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置いていかないで

4月になった。春を感じるぽかぽかとした陽気が、気持ちいいけれどどこか落ち着かない。春は、世の中全体が一歩前に進んだような空気感があって、わたしはまた一歩分、置いていかれたのだなあと感じる。

数年前までとなりを歩いていたはずのあの子は、今は二歩、三歩、いや、もっと先を歩いている。わたしが転んだり、立ち止まったりしている間にも着実に進み続けていたのだからあたりまえだ。
できることなら一緒に歩いていたかった。けれどもう、わたしとあの子では歩いている道が違うのかもしれない。わたしの一歩と、あの子の一歩。昔は同じだったはずなのに、今は変わってしまったのかもしれない。
もう同じ道を同じ歩幅で歩けることはないと分かっているのに、一体どこで間違えてしまったんだろうといまだに思う。わたしは、わたし自身を受け入れられていない。

いつしかわたしは、普通に歩けなくなっていた。
生きることで精一杯なわたしが一生懸命踏み出している一歩は、みんなにとっては大したことない一歩なんだろう、きっと。
着実に人生のコマを進めるみんなと、同じコマで足踏みするどころか一歩進んで二歩退がってしまうようなわたしとでは、違うのだ。それが、現実。

ああ、置いていかないで。

春になると、そんな思いが溢れてくる。春がくるたび、理想と現実、わたしとみんなとの差は大きく広がっていく。その事実が惨めで情けなくて、泣いてうずくまってしまうけれど、そんなことをしている間もみんなは進み続けている。差は広がっていくばかり。
少し前まではそれでも追いつきたくて頑張ろうとしていたけれど、今はもう頑張れなくなってしまった。どれだけ頑張ってもきっと追いつけないと、あの子のとなりを歩くことはできないんだろうと、気づいてしまったから。昔に思い描いていた、いわゆる普通の人生のレールから外れ、もう戻れないと気づいてしまったから。

置いていかれてばかりのわたしは、ここから一体どうやって生きていけばいいのだろう。どんな一歩を踏み出せばいいのだろう。頑張り方も、歩き方も分からなくなってしまって、どうしたらいいのだろう。

今年もまた春がきて、また置いていかれたわたしは、もはやなにをどう頑張ればいいのかが分からない。ただ、先をいくあの子の背中を眺めながら、置いていかないでと思うことしかできなかった。

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