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【効いた曲ノート】ロベルト・シューマン”交響曲第一番 変ロ長調 作品38「春」 ”





春の訪れ!というわけでド直球の「春」を聞いています。

ロベルト・シューマン(1810-1856)の交響作家デビュー作。30歳の時の作品です。この世の春を歌うようなトランペットのファンファーレとウキウキステッピンな第一主題でもう心はおピンクです。底抜けにポジティブ。というのも、この時のシューマンはまさに「永きに渡る冬の時代を乗り越えた」我が世の春だったからなのだそうです。

1835年、妹のようにかわいがっていた師匠の娘クララを女性として意識し始め付き合いますが、当時のシューマンはピアニストの夢を指の故障で絶たれ、作曲家としても駆け出しの身。評論活動で食いつなぐ青年でした。それに対して恋人のクララは9歳でプロデビューした17歳の天才ピアニスト。音楽家としてすでに名声を確立しています。ロベルトの師匠でありクララの父親でありマネージャーでもあったフリードリヒ・ヴィークとしては娘にはあまりにも不釣り合いだと大反対。二人を呼び寄せ叱りつけますが、それでも関係が終わらないと見るやあの手この手で二人の関係を妨害したり(少女漫画みたいに「彼氏役」を用意して動揺させる作戦もあったとかで、この辺は読んでみると面白いです)、果てにはいわれのない誹謗中傷を各所で吹聴し、シューマンの人格攻撃を始めます。

和解は不可能と見たシューマンは法廷闘争を決意。これが1839年で、裁判により結婚が認められた1840年に挙式。5年に及ぶ艱難を乗り越えようやく愛し合う2人は結ばれたというわけです。この喜びの大きさは作曲活動のジャンルと質の充実に現れており、19世紀の作曲家にとって最も重要だった交響曲に取り組むことが出来たのも愛する人を本当の家族に出来たという活力の「芽吹き」にあるのでしょうね。

まさに、「芽吹いている」というにふさわしい躍動感あふれるリズムとメロディ。確かに野暮ったい繰り返しだとか楽器のバランス考えてないよねとか、玄人筋からはシューマンと言えばピアノと歌曲よ交響曲は…ねえとなっているようですが、なんというか、構造の緻密さとかソリッドさとか、もちろんそれが人の作り上げるモノのあるべき姿の一つではあるのですが、その時思ったことを率直にぶつけるパッションというか、ライヴ感というか、ぬくもりというか…そういうのがこの人らしさなのかなという気がします。そういうのも人の営みのあり方ですよね。


シューマンはわれわれの現代の時代意識を体現する存在になっている。彼の苦闘が結んだ愛には、必ず優しい、温和な守護神(天才)が宿っていて、われわれは人間的にそこへ惹きつけられる
―ルイス・エーネルト『シューマンとその楽派』(1849)


余談ですが、この夫婦の物語は並のラブロマンスよりもだいぶ凄い。共同作業で生まれた不朽の名作ピアノ協奏曲とか、愛し合いすぎて子どもが8人も生まれてしまったけどクララは音楽家として生きていたかったとか、若きブラームスとの晩年とか……そんだけ劇的な人生ならそらこういう作品になる。





*参考文献

作曲家の当時の事情(ロマン的・私小説的な部分)に出来るだけ触れないで楽譜の音符から分かることだけで作品を論評しようというシリーズ。「シューマンだけは楽譜だけで評論は無理」と最初の一言でちゃぶ台引っくり返されて笑った。シューマンのシューマンたる所以がここに出ています。そうはいいながらもちゃんと作曲家としての業前も評価しているのがまたいい。これだけアマゾンで高騰しているのは謎。普通に本屋にあったけどな…


シューマンの真の「ロマン」は弦楽四重奏だよ!と叫んでたのが面白かった。経済学者ですが音楽評論の著作が多いようで、ヴァイオリン奏者としての視点と学者としての厳密さとのバランスが良く、当時の彼らの足跡を辿りながら楽しめるのが良かった。なんかアマゾン高騰してるけど図書館に普通にあります。


シューマン自身による当時の論評をまとめてあるという普通に史料と言えるやつ。文庫本価格でこういうことするから岩波文庫は凄い。応援しかできない。評論家としてのシューマンの見識の深さを見ることが出来ます。ドイツ語に詳しかったら原文の美しさとかもわかるんでしょうね。ドイツ語検定4級で挫折したけどね…


クララが伝記漫画になってたの初めて知りました。女性の自立シリーズというやつか。映画よりも劇的な夫婦の足跡がライトにまとまります。伝記漫画なのでエグイやつとかはないのでご安心です。僕の頃はキュリー夫人とか読みましたね。