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今更、大江健三郎(1)

初期の作品群(Ⅰ)

今回は、私がこのところ継続して読んでいる作家、大江健三郎さんについて書いてみようと思います。
2023年3月、大江健三郎さんが世を去ってから約一年一ヶ月が過ぎました。
享年88歳。22歳で最初の短編『奇妙な仕事』を発表してから、最後の小説『晩年様式集(イン・レイト・ワーク)』を78歳で書き上げるまで、50年以上を走り続けた作家です。

大江健三郎作品を私はこれまで殆ど読んできませんでした。
学生時代に初期の作品『死者の奢り』『飼育』『セヴンティーン』など数作を読んで、あまりにもあからさまな性の表現や扱う題材の過激さと暗さに拒否反応が起こったためです。「こういう作品は自分の好みではない」と決めつけて、それ以来全く読もうという気が起こりませんでした。今思うと、自分の読みの力不足が悔やまれてなりません。
けれどまだ遅くはないと思っています。著者が世を去ってしまった今更ながらですが、今からでもその作品をできるだけ沢山読んで味わいたいと思います。

まずは初期の作品群から。
多くの評者の見解を参考にして、初期作品は『奇妙な仕事』から『個人的な体験』までと考えています。著者22歳から29歳までの作品です。
数えてみると下記に書き出した通り、全部で47作品あります。
20代の若さでこれだけの作品を生み出しているとは、本当に恐るべき才能だとあらためて思います。

1 奇妙な仕事(1957)
2 死者の奢り(1957)
3 他人の足(1957)
4 石膏マスク(1957)
5 偽証の時(1957)
6 動物倉庫(1957)
7 飼育(1958)
8 人間の羊(1958)
9 運搬(1958)
10 鳩(1958)
11 見る前に跳べ(1958)
12 芽むしり仔撃ち(1958)
13 暗い川 おもい櫂(1958)
14 鳥(1958)
15 喝采(1958)
16 不意の啞(1958)
17 戦いの今日(1958)
18 夜よゆるやかに歩め(1959) ▼
19 部屋(1959)
20 われらの時代(1959)
21 ここより他の場所(1959)
22 共同生活(1959)
23 青年の汚名(1959) ▼
24 上機嫌(1959)
25 報復する青年(1959)
26 勇敢な兵士の弟(1960)
27 後退青年研究所(1960)
28 孤独な青年の休暇(1960)
29 遅れてきた青年(1960〜1962)
30 下降生活者(1960)
31 幸福な若いギリアク人(1961)
32 セヴンティーン(1961)
33 政治少年死す(セヴンティーン第二部)(1961)
34 不満足(1962)
35 ヴィリリテ(1962)
36 善き人間(1962)
37 叫び声(1962)
38 スパルタ教育(1963)
39 日常生活の冒険(1963〜1964)
40 大人向き(1963)
41 性的人間(1963)
42 敬老週間(1963)
43 アトミック•エイジの守護神 (1964)
44 空の怪物アグイー(1964)
45 ブラジル風のポルトガル語(1964)
46 犬の世界(1964)
47 個人的な体験(1964)
     (参考資料『大江健三郎全小説全解説』尾崎真理子 講談社)

以上の初期47作品の内、▼印の2作品は著者自身が納得できなかったようです。今は手にすることが難しい作品なので、この2作以外の45作品を読もうと思います。
現在45作品のうち半分ほど読みました。
文庫で読んだり、図書館で借りたりしながら読めるものから読んでいます。
作品によって好みの差はありますがどれも素晴らしいです。どの作品も全く緩みというものがありません。初期の頃からすでに方法や世界が確立されているのを感じます。

大江文学初期作品の内容は、学生の頃に読んで感じたのと同じように、今も非常に過激だと感じます。リラックスしながら読む内容ではありません。読みながら、自分でも非常に緊張しているように思います。しかし、一度読み始めると、また次、また次・・・という感じでとまらなくなり、どんどん深みにはまっていく感覚があります。
大江作品にはなぜこのような中毒性があるのか、どういうところに読み手を惹きつける魅力があるのか、初期の短編、中編を20作以上読んでみて何となくその魅力の秘密がぼんやりわかってきたような気がしています。
次回は私が感じる大江作品の魅力について書いてみたいです。

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