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黒革の財布とバレンタイン

もうすぐ大学を卒業という年、バレンタインデーの前のちょうど今ごろに東京品川区・目黒川の橋のたもとで財布を拾ったことがあった。

もうすっかり暗くなった時間帯、雨に濡れた路面がキラキラ光っている。
そんな中、黒い二つ折りの財布が落ちているのが遠くから目に入った。
たくさんの人が歩いていたものの、誰も気づかず通りすぎていく。

拾い上げると、なんだか上質なもののように見える。
おそらくコードバンが使われたその財布は長いこと大事にされてきたのだろう、私の手にもしっくりと収まるような人懐こさがあった。

日本でのことなので当然交番に届けた。
*昨年末に欧州長距離バスの車内で財布を拾った記事はこちらです。

毎日その前を通っているからか「顔見知り」のようになっている警察官が「ああ、どうも!どうされました?」と気さくに対応してくれた。

財布の中にはカードがたくさん、そしてかなりの現金が。
「これは届けてもらって助かったと思いますよ」などと褒められ、ちょっと誇らしくなる。当たり前のことなんだけど。笑

その後、拾った時間や場所、私の連絡先などを聞かれ、晴々とした気分で家に帰った。


さて、その数日後。
住んでいた祖父母宅に大きく平らな箱が届いた。

それは「メリーズチョコレート」の特大詰め合わせ。そして財布の落とし主からのお礼の言葉が記されたカードが同封されていた。

いかにもバレンタインデー向けの商品という感じにハートがあちらこちらに散りばめられたデザイン、もしかしたら私が女子大生と知ってのチョイスだったのかもしれない。
それにしても大きすぎる。平たいその箱は、まるで大判の賞状のようだった。

シックな財布とかわいいキラキラなデザインの箱、そして笑ってしまうような量のチョコレートというアンバランスさ、いま考えるとなかなか魅力的な御仁だったのかもしれない。

特大サイズのメリーズチョコレートは、大学の部室に持っていかれ、友人たち、特にバレンタインデーに縁の薄そうな男子学生の癒やしとなった。笑


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