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2023年の高知県の出生数から考える

過去最低の高知県の出生数

2023年の高知県の出生数が公表されました。以下の報道によると、2023年の高知県の出生数は過去最低の3,380人となったそうです。

ちょうど約1年前のことなので記憶している人も多いと思いますが、2022年の高知県の出生数は3,721人と全国最少を記録しました。その数から341人、実に約9%減っているということになります。高知新聞では、「あまりに衝撃的な数字だ」という高知県庁のコメントを掲載していますが、県庁内にある統計数値から計算すれば当然の帰結であるので、このコメントはあくまでメディア向けなのだと思います。

これまでの投稿で述べてきた通り、報道で目にする高知県全体の数字を見ても人口問題について理解が十分に及ばずその解決策も考えられないため、事実がどうなっているのか、もう少し細かく見てみたいと思ったのが、本投稿のきっかけです。

この投稿にあたって、高知県の推計人口と高知県教育委員会の情報をもとに一つの表を作成しました。その表を参考にすれば以下の内容を確認できます。

  • 高知県の自治体別の出生数

  • 高知県の自治体別の小中高の有無

以前の投稿で述べた通り、高知県の人口は高知市への一極集中を強めており今後もその傾向は続きます。

それでは、はたして出生数という観点で自治体別にその数字を見た時にどうなっているのだろうかというのが1つ目のポイントです。言わずとも結論は分かると思いますが…

そして2点目は、出生数と並べて、高知県のそれぞれの自治体の小学校、中学校、高校の有無、即ち教育環境を見た時に何か考察できることはないかということです。

さて、それでは以下の表をご覧ください。ここで少し注意してもらいたいのは、2023年の高知県の出生数が3,392人になっており、先述した3,380人に対して12人多いです。この差は、県内に居住する外国人の出生数です。私が下表を作成するにあたり活用した高知県の人口統計(毎月公表されている人口統計)は外国人を含めた数値で公表されるため、この差が生じてしまいます。大勢に影響はないですが、ご留意ください。

出所: 高知県推計人口(https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/121901/t-suikei.html)、高知県教育委員会(https://www.kochinet.ed.jp/link/shichoson.htm#shigaku)等をもとに筆者作成

考察1: 子どもの過半数以上は高知市で誕生

高知県全体の出生数3,392人のうち、53.0%の1,798人が高知市で占められています。つまり、高知県で産まれる赤ちゃんの過半数以上が高知市で誕生します。高知市の県全体に占める人口割合が47.8%ですので、出生数に焦点を当てると、より高知市へ一極集中してしまっている事実を確認できます。

さらに、上位4つの市(高知市、南国市、香南市、土佐市)の出生数を合計すると2,451人。県全体の出生数の72.2%を占めます。もう少しざっくり言うと、高知県で産まれる赤ちゃんの約7割が高知市とその周辺自治体で誕生します。南国市と土佐市は、高知市に隣接する自治体ですし、香南市も高知市まで車や公共交通を使えば30分少しで来れる位置にあります。

考察2: 「市」よりも出生数が多い「町」

私たちは、日本には、都道府県とその中の市町村という区別があり人口が左に行くにしたがって多くなると理解しています。日本の法制度上、そうなっているのは間違いなく、以下の総務省のHPでは、地方自治法で規定される地方公共団体の区分を確認できます。

しかし、高知県ではこの区分がすでに当てはまらない自治体が複数あります。室戸市や土佐清水市は「市」ですが、市の要件、即ち人口5万以上という要件を満たしておらず、11,000人前後まで減少しています。その人口減少の影響もあり、室戸市の出生数は27人、土佐清水市は30人しかありません。つまり市の出生数は、小学校の1クラスの定員である35人にさえ達しません。

興味深いのは、これらの2つの市と人口がほぼ同数の佐川町の出生数が55人であるということです。つまり、町である佐川町の方が市である室戸市や土佐清水市よりも出生数が多いということ。その背景には、若年層の人口の違いやその男女比があるのではないでしょうか。その点については前回の投稿で考察しております。

いずれにせよ、人口問題を語る際に、町や村はやばい、市だったら大丈夫という議論は少なくとも高知県では成り立たないということですね。

考察3: 34市村中、10町村で出生数は10人以下

1年間に生まれる子どもの数が10人以下の自治体の数は10町村にのぼります。高知県は34市町村あるので、約1/3の自治体に相当します。

いずれの自治体も人口減少と若年層の流出で少子化が加速しているわけですが、本山町を除いて高校がなく、そして中学校すら無い自治体が2つあります。親世代の視点で考えると、中学がない、高校がない場所で子育てをするのは多くの人にとって現実的に難しいし、一旦そこに住んでいてもどこかのタイミングで引越しを考えるのは無理もないことです。

私の知人は、県内のとある村に住んでいましたが、町内に高校がないため最終的には高知市へ移住しました。その理由を聞いてみると、隣の町に高校があるので通学させることも出来たようですが、距離が離れているため親戚が持っている家に親の片方が子どもと一緒に居住する必要があったとのこと。それなら、いっそのこと高知市へ引っ越そう!となったようです。

地域が学校の存続を求めることはもちろん大事ですが、子どものことを第一に考えるならどうでしょう。個人的には別に学校が全てではなく、本人が嫌なら無理やり学校に行かせることもないと思っていますが、子どもの発育において、社交性を培ったり多様な価値観に触れるという意味で、一定規模の同世代の中で子どもが育つのは必要不可欠と考えています。田舎とはいえ、学校に行かずとも、近所で遊ぶ、スポーツを一緒にする、恋愛をする、会話をするといったことにはどうしても相手が必要ですからね。


考察4: 出生数を過度に意識せず学生の数に注目

いくらそれぞれの自治体で出生数を増やすといっても若年層が少な過ぎるため厳しいのが現実だと思います。その意味で、自治体での出生数を過度に意識せず、小学校や中学校、高校という段階で生徒数を増やす(子どもの数を増やす)のも一案かなと思います。もちろん、増やしたところで目先は卒業後に減少するかもしれませんが、関係人口の構築やUターン予備軍を増やすという意味で意義のあることかもしれません。

その点、過疎地域でも高校がある梼原町や本山町は注目すべき自治体と思っています。表の通り、いずれも人口が約3,000人の自治体でありながら、実は小中高を維持しています。

例えば梼原町。梼原町といえば世界的に有名な建築家である隈研吾氏の建築群ですね。まだ新しい同氏設計の梼原町立図書館(雲の上の図書館)はいわばデスタネーション・ライブラリーとなって観光客も多く訪れます。

http://www.town.yusuhara.kochi.jp/kanko/kuma-kengo/town-library.html

梼原町には県立梼原高等学校があります。同高校のHPには以下のような記載があります。

令和2年度在籍生徒数は124人(1年生41人、2年生42人、3年生41人)で、17年ぶりに各学年2クラスとなった昨年度に続き各学年2クラスとなっています。内訳は、連携中学校の梼原中学校からは65人(52%)、東津野中学校からは16人(13%)、連携中学校以外が43人(35%)となっています。

https://www.kochinet.ed.jp/yusuhara-h/mt/syoukai/syoukai.html

数年前のデータですが、3,000人規模の自治体で124人の高校生というのは多いですよね。しかも連携中学校以外、すなわち梼原町外から進学する高校生の比率が35%もいます。

これだけ町外からの入学者が多い理由は何でしょうか。仮説に過ぎませんが、県外からも進学できる身元引受人制度(保護者ではなく、親戚やそれ以外で誰か身元引受人になってくれる人がいれば高知県の県立高校を志願可能な制度)があることや、隈研吾氏の作品効果で東京など都市在住のファミリー層にも認知してもらいやすいのかもしれません。

それらに加えて、高知の中山間地域でありながら海外留学に対する手厚い助成があることも大きいかもしれません。1年間の留学助成金はなんと100万円。コロナ前は毎年のように生徒が留学しています。高知の田舎から海外に留学させてしまうと、外に目が向いてしまい余計に戻ってこなくなると普通は考えそうですが、そうではないんですね。

出生数に過度にとらわれず、良い教育環境を整備し都会とは異なる環境で学ぶ意欲のある子どもたちを受け入れる。そしてその中の一部の子どもたちが地域に残り、その他の子どもたちは外の世界に羽ばたいてもどこかで繋がっている。高知の今後を考える上でまた一つヒントをもらった気がします。

終わりに

高知県はなんとか数年で出生数をV字回復させようとしていますが、東京や大阪などの大都市を含めた全国の自治体間で若年層の獲得競争が始まった今、県内の若年層の流出を阻止したり他県から若年層に移住してもらう成果がどこまで出るのか分かりません。

個人的には、2050年に県人口が坂本龍馬が生きた江戸時代の人口レベル、すなわち45万人に回帰しようとしているというシナリオ(このシナリオが人口統計からすると確率が最も高い)から、これからの高知の未来を考えることも大事と思っています。

というのも、そのシナリオから考えれば、現在の都道府県制度や市町村制度のような江戸時代以降に出来た制度そのものを問い直す必要があるからです。私たちにとって今必要なのは、坂本龍馬やその時代の志士たちが奔走したように、新たな世の中を構想しその変革を実現することかもしれません。




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