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ポエムのひとよ。

時々思い出すひとの中に、詩を書くひとがいる。

彼は毎日毎日、詩を書いていた。

業務日報に。

そう、仕事終わりに日々の業務内容や進捗などを報告する文書の、業務日報。

彼は高学歴で意志の強いひとだった。新入社員研修でも積極的に議論に参加していた。現場研修が始まり、無地ノートに業務日報を書いてもらう。

そこでわたしは、詩を発見した。

最初に見たときは、コレはいったい?何、と思った。

詩?かな。

と思い、ノートを彼に返した。趣味ノートを間違えて提出したのだと思った。

「これが、本日の業務日報です。」

という彼の毅然な対応に、戸惑った。

もう一度そのノートを受取り、わたしは読み返した。

叙情詩のようだが、全体的にリズムがバラバラすぎて読みづらい。独特な言い回しは彼の意思の表れなのか。

いやいや、これは伝わらんでしょうが。そもそも、仕事の内容が含まれていない。

「今日の業務に関することを、誰にでも伝わる文章で書いてください。詩は、違う場所で続けてください。」

と伝え直すと、すんなり理解された。それ以降は業務日報パートと、詩の2部構成になっていた。

しばらくして、彼と同じプロジェクトで関わることになった。

「久しぶり、まだ詩は書いてる?」

と聞くと

「はい、時々。でもお見せするわけにはいきません。」

と彼は言った。

プロジェクトが終わったら、彼は海外に渡るという。

自分の発想を理解してもらえそうなカナダに行く、と彼は言っていた。語学留学でしょ、とわたしは言わなかった。

退職前に詩をもらった。自分の世界観はこれだ、と言っていた。誰かに想いを馳せているようだった。

「誰を想ってかいた詩なの?」

と聞いた。

「宇宙です。」

と言っていた。

宇宙に届いてるといいなぁ。

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