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70年代ファッションとブラックスプロイテーション映画

先日、会議前に若い女性社員と雑談していたら「今年は70年代ファッションが流行」という話が出た。

70年代ファッションというと思い浮かぶのは「ヒッピー風」「濃いメイク」「ブーツカット」ということだった。

いや、70年代に流行したのは、ブーツカットというよりむしろベルボトムじゃないのかと思った。ブーツカットに比べてベルボトムは裾の広がりが大きい。

青年期に70年代を過ごしたわけでも、ファッションの流行に詳しいわけでもないが、若い女性社員との会話でふとそう思ったのは、ベルボトムを履いた人がたくさん登場する、70年代のブラックスプロイテーション映画を一時期多く観ていたせいでもある。

ブラックスプロイテーション映画とは?

70年代前半、低予算で大量に作られた映画にブラックスプロイテーション映画がある。

これは、黒人スタッフによる、黒人キャストが出演する、黒人観客向けの映画のことを指す。1971年の『スウィート・スウィートバック』と『黒いジャガー』をきっかけに、1970年代後半までに約150本が製作された。

ブラックスプロイテーション映画は低予算で作られており、迫力ある映像とは程遠い。ストーリーも単調といってよい作品が多い。しかし、予算をかけた迫力の映像や、凝ったストーリーだけが映画の魅力ではない。ブラックスプロイテーション映画の特徴と魅力をあげると、以下のようになる。

70年代を感じるファッション

ブラックスプロイテーション映画は、西部劇のような時代物もあるが、多くは70年代を舞台にした現代劇となる。そのため、リアルな70年代ファッションを楽しむことができる。

随分と裾が広がったベルボトムを履いた人がたくさん登場するし、アフロヘア、特大サングラス、カラフルなシャツやパンツ等々、70年代を感じるファッションの数々を見ることができる。

70年代を感じるミュージック

音楽に詳しくないが、それでも、70年代の音楽と感じられるファンクやソウルといった音楽が印象的な点も、ブラックスプロイテーション映画の特徴となる。

『黒いジャガー』(1971年)や『吸血鬼ブラキュラ』(1974年)など、軽快な音楽をバックにしたオープニング・クレジットが印象的な作品も多い。

大味な演出

ブラックスプロイテーション映画は、大味もしくは雑な演出で作られている。アクションシーンは迫力がないし、テンポが良いとも言えない。

それらは、最近の映画では見られないもので、そのためその大味な演出が、レトロ感や独特の味を生み出し、ブラックスプロイテーション映画の魅力となっている。

お決まりのラブシーン

ブラックスプロイテーション映画では、ラブシーンとヌードシーンがお決まりのように登場する。ストーリーと関係なくても、やけに濃厚なラブシーンが長々と続くこともある。

70年代は、まだアダルトビデオもなく、ポルノ映画全盛期といってよい時期であり、アメリカにおいては1968年のポルノ映画解禁後、大量のハードコアポルノが作られた。日本では日活ロマンポルノが作られた。

ブラックスプロイテーション映画のお決まりのラブシーンで、70年代、エロを楽しむ主役は映画だったことを知ることができる。

レトロな雰囲気

70年代を感じるファッション、音楽、大味な演出やラブシーンで作られるのは、独特のレトロ感となる。

下記のyoutube動画は、ブラックスプロイテーション映画の大スター女優パム・グリアが空手アクションを披露する『フォクシー・ブラウン』(1974年)の予告映像となる。

この予告映像では、くすんだ緑色を背景に、アフロヘアにベルボトムのパム・グリアが空手の動き披露しており、ポップなタイトルフォントと合わさって、キッチュともいえるレトロ風味を醸し出している。

ブラックスプロイテーション映画のレトロな雰囲気とは、こういうことである。

これら、ブラックスプロイテーション映画の魅力が詰まった作品をいくつか紹介したい。

ブラックスプロイテーション映画傑作選

コフィー(1973年)

ブラックスプロイテーション映画の傑作となれば、この作品をあげたい。

主人公の看護婦コフィー(パム・グリア)が、麻薬中毒になった妹の敵討ちのため、麻薬組織に戦いを挑んでいく。パム・グリアのダイナマイト・ボディを使った色仕掛けから、ショット・ガンを撃ちまくって犯罪組織を倒していく爽快な作品となっている。

また、アフロヘアのパム・グリアが着る、水玉のワンピースや大きなサングラス、ロングブーツなど、70年代ファッションを満喫できる作品でもある。

作中流れる音楽の多くが、パム・グリア主演のタランティーノ監督作『ジャッキー・ブラウン』(1996年)で使用されており、『ジャッキー・ブラウン』を観た人だったら「あの曲!」となる作品でもある。

黒いジャガー(1971年)

ハーレムを仕切るボスから、誘拐された娘の救出を依頼される私立探偵の活躍を描いた作品で、ブラックスプロイテーション映画といったら大体名前が挙がるであろう作品である。

テンポが良いとはとても言えないダラダラとした展開となるが、それもまた、味わいとして楽しめる。

そして、「Shaft!」(※ Shaftとは主人公の名前のこと。原題は『Shaft』である)と高らかに歌うオープニングは、抜群にかっこいい。

スーパーフライ(1972年)

ブラックスプロイテーション映画の代表的作品は『黒いジャガー』となるが、ブラックスプロイテーション映画が大量に作られる実際のきっかけとなったのはこの『スーパーフライ』と考えられる。

なぜなら『黒いジャガー』はしっかりと予算もかけられた作品だからで、『スーパーフライ』は『黒いジャガー』の十分の一ほどの低予算で作られ、そして大ヒットを記録している。『スーパーフライ』が低予算でもヒットさせられることを証明した後、低予算のブラックスプロイテーション映画が量産されていく。

本作は、麻薬の売人をしている主人公が足を洗うことを決め、最後に大きな取引を企てるストーリーとなるが、何より敵の親玉を倒すラストが爽快な一作である。個人的には『スーパーフライ』のラストの爽快さは、ブラックスプロイテーション映画の中でも随一と思っている。

また、カーティス・メイフィールドが歌う主題歌『プッシャーマン』が印象的で、本人も作中に登場し、プロモーションビデオな雰囲気の中歌い上げる。

吸血鬼ブラキュラ(1972年)

ブラックスプロイテーション映画は『黒いジャガー』や『スーパーフライ』などが有名作で、そのため、どうしても麻薬売人やマフィアが登場する映画をイメージしてしまいそうだが、実際は多様な作品が作られている。

その一つがホラー映画で、ブラックスプロイテーション映画における代表的なホラー作品といえば『吸血鬼ブラキュラ』になる。

18世紀、ドラキュラ伯爵によって吸血鬼にされ棺桶に封印されたアフリカの王子が、20世紀に復活。王子の正体を知った警察に追い詰められていくストーリーで、作品のジャケットなどからふざけた内容をイメージしてしまうが、意外に真面目な作りになっている。

また、アニメーションをバックに疾走感ある音楽が奏でられるオープニングクレジットは、ブラックスプロイテーション映画の中でも随一といえるほど、かっこよさがある。

黒帯ドラゴン(1974年)

ブラックスプロイテーション映画で、多く作られた作品の一つが空手映画で、その代表的作品が『黒帯ドラゴン』(1974年)となる。

ブルース・リーの『燃えよドラゴン』(1973年)で、存在感を発揮していたアフロの格闘家兼俳優ジム・ケリーが主演を務める作品となる。街の空手道場を地上げしようとするマフィアに対し、ジム・ケリー演じる道場の卒業生が戦いを挑んでいく。

ファンク・ミュージックをバックに、スローモーション多用のジム・ケリーの空手アクションが炸裂し、監督は『燃えよドラゴン』と同じロバート・クローズが務めているが、個人的には『燃えよドラゴン』よりこの『黒帯ドラゴン』の方が断然面白い。

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