ガードレールに乗っていた『プーさん』の話。
こんばんは。ネコぐらしです。
本日、お昼の散歩中に出くわした光景が記憶に焼き付きました。
何の変哲もない、横断歩道の手前。
まるで道路を渡る歩行者を見守るように『くまのプーさん』のぬいぐるみが、そっとガードレールに置かれていたのです。
君はなぜそこにいるんだい?と当然の疑問が湧くとともに、無性に写真に収めたい気持ちに駆られました。
しかし、ネコぐらしは散歩するときくらいはデジタルから隔離されたいと思っている生物なので、あいにくスマホを作業場に置いたまま。
このときばかりは「しまった!」と思いました。
急いで作業場に引き返しスマホを引っ掴んで、元の場所へ。どうか無くなっていませんようにと願いながら、無事その願いが成就されたことに胸をなでおろしました。その時に撮影した一枚が今回のサムネで挙げた『ガードレールのプーさん』です。
誰か見知らぬ人の優しさ
いつから、彼がここに置かれているのかは分かりません。
ですが赤いTシャツに黄色がかった図体は、パッと見てやはり目を引きます。街行く人たちも一瞬戸惑った様子。あるはずのない場所にある”何か”の正体を確認しようと目を見張る。
しかし、何気なく道路を見守っている彼がくまのプーさんだと気付くと、ホッとした様子でついでに心も癒される。(流石に写真を撮っていたのは私ぐらいなものかもしれませんが。)
まじまじと見つめていると、不思議と在るべき場所に収まっているような、そんな自然さをむしろ感じてくるのです。
おそらくは、誰かの落とし物なのでしょう。注意散漫な子供がうっかり落としてしまったのか、あるいはプーさん好きのOLさんのカバンから落ちてしまったのか。流石に、故意にガードレールに設置してそのままにするというのは考えにくい。
道路に落ちていたプーさんを、これまた見知らぬ誰かが拾ってそっとガードレールの上に乗せたのでしょう。丁寧に道路側を見守るような形で置いてあるのが憎いところ。
『落とし物は交番に』なんて教えられたモラルが心に働きかけようとする。
もしも、ぬいぐるみでなく現金や財布が落ちていれば、そのモラルは正常に起動するかもしれない。しかし、ぬいぐるみっという何とも言えない立ち位置のモノは、おおよそスルーされてしまう。
だが、これを拾った見知らぬ誰かは、きっとユーモアに溢れ、優しい心の持ち主だったの違いない、と私は思ったのです。
地面でなく、ちょうどよい高さに。しっかりと足を固定させて、落ちないように。道路の反対側、赤信号で停まったときなんて、まさにプーさんと目が合うように、考えられて配置されている。
拾った当人は愉快な気分で仕掛けたことでしょう。
仮に私がこの一帯を取り仕切る自治体の構成員でも、このプーさんを回収するかどうかは大いに迷ってしまう。ここにあるぬいぐるみには、どこか人の温かな意図が宿っている。もちろん、雨ざらしになってしまえば、凄惨な姿で再び道路に落ちたぬいぐるみが回収されて破棄される未来は目に見える。
このまま地面においておくには可哀想だし、とはいえ交番に届ける程かといえばそうでもない。ネコババするほどの衝動もない。だけどこの身近なガードレールの上というのは、なんとも収まりがいい。たぶん、ここ以外に正解がない。最適解がここであるような気がするのです。「落とし物」には変わりないけれど、見た人がちょっと癒やされる、そんな適度な「落ち方」なのだ。
これが、私の中にある「自然さ」の正体なのだろうと、勝手に納得していました。実際には全く違うかもしれないけれど、こんなハートフルなストーリーをでっちあげてもバチは当たらないだろう。
この光景にであえた私は、なんだか幸運な気がする。
ちょうど探そうと思ってなかった四葉のクローバーを見つけたような、そんなささやかな特別感。
これも何かの縁かもしれない。
少しだけ時間をさいて、この『くまのプーさん』について話してみたくなったのです。
『くまのプーさん』を巡る利権の話。
国民的に留まらず、全世界的キャラクターとして人気を博しているくまのプーさん。一時期、彼の生い立ちが気になり必死に調べた時期(※)がありました。
(※ウォルトディズニー社とスクエアエニックス社が手を組んだ『キングダムハーツ』という伝説的ゲームに、くまのプーさんが登場した時です。)
彼のその愛らしいルックスとは裏腹に、プーさんを取り巻く環境は凄絶なものでした。
イギリスの児童文学者アラン・アレクサンダー・ミルン。
彼の息子であるクリストファー・ロビン・ミルンが、どこに行くにも一緒だったテディベア人形から着想を得て執筆された児童小説が『くまのプーさん』の始まりです。
ディズニーによってアニメーション化される以前、40年も前の1926年の話です。
アニメーション化されるまでの40年の間、ベストセラーとなった『くまのプーさん』のブランディングを支えていたのはステファン・スレシンジャー社。
今で言う知的財産(IP)権の保護を条件に、「くまのプーさん」の広告展開や商品化を世界各地で取り付けました。
当時はまだIPという概念がほぼない時代ですので、いかにこのステファン・スレシンジャー社が時代を先取りしていたのか、驚くべき話でもあります。
※現在「くまのプーさん」はIP収入による世界第三位の売上を計上している。
しかし、原作者であるA・A・ミルンが亡くなったのを契機に、アニメーション制作によって多大な利益を産み出したウォルト・ディズニー社と、ブランディングの先駆者であるステファン・スレシンジャー社の間で熾烈な利権争いが勃発することになります。
結果的には、原作者の遺族や子孫も交えて三つ巴の風体をなすのですが、最終的には長くIPの保護に尽力してきたステファン・スレシンジャー社側の訴えが認められることとなり、騒動は集結しました。
三者間に禍根を残す出来事でした。
自由になった『くまのプーさん』
しかし、実はごく最近この禍根すら洗い流す転機が訪れます。
『くまのプーさん』著作権保護期間の終了を迎えたのです。
各国の著作権保護期間にはラグがありますが、日本では著作物製作時点から死後70年が保護の期間と定められています。2023年現在では、すべての国で『プーさん』のパブリックドメイン化が認められました。
このタイミングで製作されたのが映画『プー あくまのくまさん』です。
発表された当初は「え!?ディズニーがこれ認めちゃったの!?」とびっくりした記憶があります。
しかし、プーさんは文字通りパブリック(共有物)になっておりディズニーは著作に対してなんら権利を保持していません。
もちろん、ディズニー社から出版した書籍グッズ映像作品については、以前ディズニー社のものです。
ですが「くまのプーさん」というキャラクターそのものに関しては、自由で開かれたものになったのです。
極端な物言いになってしまいますが、もう誰もが「プーさん」を名乗っちゃってもいいのですし、新しく彼の物語を書き綴っても良いのです。
『くまのプーさん』による小さな世界平和。
くまのプーさんの世界には登場人物として、原作者の息子ロビンが登場します。
当時ミルンは、まったくの子供であったロビンの想像力を物語に仕立てて、平和の在り方を世界に伝えたのです。
国境を超えた無垢な平和は、ソビエト連邦であった時代のロシアにさえ伝搬しました。
1969年、ソ連国内で『ヴィンニ=プーフ』という「くまのプーさん」原作のオリジナルアニメーションが製作されています。(ちなみに見た目は完全にタヌキですが、れっきとしたクマだそうです。)
日本でも、最初のくまのプーさんは岩波書店からの小説でした。そこから紙芝居を経て、ディズニーの国内進出をキッカケにプーさんブームは各地で巻き起こります。
しかし、世界へ平和が伝搬していく様子とは裏腹に、様々な利権抗争に巻き込まれ、ミルン一家は深すぎる因縁を抱えることになります。
当時、クリストファー・ロビンという名前はまったくの実名でした。
結果的に、彼の息子含めてミルン一家は世界的に讃えられる人物ではありましたが、同時に近所の住人や友人たちからは敬遠されるような存在になってしまった。
ロビンが成年後も「十分に儲けているだろう?」と揶揄され続け、職につくことも叶わず、満足な社会生活を送ることが叶わなかったそうです。
次第に「くまのプーさん」という作品、しいては父親に怒りと憎しみが隠せなくなったと語っています。
最終的に、ロビンは父を許しました。しかしそれはA・A・ミルン死後20年後、ロビンの手記の中で語られた懺悔と許しの言葉としてでした。生前の時間では到底、父は許すことができなかったのでしょう。
当時のロビンの痛烈な怒りを、下記に引用します。
ロビンはこの苦難を乗り越えて人生を謳歌し、1996年にその生涯に幕を閉じました。
そこから28年、現在彼ら親子の作り出した平和は、様々な枷から解き放たれ、まさに自由の象徴になったのです。
そんな記念すべき、はじめての自由が「くまのプーさんのホラー映画」というセンセーショナルな作品なのもなんだか奇妙な話ではありますが、まぁきっと天国のミルン親子も笑って見逃してくれることと信じましょう。
最後に
この日は不思議なことに、普段気にもしないはずの「空」に、意識をよく吸い込まれました。見事な巻雲が映える気持ちのいい「空」でした。
本来であれば、プーさんの作中に登場する「100エーカーの森」のような場所でこんな空を眺めてみたいものですが、あいにくのコンクリートジャングル住まい。なかなか羽を伸ばすにも労力が要ります。
ジャングル住まいの私達が最も身近に感じられる唯一の自然が「空」。そんな自然に目を向けられるほどに、のびのびと健やかに、プーさんのようにのんびりと。
そんな気持ちにさせてくれた、ガードレール上のプーに、ちょっぴり感謝したい今日このごろでした。
余談:リアルな『100エーカー森』
ちなみにですが、くまのプーさんの舞台でもある「100エーカーの森」は、観光地としてもにぎわっているそうです。原作者ミルンが避暑地として家族を連れて過ごしたハートフィールド村。
世界各国からファンが訪れるそうで、イギリスの辺境みたいな立地にも関わらず、こんな日本語に対応したような看板まであるのだとか!世界平和の波動を感じさせます…。
一介のプーさんファンとして、死ぬまでには拝んでみたいものです。
・・・・・・しかし、いつになることやら~🐈
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