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ホラー映画を進化させた人 マリオ・バーヴァ

ホラー映画の監督といえば、どんな名前が思い浮かぶだろう?

現在活躍しているホラー映画監督といえば、『ソウ』や『死霊館』のジェームズ・ワン、もしくは『ミッドサマー』のアリ・アスターの名前があがるかもしれない。

日本だったら、清水崇、黒沢清だろうか。

古い時代に目を向ければ、『フランケンシュタイン』と『ドラキュラ』の二大シリーズを持つテレンス・フィッシャー。ゾンビの生みの親、ジョージ・A・ロメロ。『悪魔のいけにえ』でスラッシャー・ホラーを確立したトビー・フーパー。『死霊のはらわた』でスプラッター・ホラー・ブームを巻き起こしたサム・ライミ。そのような名前を思い浮かべる人がいるかもしれない。

しかし、忘れてはならないホラー映画の監督がいる。日本で知名度は高くないが、1960年代〜70年代にホラー映画を多数発表したイタリア人映画監督、マリオ・バーヴァである。

マリオ・バーヴァという人

マリオ・バーヴァの世界に魅了された映画人は、マーティン・スコセッシ、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートンなど数多い。大林宣彦が、自身の少年時代を描いたテレビドラマ『マヌケ先生』の主人公の名前を、マリオ・バーヴァをもじった馬場毬男(ばば・まりお)としたのは有名な話だ。

マリオ・バーヴァとはどのような作品を作る監督だろうか。それは、大林宣彦が愛した監督、というのが一番イメージしやすいのではないかと思う。

大林宣彦監督の作品といえば、デビュー作である『HOUSE』を皮切りに、尾道三部作など、一言で言ってしまうと”変な映画”を作る人である。ストーリーは現実からかけ離れたファンタジー。安っぽい合成映像が目立つ。また、役者たちもなんだか変である。棒読み演技でワザとらしい。リアリズムとは対極にありそうな、作り物感満載の映画である。

しかし、その作り物感、またはヘンテコ感、それらこそが大林作品の魅力であり、そのあまりに独特な世界が、一度見ると忘れがたい強烈な印象を残す。

大林監督はこのような世界を、ファンタジー映画において、ノスタルジーを加えた作品として作り上げた。

マリオ・バーヴァの作品もまた、リアリズムとは違う。作り物感が強く、不気味で幻想的な世界を描く。

原色を多用したカラフルな色彩で彩られた画面。古城や屋敷など、優美な雰囲気の舞台が多用される。不気味で、そして、幻想的。そこで、血が流れる残虐描写が繰り広げられる。また、恐怖を盛り上げる場面では、観客にカメラの存在をわざと気づかせるように、カメラのズームを多用する。

これらがマリオ・バーヴァの世界であり、そしてその世界は、非常に独自の世界である。

タランティーノやティム・バートン、そして大林宣彦のように、個性的世界の作品を撮る監督たちが絶賛するのも頷ける。

一度観たら忘れがたい独特の世界を作るマリオ・バーヴァ、今回、彼の世界を堪能できる作品を4つ、紹介したい。

マリオ・バーヴァの世界を堪能できる4作品

知りすぎた少女(1963年)

マリオ・バーヴァ初期作品で、ホラー映画ではない。アメリカからローマに来た女性を主人公に、彼女が目撃した殺人事件を描いたスリラー映画である。

この作品は、ジャッロ映画の元祖と呼ばれる作品でもある。ジャッロ映画とは1960年代~70年代、イタリアで多数製作されたのミステリー、もしくはスリラー映画、その中でも猟奇的で、凝った殺人シーンが特徴的な作品群を指す。

そのジャッロ映画の最初の作品と位置付けられるのが、このマリオ・バーヴァの『知りすぎた少女』である。

バンパイアの惑星(1965年)

未知の惑星に降り立った宇宙船の隊員たちが、次々と殺されていくSFホラーである。

コウモリ型の宇宙船、ドラキュラのような隊員の服装、セット感が満載の宇宙船内、船外の様子など、バーヴァらしい不気味で幻想的な世界が楽しめる。

この作品は、リドリー・スコット監督のSFホラーの傑作『エイリアン』に影響を与えているといわれている。

呪いの館(1966年)

マリオ・バーヴァの世界を知りたいという人がいれば、この作品を観るのが最もよいかもしれない。

田舎の村を舞台に、少女の幽霊に村人と検死解剖に訪れた医師が襲われるホラー映画で、墓地や少女の幽霊が出没する館は、赤・緑・青といった原色を活用したバーヴァならではの世界観を構築している。

ジワジワと恐怖を感じさせる演出は、後のジャパニーズ・ホラーへ影響与えた作品とされている。

血みどろの入江(1970年)

ある資産家の入江に集まった若者達が何者かによって次々と残虐に殺されていく。さらに、資産家の財産を狙う関係者もまた、次々と殺されていくというスラッシャー・ホラーの先駆的作品である。

実際、スラッシャー・ホラーの人気シリーズ『13日の金曜日』の元ネタは、この『血みどろの入江』である。

また、前半、若者達が惨殺されるシーンは、斧で頭をカチ割られたり、セックスしている最中、槍で串刺しにされたりと、ストレートな残虐描写のインパクトが強い。

このような残虐描写は、当時非常に画期的であり、後にブームを起こすスプラッター・ムービーの最初期の作品といえる。

ホラー映画を進化させた人

これら作品でわかるのは、マリオ・バーヴァの独特の世界とともに、驚くべきは、その先駆性である。

  • 『知りすぎた少女』は、ジャッロ映画の原点

  • 『バンパイアの惑星』は、SFホラーの傑作『エイリアン』へ影響

  • 『呪いの館』は、ジャパニーズ・ホラーへ影響

  • 『血みどろの入江』は、スラッシャー・ホラーとスプラッター・ホラーの先駆的作品

その後の各種ホラー映画へ大きな影響を与えているのである。ホラー映画において、後世に多大な影響を与えた人、それがマリオ・バーヴァなのだ。

つまり、マリオ・バーヴァは、ホラー映画を進化させた人といってよい。

しかし、日本におけるマリオ・バーヴァの知名度は低いと言わざるを得ない。

現在は動画配信サービスやDVDで、手軽にマリオ・バーヴァの作品を観ることができる。上述した作品以外にも、不気味で優美で幻想的な世界を味わえる『処刑男爵』や『リサと悪魔』といったゴシック・ホラーなど、マリオ・バーヴァ作品は多くある。ホラー好きの人は当然に、または、ホラーは苦手という人も、独特なマリオ・バーヴァの世界を一度味わってみるのも、面白い経験になるかもしれない。

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