ショートショート 震度

久々、実家に帰省して、
「ただいまー」
なんて言ったところ、
母がドタバタと足を鳴らして駆け寄ってきた。

なので俺は、
「おいおい震度2くらいのドタバタだな」
なんてツッコんでいく。

だけど母はそんなツッコミを無視して、
「久しぶり」
って言ってきたので、
僕も同じく、
「久しぶり」
って返していった。

そう返していった俺は、その直後に、
「早速だけど、コロッケある?
お母さんのコロッケは世界一だからさぁ。
初めて食べた時、マグニチュード7くらいの衝撃を受けたもんだよ」
と初めて食べた時の感想を語り、
コロッケの有る無しを聞いていった。

すると流石はお母さん。
俺のことは全て分かってる
と言わんばかりの顔で、
「作ってあるわよ」
と言ってきた。

だから俺はそんな母に、
「緊急地震速報並みに
先読みしてくれてんじゃん」
と言っていく。

それに対し母は、
「分かるわよ。帰ってきたら
コロッケコロッケうるさいんだから」
と今までの経験に基づいたことだと
お話ししてきた。

そんなことをお話しされた俺は、
「地震対策バッチリみたいな感じだな」
と震度3くらいの声で感心する。

と、そんな感心をしている中、
母が地震のように突然、
「そんなことよりアンタ、
ご結婚はなさらないの?
そろそろお孫さんの形相が見たいわ」
と言ってきた。

言われた俺は、
「その質問は地震が来た時の如く、
机の下に隠れたくなるよ」
と言っていき、
「てか、形相ってなんだよ。
普通そんな言い方はしないだろ。
普通は孫の顔だよ」
と指摘していく。

それに続いて俺は、
「て言うかそもそも、ご結婚とか言う前に
彼女さんがいないからね。
まずはそこからなのよ。
震度5くらいの心の揺れを感じる女性と出会うとこからなのよ」
と今のその状況を語った。

そこで母は、
「早く見つかるといいわね」
なんて言ってきたので、
俺は小さく頷いていき、
「指名手配されてる凶悪犯もね」
と凶悪犯と恋人が見つかるように願った。

と願ったところで、
俺は机の上に出されたコロッケに
かぶりついていく。
やっぱり美味い。
美味すぎて縦揺れになっちゃうな。
縦揺れで喜ぶのなんて滅多にない。
あー美味しい。
と、
俺はここでそう言えばなことを思い出した。

だから俺は、
「そういや」
なんて言葉を発していき、
「この前兄貴がさぁ」
と母に向かって喋り出していく。

「電話を掛けてきてね、
怒りに満ちた声で、
お前、俺が飼ってるナメクジに塩かけただろ! なんて言ってきたんだよ。
いきなり俺を震源地扱いしてきたんだぜ。
いやぁ大変だったよ。
そんなん有り得ないじゃん。
大体俺、兄貴の家の鍵持ってないしさぁ。
本当、酷い話だよ。
否定しても、
お前ならピッキングしかねないだろ!
とか言ってくるんだぜ。
あの時のあの声は震度7クラスのグラグラした怒りを感じたね。
全く、思い込みの激しい人間は恐いよ。
でも俺は本当に知らないからさ。
兄貴に向かって、
とりあえず警察に言えっつったのよ。
そしたらその何日かあとに
犯人が見つかったって訳。
で、その犯人ってのが
勇気ある若者だったんだよね。
なんかその若者は、
ナメクジに塩をかけるちょっと前に、
ひったくり犯を捕まえて表彰された若者なんだって。
そんな勇気ある若者がなんでそんなことをしたかって話なんだけど、まず家に入れたのは鍵が開いてたかららしい。
だから単純に兄貴の閉め忘れだよ。
そしてなんでナメクジに塩をかけたかって言うと、ナメクジが入ったケースが数え切れないほど家一杯にあったから、やってやろうって気持ちが湧いたんだって。
酷い気持ちが湧くもんだよね。
いや、兄貴もどんだけナメクジを有してんだよと思う話ではあるけどさ。
でも全部のナメクジがその勇気ある若者の手によって殺されちゃったんだぜ。
可哀想だよな兄貴。
全部のナメクジが死んでると分かった兄貴は、横揺れでグラついたんだって。
まぁそりゃそうだよな。
ただ結果的にこの話はさ、
勇気ある若者が表彰されて終わるんだよ。
意味分かんないよな。
この件のことで表彰されてるんだよ。
こんなおかしな話はないよ。
あいつ明らかに犯罪者だぜ。
どうしたら表彰に至るんだよって話じゃん。
どういうルールでこの世は成り立ってんの?
って話じゃん。
これじゃ兄貴が立ち直れないだろ。
流石の俺も震度7クラスの怒りが湧いたね。
お母さんもそう思うだろ?」
俺はそんな、
そう言えばな話を母に話した。

そんな話のバトンを受けた母は、
「確かに震度7、
しかも震度7強の怒りが湧いてくるわね」
と俺にバトンを繋いできた。

バトンを繋がれた俺は、
母の言葉に大きく頷いていき、
「まだ収まりそうにないね、この地震は」
とそのバトンを強く握っていく。

余震に警戒しておけよ、勇気ある若者!

そう怒りをにじませた俺は、
怒りに満ちた顔でコロッケに
一口二口かぶりついていったのだった。

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