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「両価性」をセルフケアに活かすには

はじめに

 こんにちは、すぱ郎です。
 タイトルにある「両価性(アンビバレンス)」という言葉はあまり耳慣れない言葉かもしれません。心理学の用語ですが、私がこの言葉を知ったのも偶然でした(ACT経由ですらなかったと記憶しています)。何となく気になる言葉で心に引っかかり、そこから興味をもって両価性について少し勉強してみると、意外と奥が深く、色々と気付くことが多くありました。ただ「両価性とは何か」みたいな話をするととても時間がかかってしまいます。一方でタイトルにあるように心のセルフケアに取り組むうえでとても大切な考え方を秘めている言葉だと感じたので、今回現時点で自分が感じてる事を記事にまとめてみる事にしました。少しでも気になる方はこの先も一読頂けると幸いです。

「両価性」とは何か

 はじめにでも述べましたが、「両価性」の詳しい説明は非常に難しく大変なので、今回はざっくりと「自分の中に存在している一見矛盾した相反する価値観」を「両価性」と定めて話を進めたいと思います。こう言われてピンと来る方もいれば、そうでもない方もいるかと思います。
 ひとつ具体例を挙げます。若い時から仕事に情熱的に取り組んできた会社員のAさんがいました。何故なら、Aさんにとって仕事を通じて他者や社会に貢献することが自分の価値であり使命だという信念を持っていたからです。一方で、その人は結婚し、子供を持ち、パートナーと共に子供を育てながら仕事を続けていくうちに、若い頃にはなかった家庭と仕事のバランスを考える事態に直面する事になりました。当然、Aさんにとって家族は大事な存在です。一方で仕事も大事な自身の価値を充たす活動です。この状況でAさんの中には、「仕事を一生懸命頑張りたい」価値観と「仕事をセーブして家族を大事にしたい」価値観が同時に存在する事になりました。
 例えばこれが、今回自分がとりあげている「両価性」の内容になります。少しイメージがつくでしょうか?この例に挙げた事以外でも、私達は日常的にこの「両価性」を心の奥に宿した状態で生活している事が多いと思います。これは一度それに気付くと至極当然存在している感情で、大半の人達がその両極にある価値観の中でなんとか折り合いをつけながら日々の舵取りをしているのだと思います。あるいは今回の記事の中で示す「両価性」とは「葛藤」という言葉に置き換えても良いのかもしれません。
 では、この「両価性」が心のセルフケアにどう関係していくのかを、次に説明したいと思います。

「両価性」を自覚できていない場合が往々にしてある

 あくまで自分の経験上ですが、自分の中にある「両価性」を自覚できない状態に置かれている、または自分で恣意的にそうしている状態は往々にしてあって、それ自体があまりよくない状態だと感じています。
 自分の気持ちは自分で思っている以上に把握できていない事があります。いわゆる「べき思考」や「完璧主義」の傾向が強い方に特に多いのではないかと勝手に思っていますが、自分の中にある「こうあるべき」・「こうでないといけない」という考えが強すぎると、自分の中に本来宿している「こうあるべきではない感情」を無自覚に抑圧してしまっている可能性があります。抑圧あるいは否定しても、気付かない見ないふりをしても、その感情や価値観は自身の根底に存在するわけですから、そこからあえて目を逸らすという事はやはり精神的な負担を知らず知らずのうちに自分にかけてしまう事につながると今となっては思います。
 自分の話になりますが、私の中にもその「両価性」を自覚していないが故に「こう考えるのが当たり前」「こういう風にするのが当然」「こうする事が当たり前にできない自分がおかしい・間違っている」という風に自分の思考や行動を抑制し、否定し続けていた時期がありました。実際は出来る範囲で頑張っていたと思うんですけどね。傍目には普通に過ごしていたとしても、自分の中では常に罵詈雑言が飛び交うような日々がありました。それは、自分の中にある相互に矛盾した感情を受け入れる余地を持たせず、「こうあるべき」しか見えていなかった故に起きてしまった事なのかなと、今となっては思います。しかしその渦中にいる間はそんな事を考えるきっかけすらなく、思考の袋小路に迷い込んでしまっていたように思います。
 このように、自分自身で気づく事がまずひとつの大きなハードルになるのがこの「両価性」だと思いますが、それとの自分なりの付き合い方を次に呈示していきたいと思います。

「両価性」との付き合い方

 これは色々な考え方がありますが、一言で言うと「自分の中にある多面性に気付き、それを受け入れる」という事に尽きるのかなと思っています。例えば以下のような言葉を聴いて違和感を覚える場合は、自分の中にある多面性を受け入れる余地が少ないのかもしれません。

・自分が「したい」と思っている事と「すべき」と思っている事は違っていて当然だ。
・誰かに対して受けた印象はあくまでその時に自分が下した判断なだけであって、白か黒でしか判断できないなんて事は無い。
・行動や信念に一貫性がないといけないなんてことは本来的にはない。
・過去の自分の成功体験から外れた思考や行動がいつでも自分にとってベストな選択とは限らない。
・誰かにとっての正解は、現在の自分にとっての正解とは異なるし、ましてや過去の自分にとっての正解とも異なるかもしれない。

 具体的な両価性との付き合い方の方法としては、まず何よりも先に「自分の感情と向き合う」という作業が必要になると思っています。具体的な手法としては認知療法におけるコラム法が分かりやすく掘り下げやすいと思いますのでそれを参考にして、特定場面における自分の思考や感情を一旦掘り下げてみる訓練を積んでみる事が大事かと思います。但しコラム法は「こう感じているはずだ」という思い込みを除外する事が経験上難しいので、どうしても自分自身で全ての感情を掘り起こすことは難しかったりもします。なるべくフラットな姿勢で自己を観察しながら、何度でも「何故そう感じるのか」という問いを自分に向け続ける事で、見えていなかった自分の感情の源泉に気付くきっかけになります。その自身の奥底で内在している相互矛盾の感情に気付いてからが、「両価性」との付き合い方を考えるスタートラインになるかと思います。一人でそれを行い続ける事は中々難しい場合もあると思うので、その場合は心理士の先生にカウンセリングを受けるなどの助力を得ながら進めていくと、より気付きやすくなるかもしれません。私の場合は、心理療法であるACTの自己学習を進めていく中で自身の「価値」の掘り下げる取り組みをしていた時に、「価値同士の衝突」あるいは「同時に成立しにくい価値同士の矛盾」といった存在にうっすらと気付いた事が、「両価性」という考え方にたどり着いた大きなきっかけでした。なんにせよ、日常生活を過ごす中で「自分の感情の相互矛盾に気付く」などという事を実践する事は非常に難しいと思うので、何かしら別に時間を取ってそこと向き合う機会を確保する事をお勧めしたいと思います。とっつきやすい方法として、まずはコラム法に慣れて自身の感情を単語レベルで言語化するところから始めるのがお勧めです。もちろん、心理士の先生にカウンセリングを受けて助言を受けながら進めるという方法も有効だと思います。

おわりに

 割と精神分析寄りの考えだとも思いますが、自分の感情は思った以上に自分自身で把握しきれていなかったりする事が多いんだろうなと感じています。それで生活上大きな問題が無い場合は特に気にしなくても良いと思いますが、自分の中で焦燥感や自責感情あるいは虚無感が強くなって弊害が生じている場合などにおいて、自身の「べき思考」「白黒思考」が強くなっていないか、そしてそこに付随する感情に矛盾が生じていないか、それに気付かないまま無意識に一方の感情を抑圧していないか、などを考える事は、自分自身を生きやすくコントロールしていく上で大事なことなのではないかと思っています。
 人間はある程度ロジカルに考えることが出来る生き物ですが、全ての思考や認知、感情をロジカルに制御できるわけではありません。コンピューターではないのですから、そこには当然乗り越えがたい矛盾やエラーも存在すると今は思っています。心のセルフケアの根幹であり目的はあくまで「自分を守る」事にあるはずで「機械のように整然と自分の感情や思考を制御する」事ではないはずです。今回まとめてみた「両価性」は、自身のそれに気付くことそのものが結果的に自分を守る事につながる重要な概念だと思います。繰り返しですが、自分の中にある多面性を無闇に否定せずに、揺らぎのある曖昧な「自分」という存在を受け入れるという作業そのものが、本当の意味での「自尊感情」あるいは「自己肯定感」にもつながってくるのではないかと個人的には思っています。私自身がこの両価性に気付いてそれを受け入れてみるという過程を経験する事で、曖昧さの中にも自分自身を大事にしようとする感覚が少し身についたように感じています。
 例え自分がどれだけ理想と外れた人間であっても、自分はどこまでいっても自分と縁を切る事も関係を断つことも出来ないので、あきらめて付き合っていくしかありません。ならば、自分の都合の良い部分だけをみようとするのではなく、自分の中にある色んな側面を緩やかにに認知して、受け入れるという作業がひいては長期的な目で見てた自分自身の生きやすさにつながるのではないかと思います。その一つのきっかけとして、自身の「両価性」に気付き、受け入れるというプロセスを経験する事には意味があると思います。
 何となく抽象的な話が多かったかもしれませんが、ほんの少しでも参考になれば幸いです。

 私のnoteでは、心理療法を独学で取り組んでいる方向けに、自身が過去に取り組んでみた心理療法の感想やそれらに関連する事で気付いたポイントなどを当事者目線で記事にしていきたいと思っていますので、興味のある方はまた読んで頂ければ嬉しいです。それでは。


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