『2001年宇宙の旅』とドラえもんのひみつ道具
映画のオールタイムベスト100のような企画があれば、決まって上位にランクインする『2001年宇宙の旅』(1968年)。
空前絶後のSF映画と言われ、スタンリー・キューブリック監督の最高傑作と言われる本作だが、それと同時にこの作品は常に「難解」というフレーズが付きまとう。
しかし『2001年宇宙の旅』のストーリーは至ってシンプルで、ストーリー自体は難解ではない。
『2001年宇宙の旅』は難解ではない
『2001年宇宙の旅』は、人類が黒い板(モノリス)に触れることで、猿人から道具を使うヒトへ進化し、さらにヒトから次世代人類に進化する話となる。
ストーリーはこれだけで、至ってシンプルといえる。時間軸や登場人物が複雑に入り組んだ話でもない。
しかし『2001年宇宙の旅』は、映画の中で様々な謎を残し、その謎を明かすことなく終わる。そのため鑑賞する側の理解力が試される。また、各人によって様々な解釈が行われる。これが難解と言われる所以と思われる。
代表的な謎は、以下の4つになる。
この4つを理解すれば『2001年宇宙の旅』はすんなり見られるし、難解ということにはならない。
これらの謎は、鑑賞者が自由に解釈すればよいと思うし、どうしても答えが気になる場合は、アーサー・C・クラークの原作(スタンリー・キューブリックとの共著)を読めば、答えは全て書いてある。
もしくは、日本を代表するSF漫画、我らがドラえもんの映画作品『ドラえもん のび太の創世日記』(1995年)とセットで見れば、4つの謎、さらに『2001年宇宙の旅』の世界観について理解が進むものと考えられる。
モノリスは進化退化光線銃
『2001年宇宙の旅』では、400万年前、地上に突如現れたモノリスを猿人が触ることで進化する。時は流れて2001年、宇宙開発するまでに進化した人類は、再びモノリスに触れて次世代人類へと進化する。
『ドラえもん のび太の創世日記』では、のび太が夏休みの宿題にドラえもんのひみつ道具「創生セット」で新しく地球を作る。
のび太が作ったその地球で、意図せず進化退化光線銃(光を浴びると進化したり退化する光線)を浴びた小さな虫が、その後人類とは別の知的生物として進化し、地下世界を作る話である。
つまりモノリスは、ドラえもんの進化退化光線銃と同様に、触ると進化を促す物体ということであり、それ以上の意味は特にない。
そして『2001年宇宙の旅』において誰がモノリスを作ったのかというと、「創生セット」で作られた地球人からすれば、進化退化光線銃を持ってきたのが異世界の人=神様=ドラえもんとのび太であるのと同様、『2001年宇宙の旅』の地球人から見た異世界の人=神様=宇宙人がモノリスを作ったということになる。
スターゲートはタイムマシン
『2001年宇宙の旅』はラスト30分、ボーマン船長が見る光の映像が延々と流れる。この光の映像はスターゲートと呼ばれるが、これは即ちのび太の机にあるタイムマシンにあたる。
スターゲートは、『2001年宇宙の旅』の人類からすると時間の進み方が異なる超空間(もしくはタイムトンネル)であり、ドラえもんのタイムマインで移動する超空間のようなものと理解しておけば十分である。
白い部屋はのび太の部屋
スターゲートを抜けると、異様な白い部屋に辿り着く。
スターゲートをドラえもんの超空間(タイムトンネル)とすると、超空間を抜けてのび太の机の引き出しを開けたら、辿り着くのはのび太の部屋である。つまり『2001年宇宙の旅』の白い部屋は、のび太の部屋にあたる。
タイムマシンという超空間の先、のび太の部屋は何の変哲もない部屋である。しかし「創世セット」で作られた地球人から見ると、奇妙で異様な異世界の部屋と映るはずである。
だから、『2001年宇宙の旅』でスターゲートという超空間の先の異世界=白い部屋も、ただの白い部屋が「ここはどこ?」という異様な空間のように見えるのである。
スターチャイルドはドラえもん
スターゲートと白い部屋の後、巨大な赤ん坊スターチャイルドが地球を見ている姿が流れて『2001年宇宙の旅』は終わる。
このスターチャイルドに対して何の説明もないから「何これ?」となるし、そういう意味では『2001年宇宙の旅』最大の謎ということになるのかもしれない。
このスターチャイルドは、『ドラえもん のび太の創世日記』において、「創生セット」で作った地球を眺めているドラえもんとのび太の姿である。
モノリスに触れて進化し、スターチャイルドに進化したボーマン船長は、それまでは地球に住む人類の一人に過ぎなかった。
しかし、スターチャイルド=次世代人類になると、異世界から地球を眺める人類を超越した存在になる。のび太の部屋という異世界空間から、「創生セット」で作った地球を眺めるドラえもん達のようにである。
レオナルド・ダ・ヴィンチが映画を撮ったら…
このように『2001年宇宙の旅』は、モノリスという進化退化光線銃をきっかけにした人類の進化を描いたSF作品となる。
その世界観は『ドラえもん のび太の創世日記』と似ている。
そのため『ドラえもん のび太の創世日記』は、『2001年宇宙の旅』にインスパイアされて作られた作品と勝手に思っているが、それを聞いたらドラえもんファンや『2001年宇宙の旅』ファンからお叱りを受けるかもしれない。
しかし『2001年宇宙の旅』は、色んな謎があり、鑑賞者が自由に解釈できる作品であり、それが魅力である。作られてから50年以上たっても難解といわれ、『2001年宇宙の旅』が多く語られる理由もそこにある。
そしてまた、『2001年宇宙の旅』の凄さは圧倒的な映像美にある。スタンリー・キューブリックによって計算しつくされた映像は、レオナルド・ダ・ヴィンチが映画を撮ったらこういう作品を作るのかなと思わせる映画である。
1950年代に量産されたSF映画、もしくは『2001年宇宙の旅』が作られた1960年代後半の他映画と比べても、レベルが違いすぎるクオリティであり、最初から最後まで感嘆する他ない。
ドンパチしたり爆発したりの映画も楽しいけれど、時にはこうして頭を使って解釈することを要求される、そういう映画を観るのも楽しい映画体験と思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?