食中毒と飲むヨーグルトの話

モロッコ滞在中にかかった病気といえば食中毒と膀胱炎、蓄膿、あと原因不明の身体重たい病。生まれつき細身の体形だが、体は割と丈夫で1年に1度風邪をひくか否かというくらいだった。

移住後、まずはじめにかかったのは食中毒。これは現地の衛生面や環境を想像すればかかる可能性も十分考えられる。実際旅行者の大半はもれなく下痢となる。私の統計上2人に1人の確立といった印象。「ご飯は美味しいのになぜか毎日下痢ばかり」ともらす旅行者にも度々出会った。邦人ばかりでなく、西洋からの旅行者も同様。なんとかバナナだけは食べられると、食事は連日バナナという北欧出身の男性もいた。もはや人類共通。原因は食べ物に含まれる菌?または何種類ものスパイスによるもの?そもそもスパイス慣れしていない日本人のお腹だからこそこの説は有力だ。

この話の流れでいくと日々の食生活により食中毒にかかってしまったと想像できるが、私の場合は突飛な好奇心によるものだった。

まだまだ見るもの聞くもの全てが真新しかった頃、いつも夕方込み合う十字路の脇に人だかりができていた。近付くと平たい軽トラのような車の荷台に何台かのプラスチック製タンクが積まれており、その傍らに立つ店主らしきおじさんがタンクから白い液体をすくってビニール袋にせっせと詰めていた。人々は液体の入った袋を受け取る代わりに店主の手に小銭を渡す。チラッと手のひらを確認した店主はすぐポケットにしまい、カップを手に再びタンクへ手をつっこむ。私は直ぐに『これはめちゃくちゃ美味しい飲むヨーグルトに違いない!』と悟り、すぐさま人々の群れに突っ込み”欲しい”をアピール。なんせここはローカルエリアで、旅行者も殆ど通らない場所。黒髪アジア人のもの珍しそうな目を店主は見事にキャッチ。すかさずカップになみなみと注いでくれた。意外と早い展開だったが迷いなく受け取り、周囲からの視線を感じつつもごくごく飲みほした。、、確かに手作りの味。とブルガリアなんて想像していた私には少々期待外れの素朴なお味。『余分な砂糖など入っておらず、これは体にいいに決まっている』と胸にはオーガニックの極みに出会えたかのような感動が高ぶる。お金を払おうとしたが、おじさん店主から笑顔で断られた。その日、たまたま覗いてたら一杯もらってラッキーくらいな気持ちで家路についたのだった。

その翌日というか明朝吐いた。朝になってとりあえず水だけ飲んだが、やはり吐いた。何も食べられない、熱も少しある。外国で病気になる程心細いものはない。冷静に考えれば昨日の自分の行動による失態であることは分かりきっているのだが、何だかとてつもない大病にでもなったくらいに落ち込む。もう一生治らないんじゃないか、、なんてくらい大げさな程ネガティブ思考になってしまうのは私だけだろうか。結局薬局で手に入る抗生物質により(その後も度々お世話になったお薬)3、4日で収まったがあんなに吐いたのは子供の頃以来。養生中はモロッコ米でおかゆを作り、非常食として保管していたどん兵衛を食したが全てがリバースされた。悲しい。おそるべし菌たち。これで少しは私のお腹にも抗体ができていると良いのだが、もう路上で販売されている乳製品にはこりごりだ。

ちなみにモロッコで飲むヨーグルトは”ル・ブン”と呼ばれ、若者からお年寄りまで親しまれている。特にラマダン時期では、ラマダン明けにデーツの実やハリラスープと共に食卓に並ぶ。普段からもクスクスを食べる時など、クスクスにル・ブンをかけたり、ル・ブンの入ったボウルにどぼんとクスクスを入れて食べたり、、とお茶漬けご飯のお茶のような親しみがある。この”ル・ブン”の味のバリエーションも実は様々で私が最初に飲んだプレーンの他レモン風味などもある。スーパーマーケットへ行けばカラフルなフレーバーにも出会えて楽しい、そしてこちらは普通に美味しい。ぜひ日本でも販売してほしいくらいだ。

そんなこんなで路上の食べ物なんて絶対ヤバいに決まってると分かっておきながらも、ついつい現地人の様子だけ見て突っ走ってしまった話。そうそう、私は異国の者なのだった。この後もふっと現地の人に混ざってただ道を歩いているだけで自分は現地の人と何ら変わりない、自分もモロッコ人だと信じ込んでいる瞬間が度々あった。周囲から見たら明らかに違うのに、自分では自分の姿が見えないからこそ体験できたような気がする。それとも集団心理によるもの?しかし、たまにこのように腹を壊して目が覚める。そして自覚する、の繰り返しだった。

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