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その61)銀行員だったハヤシさんの変遷

※これは、作者が想定するベーシックインカム社会になった場合を想定した、近未来の物語です。

ハヤシさんは35歳までは地方銀行に勤めていたが、AIなどのテクノロジーによってどんどん仕事がなくなってきたのと、行内の出世競争に敗れたこともあり早期退職した。

ちょうどその頃、ベーシックインカムが始まった。最初は月1万円という形で、これでは生活できないので、自分のスキルを活かし、とある小さな食品製造会社の経営役員になって資金繰りのサポートをしたりしながらしのいでいた。他所の会社に比べDX化などが遅れていたため、手伝うことも多かった。ブルーカラーもそのうちロボットなどによる自動化の波が来ると思っていたので、贅沢はせず、株式や債券、不動産などの資産形成を頑張っていた。

10年ほど経ち、大手企業では工場や運送会社などの人員が汎用ヒト型ロボットに代わり始めた。人間が担当していた最終検査や機械の調節、工場内の運搬車の運転もロボットが人間よりも安価にこなすようになった。大手企業は後継者不足に悩みながらも良い商品を作っている会社にM&Aを持ちかけられるようになった。実質、ロボットに切り替わっていくため、これで多くの人が失業する自体になった。

ハヤシさんもその波に飲まれ、会社の経営からは退いた。工場はセンターからの遠隔操作で管理されるため完全無人となった。運が良かったのは工場の土地は権利を持てていたので、僅かだが借地代が入ることだ。

ベーシックインカムは月7万円になっていたので、多くの人は失業しても生活費にすぐに困るということはないが、住宅ローンが払えない人が続出する恐れが出てきたので、政府はすでに建っている住宅に対しては救済のための補助金を出した。それでも手放さければならない人は出たようだ。その家は競売にかけられ、数家族が住む賃貸のシェアハウスとして生まれ変わることとなった。

ハヤシさんは資産形成を頑張っていたおかげで、ある程度の資産があり、それを元手にさらに賃貸物件をいくつか所持するオーナーとなった。

とはいえ、企業経営の仕事はなくなった。まだまだ若いのでなにかしたいが、これといって趣味もない。どうしようかと悩んでいたところ、自信が経営する賃貸物件で生活トラブルが起きた。それを解決しようと動いているうちにハヤシさんはそのトラブルは地域のコミュニケーション不足が大きく関係していると知る。

ならばと、ハヤシさんはおせっかい役を買って出ることにした。自分の物件もその近所も含め、皆が気持ちよく暮らせるように働こうと決めたのだ。お金にはならないかもしれないが、平和にはなる。もともと人と関わっていくことは銀行時代から好きだったので性分には合っているようだ。

現在は、自治会運営の共同農園とゴミ問題について、積極的に人と会っている。

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