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第二章 意志と選択性 はじめに

前章「価値と適合性」において、物事の意味、および、状況におけるその〈意義〉を考察した。すなわち、〈意味〉とは、それぞれの物事に固有本質的な機能(他の物事への影響)であり、物事は、所与の状況において、その固有の〈意味〉によって、また、偶然の配置によって、〈意義〉(存在意義)を派生し、別の物事を適合(不適合)させる〈背景事象〉となる。このような〈意義〉は、一般には、無前提にあるものではなく、意図的に作られたものであることが多い。すなわち、ある状況において、さらなる特定の脈絡が主体に意志され、この主体に意志された脈絡との関係においてのみ、物事の〈意義〉としての〈価値〉が決定される。では、脈絡への主体の〈意志〉とは何か。これが本章の課題である。

旧来、経済における人間の生活の理解は、おうおうに統計や確率によって処理されてきた。しかし、前章であきらかになったように、個別的状況に関しては、選択の余地があるとはいえ、その選択の余地もまた論理を内在させている。本章では、さらに、この選択そのものに内在している論理を解明しようとするものである。というより、まさにこの選択性ということにこそ、生活主体の論理が内在している。たとえば、川に浮かぶ葉は、岩に当たって右に落ちるか左に落ちるかを選択したりはしないが、人間は、分かれ道を右に行くのも左に行くのもけっして偶然ではなく、かならずそこに選択がある。〈価値〉とは適合性そのものであったように、〈意志〉とは選択性そのものである。

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