病院アンコウ

仕事中、ワシがレーザーポインタを少し遠くの席にいる課長の顔に当てて遊んでいると、上司が「何してる!」と取り上げてきた。

何だこれは?と上司がレーザーポインタのボタンをカチカチ押していると、たまたま課長の目に当たってしまったようだ。

課長は「うわっ!」と言って片目を押さえながらこっちの方を見ると、レーザーポインタを持った上司を見つけた。

課長は怒って上司に詰め寄ると、説教部屋に連行してしまった。

上司は連行されていく途中でワシの顔を睨みつけていたけれども、課長に「どこ見てる!よそ見すんな!」と叱られたところでワシは耐えきれず吹き出してしまった。

「上司は馬鹿だなぁ、馬鹿な上に課長に迷惑をかける悪いやつだ、なんてことを思いながら、ワシは小腹が空いたので上司の引き出しを開けてポッキーを一本ほどポリポリいただき申した。

それからというもの、どういうわけか上司のワシに対する態度がきつくなった。

他の人なら許されることもワシはねちねちと詰められた。

ワシはある日、とうとう耐えかねて休みを取った。

そして、海沿いの崖にやって来た。

ワシはそこであぐらをかいて座り、ガクッと頭を垂れてうなだれていた。

ときどき、ハァ…と深い溜息をつくと共に、より深く頭を垂れてうなだれた。

もうじき夕日が水平線に沈みそうだ。

ワシはもうこのままどこへも行きたくないなと思っていた。

しばらく、ただただそこにいた。

しかし、とうとう日が沈み、辺りも暗くなってきたのでようやく重い腰をあげた。

すると、長い間座り込んでいたせいで足がよろめき、暗くて足元も見えなかったせいでつまずき、何とワシは崖から海へと落ちてしまった。

暗い海へとワシは落ちた。

でもワシはもがき苦しむ気力も湧かず、沈んでいく体をそのままにした。

ゆっくりと沈んでいく。

それでもすぐに海面を見失う。

やがてワシの背中は海底に触れた。

ふらふらうっかり足元を
滑らせ一体ここはどこ
深くてまっくら海の底
外では節分鬼は外
鬼さんこちらで休みましょう
一人はちょっぴり寂しいよ

と、そこへ現れたのはチョウチンアンコウ。

海底に寝転ぶワシの顔をパッと照らしてきた。

「急に眩しいな。何をするんですか。」

「そこは私の縄張りだからどいてください。」

「え?何って?もう一回。」

「だから、そこは私の…」

「アンコウだけに、アンコール。わはっ。」

チョウチンアンコウは怒って、ワシを引きずってから放り投げた。

また別の海底に背中が触れる。

もう誰も来ない。

深くて暗くて寒い。

ワシはずっと海の中だから体がふやけてきた。

もうこのまま溶けてしまうのも悪くない。

そう思って目をつぶっていたら、本当に体が溶けてきた。

じわじわと溶けていく。

今溶け出したのはワシの罪ではないか。

レーザーポインタ遊びしてごめんなさい。

じわじわと溶けていく。

今溶け出したのはワシの悲しみではないか。

何だか不思議と悲しくなくなった。

じわじわと溶けていく。

今溶け出したのはワシの憎しみではないか。

誰がどうだとかもうどうでもいい。

じわじわと溶けていく。

今溶け出したのはワシの喜びではないか。

嬉しいこともあったんだっけ。

ワシの体は溶け切った。

チョウチンアンコウが様子を見にきた。

チョウチンアンコウが照らす海底の一枠には、ワシの骨だけがぼうっと照らし出された。」

そんなことを課長のデスクの前で朗読していると課長が言った。

「病院。」

「…?」

「病院行きなさい。」

「じゃ、ついてきて♡」

「いいよ♡」

そうしてワシと課長がオフィスから出るとき、ワシの視界がバチッと一瞬明るくなった。

上司がこちらを見ていた。

ワシは言った。

「チョウチンアンコウの光は、もっと優しかったな。」

課長が言った。

「早く病院行こうね♡」

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ワシのことを超一流であり続けさせてくださる読者の皆様に、いつも心からありがとうと言いたいです。