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私は明日、死ぬかもしれない

私は明日、死ぬかもしれない
どうか重い錨に縛りつけ、海に放り込み
マリアナ海溝の一番深いところまで沈ませて
生きているうちに見る術のない風景が見たいから

私は明日、死ぬかもしれない
どうか骨を粉に磨り潰して
サハラに撒いて風とともに行かせて
血と肉は、砂漠の禿鷹とフェネックにやって
それは私からの最初で最後の贈り物

私は明日、死ぬかもしれない
どうか花の群れの下に葬って
蝶々は蜜代わりに私の血を吸い
樹々は乳代わりに私の涙を飲むだろう
蜂や蟻のような招かれざる客がいれば、どうかよくおもてなししてあげて
死んではじめて何かを生かすことができるのだから

私は明日、死ぬかもしれない
どうか新宿の大通りに捨てておいて
人々に踏み躙らせ、車にもひかせて
時間が経つと道端の景色としてみんな死に慣れていくだろう
戦争に、絞首台に、
テレビの向こうの難民やテロ攻撃にみんな慣れていくように

私は明日、死ぬかもしれない
死体はバラバラにしてくれてもかまわない
どうせ神話が崩壊し、金銭が世界に君臨しているのだから
天国や地獄なんて子供騙しの嘘でしかなく、時にお金や身体を騙し取ることにも使われる
私の身体をずたずたにしたところで
一度生きた神々よりは完全だ

私は明日、死ぬかもしれない
春の風や冬の雪に帰すかもしれない
どうか私の身体に執着しないで
それは来た時よりずっと質量が増えているから

もし叶うのなら、私の乳房を切り取って
ガムシロップとともにその乳をあなたのコーヒーに混ぜて
(新鮮である保証はどこにもないけど)
私の小指を携帯ストラップに、人差し指をペン軸に
頭蓋骨をキャペリンに
目玉をリップクリームに作り変えて
仕上げとして心臓を取り出し、私の耳朶に噛みつく時のように優しく噛み砕き
お好みの方法で漬け物にして、塩でも酢でもいい
たまにでいいから私を思い出した時に取り出して、お酒のつまみに

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