう。現在UAWは大統領選挙において明確な支持はどの候補にも与えていません。


草の根運動が労働組合を変えるのか?

 アメリカの労働組合も散々御用組合の評価を得て、実際その通りだったので言い訳できません。これは日本の労働組合も抱えている問題です。日本の場合は企業別労働組合が発言権を得ており、ゼンセン同盟のような会長に闘争指揮の権限を持たせる産別は非常に稀です。産別自決、本工組合の末路が2010年から現代までの日本の労働運動の現状でした。
 さてアメリカでは移民排斥が国内問題となっています。移民との摩擦は少ない日本では現役世代の収入を奪っているお荷物が存在する。それは高齢者だと声高に叫ぶ勢力が残念ながら労働組合が支持する政党の中にも一部います。本音ではあるのでしょうが、散々企業福祉を食いつぶし今度は国家の社会保障すら自分の食い扶持にしようとしている一部ダラ幹には退場願いたいです。かつて全逓は旧国労の職場復帰運動には冷淡でした。「連合」に加盟していない国労の雇用問題など知ったことではないというスタンスだったのでしょう。「連合」に加盟した労働組合に対しても産別自決を理由に積極的に介入しなかった人たちなので今後自分が追放される段階になってようやく事の重大さに気づくのでしょうか?
 さてアメリカではウォール街占拠運動や地域の労組が協力し「時給15ドル運動」を展開しました。ウォルマートやマクドナルドなど国際資本に対して最低賃金の大幅引き上げを求めてストライキを実施。大手産別の支援がなく地域の労組が若い市民活動家と大衆運動を実施。一部地域で大した話題にならないと言われた「時給15ドル運動」はいつのまにか全米で270拠点を築くまでに成功。ニューヨーク州やロサンゼルス市など一部地方行政はこの運動と連動する形で全体の最低賃金を昇給させることになりました。
 正直労組の運動家にとって市民運動はすべてを託すに足る同志ではなく一部政策をめぐっては多くの衝突もあるでしょう。脱原発運動がその典型例。私は緑の党サポーターですが、急進的な脱原発運動には反対です。雇用確保の観点から見ても代替エネルギー案が現実味を帯びなければ、また多くの貧困層を生み出します。ただ労働運動と市民運動は協同できると強く思います。労働者は勤労者であり、地球市民です。草の根運動が労働運動を復活させたなら私たちも頭を垂れて地域連動型の国内運動、国際運動の下支えとして新しい社会運動を常に模索するべきです。

赤旗は労働組合の旗です!

 赤旗が労働組合が採用した理由はそもそも国際主義の観点からでした。肌の色や人種が違っても同じ赤い血が流れている兄弟姉妹だ。それが多くの労働組合が組合旗に赤旗を採用した理由でした。それをゆがめたのはレーニンのボリシェヴィキとスターリンのソ連共産党でした。
 日本の労働組合も左右限らず赤旗を採用していましたが、冷戦終結後変更した組織も数多く組合旗がどこかのスポーツチームのような派手なデザインな組織も増えてきました。UAWの組合旗は青のようで赤旗がひるがえるkとはありませんでした。ただストライキ傘下の組合員は皆おそろいの「赤」のシャツを着てシュプレヒコールを上げていました。
 労働運動は死なず、草の根から再び復活する。長引く、下手をすれば1年以上の超長期戦になると言われていたUAWのスタンドアップ・ストライキは長期化を嫌った経営陣を心を折らせるのに十分でした。スト開始から2カ月もたたないうちに大幅な昇給を勝ち取ること報道がされています。
「私たちは少数の人々が多くのものを得て、多数の人がわずかなものしか得ることができない社会を拒否する。ウォール街の株主は理解せねばならない。私たちは寡頭政治に生きることを拒否する。少数の人が多く持ち、多数の人がほとんど何も持てない社会を受け入れることはできない。
兄弟姉妹よ。もうたくさんだ。企業の貪欲さを終わらせるために立ち上がろう!消えゆく中産階級を復活させるために立ち上がろう!1%の人々ではなく、全ての人に働く経済を作り上げよう!そして全てのアメリカ人がUAWのために立ち上がろう!ご清聴ありがとうございます。」
バーニー・サンダースは今や世界最強の労働組合組織内政治家となりました。この演説はUAWストライキの初日、バイデン大統領より先にバーニーが労組支援の演説をうちました。現場の熱気が演説から聞こえてきそうです。全てが全てバーニー・サンダースが正しいわけではありません。非常に抽象的で一種ポピュリズムも感じる演説です。ただ一応労働組合運動の末端としてここで熱くならない理由もないんです。労働運動よ、重圧に苦しむ全ての兄弟姉妹を救うため、同志一同立ち上がれ。労働運動は常に大衆の後方に立ち真に苦しんでいる人たちのために最前線で闘う。日本の労働運動は必ず蘇る。

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