イシューからはじめよ

書評:『イシューからはじめよ』

エンジニアのメンバーに「この本読むといいよ」とおすすめされて読み始めたのですが、「わかる……わかるぞぉ……!」と読了後のスッキリ感が半端ない本でした。今回、読んだ本は『イシューからはじめよ』。問題解決のための課題立ての方法について書かれた本です。この本を読んでから、仕事上のいろんな場面で「あ、これ本で読んだ!!」という進研ゼミの広告のような体験が増えました。

ちなみに、今回のnoteは、私が普段書いている文章量の約2.5倍の長さになるので、お時間のあるときにでもゆっくりご覧ください!


脱「犬の道」

まず、何も考えずにビジネスや研究を行うとどうなるのかを考えてみよう。
月曜日から金曜日までの5日間で、あるテーマについてまとめる必要があるとする。すると、よくこんなことが起こらないだろうか?

月曜・・・やり方がわからずに途方にくれる
火曜・・・ まだ途方にくれている
水曜・・・ひとまず役立ちそうな情報・資料をかき集める
木曜・・・引き続きかき集める
金曜・・・山のような資料に埋もれ、再び途方にくれる
(序章:p33)

この文章を読んだ時に「めっちゃわかる……」と思わず納得してしまいました。誰しも入社してすぐのときや、新しい分野の勉強を始めた時に「何をどのように進めればいいの……?」となってしまって、ただただ時間だけが過ぎ去ってしまい、結局何も生み出せないまま終わる……みたいな日があると思います。

こんな風に「一心不乱に大量の仕事をして、自分のやっている仕事の価値をあげようとする」スタイルを安宅さんは「犬の道」と呼んでいます。ただただ努力と根性を信じて我武者羅に仕事をするやり方では、仕事の生産性の向上も効率化もなかなか難しいですよね。そこで、著者の安宅さんは、本来あるべき知的生産のステップを5つに分け、その各段階でどのように行動していくべきなのかを紹介してくれています。


1. 「解く」前に「見極める」

問題はまず「解く」ものだと考えがちだが、まずすべきは本当に解くべき問題、すなわちイシューを「見極める」ことだ。ただ、これは人間の本能に反したアプローチでもある。詳細がまったくわからない段階で「最終的に何を伝えようとするのか明確に表現せよ」と言われたら、きちんとものを考える人であればあるほど生理的に不愉快になるだろう。(p.46)

まず、ただ仕事をひたすらにやるのではなく「正しいイシューを見極めることが大切と安宅さんは言います。イシューというのは「いま、この局面でケリをつけるべき問題」のことを言います。仕事をしているとき「あれ?そもそもこの仕事は何に答えを出すんだっけ……?」となることもあると思います。そうすると今までの仕事に対して「もしかして、これって無駄なことをしてるんじゃないか……?」と不安になってしまうこともありますよね。不安になるだけならまだしも、本当にやっていた仕事が無駄になってしまった時の絶望感は半端ないです。

そんな悲しい結末を避けるために、目的意識がブレることなく仕事ができるといいですよね。そのためには良いイシューを見極める必要があります。でも「じゃあ良いイシューの条件ってなんなんだろう?」となると思いますが、ご安心を。本書では、良いイシューの3条件を紹介してくださっています!

1. 本質的な選択肢である
→答えが出てると、そこから先の方向性に大きく影響を与える
2. 深い仮説がある
→「常識を覆すような洞察」がある
→「新しい構造」で世の中を説明している
3. 答えを出せる
→現在の自分の技術・状況で答えを出すことができる

この3条件のうち、1と2を満たしている問題は「答えを出す必要がある」問題です。なので、現在の自分の技術・状況で出来得る限りの最大限の努力をして頑張る価値のある問題です。ここは頑張りどころだ!と言うことが分かれば安心して自分の全力を賭けることが出来ますね。


2. イシューを分解し、ストーリーラインを組み立てる

多くの場合、イシューは大きな問いなので、いきなり答えを出すことは難しい。そのため、おおもとのイシューを「答えを出せるサイズ」にまで分解していく。分解したイシューを「サブイシュー」という。サブイシューを出すことで、部分ごとの仮説が明確になり、最終的に伝えたいメッセージが明確になっていく。
イシューを分解するときには「ダブりもモレもなく」砕くこと、そして「本質的に意味のある固まりで」砕くことが大切だ。(p.108)

本書でも出ている例えとしては、「新規事業コンセプトの有望なアイデアを検討する」というものです。この場合、「事業コンセプト」自体が非常に大きな概念ですよね。そもそも事業コンセプトってなんだろう?と考えると無限ループに陥りそうです。そこで、「狙うべき市場ニーズ」「事業モデル」という2つの要素に分けて問題を細分化していくとわかりやすいです。

【狙うべきニーズ】:どのような市場の固まり・ニーズを狙うのか
・どのようなセグメントに分かれ、どのような動きがあるか
・時代的に留意すべきことあるか
・具体的にどの市場ニーズを狙うべきか
【事業モデル】:どのような事業のしくみで価値提供を行い、事業を継続的に成り立たせるか
・バリューチェーン上の立ち位置はどこに置くか
・どこで顧客を引き寄せるか
・どこで儲けるか(収益の源泉)

さて、こんな風にイシューを分解したら、次はそれをストーリーとして流れを整理する必要があります。

イシュー分析の次のステップは、分解したイシューに基づいてストーリーラインを組み立てることだ。分解したイシューの構造と、それぞれに対する仮説的な立場を踏まえ、最終的に言いたいことをしっかり伝えるために、どのような順番でサブイシューを並べるのかを考える。(p.125)

ストーリーラインが必要となる理由は、後々に人を説得するための説明や説得感のある図表をどうやって表現するかが必要になってくるからです。どんなに素晴らしいイシューでも、人に理解してもらえなければ「それって本当に問題なの?」と言われてしまう可能性が高くなってしまいますよね。解くべき問題であるならば、それを解決するためにありとあらゆる準備が必要になってくるので、この時点でおおよその全体像を掴んでおくことが大切ですね。


3. ストーリーを絵コンテにする

僕はこの分析イメージづくりの作業を「絵コンテ」づくりと呼んでいる。イシューを分解し、組み立てたストーリーラインはまだ言葉だけのものだ。ここに具体的なデータのイメージをビジュアルとして組み合わせることで急速に最終的なアウトプットの青写真が見えてくる。(p.141)

では、ストーリーラインができたら、「最終的に伝えるべきメッセージ(=イシューの仮説が証明されたもの)」を念頭に置きながら、自分ならどういう分析結果があれば納得するか、そして相手を納得させられるかと考えながら作ることが大切だと安宅さんは本書で述べています。そして、絵コンテを作る中では「軸の整理」「イメージの具体化」「方法の明示」という3つのステップがあり、それらを大胆に思い切って描くことが重要だとも仰っています。

ただ、これらの手法をうまく活用するには、ある程度の知識や経験も必要になってくるとのこと。「え〜!知識や経験値が足りない時はどうしたらいいの〜?」と多くの方は思いますよね。そんな時はやっぱり、ご意見番的な人や頼れる先輩や同僚の力を借りましょう。「ここをこんな風に考えてるんだけど、これでわかるかな?」とか「ここって分かりにくいかな?」と相談できる人がいると心強いですよね。


4. 実際の分析を進める

このステップで何を目指すのかを再度確認しよう。序章の「犬の道」の話に立ち返るが、僕たちがやっているのは「限られた時間で、いかに本当にバリュー(価値)のあるアウトプットを効率的に生み出すか」というゲームだ。どれだけ価値のあるイシュー度の高い活動に絞り込み、そのアウトプットの質をどこまで高めることができるか、それを競うゲームだ。この段階はほかのどのステップよりもスポーツ的だ。正しい心構えとゲームの理解が重要になる。(p.179-180)

さてさて、絵コンテを描き終えたら、ここから本格的なリサーチがスタートです!各サブイシューの根拠となるデータをまとめていきましょう!となる訳ですが、ここで「よっしゃ分析とか検証とか始めるぞ!!」と勢いよく飛び込んでしまわないことが大切です。もっとも重要度の高いサブイシューを見極めて、そのための分析から始めましょう。絶対に根幹に関わる問題があるはずなので、そこへ関連する部分から始めましょう!

ここの段階では本当にありとあらゆる方法でイシューの解決を目指していきます。この段階では、泥臭く地道だけれども、スピードの求められるフェーズなので、回転数を早くしてアウトプットを軽快に生み出せるようにしていくのがコツだそうです!


5. 「伝えるもの」をまとめる

ここまでくれば、あとは論文発表資料やプレゼン資料をまとめる作業になります!ここまで来るのは長かった……となるかと思いますが、頑張りましょう!ここでももう一踏ん張りです。

ここまで目指してきたのは、価値のあるアウトプットだ。「イシュー度」が高く、「解の質」も高いアウトプットだ。それだけが人の心にインパクトを与え、価値を納得させ、本当に意味のある結果を生み出すことができる。それがこのメッセージドリブン、つまり最後のステップを終えて私たちが目指す到達点であり、そのために何が必要なのかを再度深く考えたい。(p.204)

まず、論文発表資料やプレゼン資料を発表する上で大切なのは、聞き手・読み手と自分との知識のギャップを埋めることですよね。理想的なのは聞き手や読み手が「あぁ!なるほど!こう言うことだったのか!!と言うことは、やっぱり貴方の仰るこの問題は重要ですね!」と喜んで興奮してくれている状態ですね。

ここでのアウトプットのやり方がダメダメだと、聞き手や読み手は「何言ってんだコイツ……」となります。イシューも特定できて、それに対する絵コンテも分析もちゃんとしたのに、最後の最後で相手に伝わらなければ無駄足になってしまうのです。そんな悲しいことになってしまわないように、安宅さんは、この章で具体的な磨きこみ方を紹介してくださっています。いくつか例をあげると、「1チャート1メッセージ」、「タテとヨコの比較軸を磨く」、「メッセージと分析表現を揃える」などです!ここでの表現を磨いて、相手にまっすぐストレートに伝わるように工夫していきましょう。


最後に

「何らかの問題を本当に解決しなければならない」という局面で、論理だけでなく、それまでの背景や状況も踏まえ、「見極めるべきは何か」「ケリをつけるべきは何か」を自分の目と耳と頭を頼りにして、自力で、あるいはチームで見つけていく。この経験を1つひとつ繰り返し、身につけていく以外の方法はないのだ。(p.239)

どんな分野でもそうだと思うのですが「最初から何でもできる!」というのは理想的ですよね。

例えば、私の場合だと、つい最近、WordPressさんに苦しめられていたのですが、その時によく思っていたのが「明日から急に、デザイナーとしてWordPressのことが隅から隅まで理解できて、エンジニアとも苦なく仕事上でのコミュニケーションが取れる状況にならないかな……」と何度願ったことか……。でも、急には無理なんですよね。ただ、本書を読んで改めて、ある程度の時間が必要だということ、問題解決のやり方が明確になったのは非常によかったなと思います。

勿論、今関わっているプロジェクトの課題解決にも利用できそうなので、時間は掛かるだろうけれども、ありとあらゆる手を使って課題の解決に向けて頑張っていこうと思います〜!

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?