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伝統とは、幻想とは。

月の下、竹灯籠の明かりが揺れていた。
安らぎを求めて集まる人々が寺町を散策し、その路地に灯る無数のろうそくは、ぴったり人数分あるかのように各々が安心感を受け取っていた。
時折やってくる夜風が背中を押すから歩き出せる、そんな夜だった。

屋根の上に、影が一つ。
月光には決して当たらぬよう、そして夜風に衣擦れが届かぬように一匹の鬼が寺の屋根瓦に胡坐をかいていた。
琴、三味線、尺八、和太鼓。古典の音色が奏でられた日々を思い出し、ここに腰を下ろした。そんな遠い昔に聞いた音を懐かしみながら、寺の中から聞こえる音楽に幻想を見る。音色に混ざるピアノにハーモニカ、クラシックギターが音楽の厚みを増す。それでも尚、古典の音色を奏で続けているのは不思議なものだと鬼は見下ろす。

夜が暗さを取り戻す時期に集まる子供たちに、老人たちは話して聞かせる。
「昔、この村には鬼がいた」と。それを見た者もいたと。
満月の綺麗な夜は、明るすぎる。
竹を袈裟に切るのは影をつくるため。鬼を見付けないように。

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