映画「ペパーミントキャンディ」

以前noteにて刺さる感想を読んで、これまで見れずにいた『ペパーミント・キャンディー』を見た。鑑賞してからしばらく経ってしまった。

中年男性が橋の上で鉄道自殺を図るところから始まり、そこに至るまでの20年間を遡りながら描いた作品。
なぜ人生に絶望したのか、どのように破滅に向かうのか、韓国の現代史とともに逆行して紐解いていく。(ネタバレあり)

列車の前で「時間よ戻れ!」と叫び、そこから破綻した結婚生活、出会いと別れ、警官や軍隊での暴力的な経験、美しかった初恋の思い出…をたどっていく構成が秀逸だった。


主人公は、軍隊時代に誤射して女子学生を殺してしまう。次に警官になったけど、警察では拷問が横行しみずからも暴力をふるうように。自分の手はよごれ、恋人の女性にはふさわしくないと思ったのか彼女から遠ざかっていく。

この映画は、一人の青年が、過酷な出来事の犠牲となり、人格が変わってしまったことを描きたかったのだろうか。
一文なしになった人生末期の彼は「俺の人生を台無しにしたやつは多すぎて選べない!」と、銃を手にしながらいう。

主人公は自分で破滅の道をあえて進んでいったように見える。初恋の女性の前で他の女性を触ってみせたり、奥さんや子供との生活を大事にしなかったり。
彼は、自分も周りも大事にしない選択肢をとっている。

軍隊で女子学生を誤って殺したことが彼の罪の意識となり、自分は幸せになってはいけないと思うようになったのだろうか。そこから幸せになることをどこか諦め、捨て鉢に生きることを選んだ。

ちょうど映画を見た時期に京アニ放火事件の裁判があった。酷い虐待や不登校を経験した被告は、社会からの疎外感を抱えてきた。だからといって大勢を殺していいわけはない。

この主人公を弱い、自己責任とはいえない。外から傷は見えづらい。彼は誰にも本音で頼れずに、傷を回復させることが難しくて、そのまま自己破壊的な行動を取り続けたのかもしれない。個人の人格をないがしろにする軍や警察組織でどうにもできずにすり潰されてしまった。あの経験がなければ、、好きだった女性と幸せになれたのか、それはわからない。
彼の性格は脆くて、あれらの経験がなくても、どこかで自滅的行動をとってしまうのでは、とも思ってしまうが。


最後のセクションは、若い主人公が初恋女性と出会う川べりのピクニックシーン。男性が数十年後に自殺を図る場所である。
「カメラを担いで名もない花を撮り歩きたい」と話す純朴な男性の姿に、結末を知っている視聴者は辛くなる。「ここは前にも来た気がする」というのが夢なのかなんだか、不可逆の時間を巻き戻ってきたかのような錯覚を起こさせる。

ペパーミントキャンディの使い方がうまくて、セクションを跨いで登場してくる。小説のような重層的な映画だった。
主演のソル・ギョングは昨年末に見た「PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ」でもよかった。出自のコンプレックスから捻れた思想を持つ役で、こういう役がぴったり。

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