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たまたま読んだ本12:「わらうデ」 デザインは笑いだ。笑えば、伝わる。笑えば、売れる。デザインで村おこし。高知から世界へ。


わらうデ

著者の高知在住のデザイナー、梅原真さんは、デザインは笑いだと断言する。ユーモアの語源は「ヒューマン」。人間的ということが笑いに近いユーモアになる。人間は基本的に笑いを持っているというのが著者のベースにあり、笑いをデザインに使ってきたという。
確かに動物の中で笑うのは人間だけかも。他の動物は笑っているように見えても笑うという感情を持っているわけではないような気がする。笑うは、心を明るくし幸せにしてくれる。なかなか良いところを突いている。

タイトルの「わらうデ」は、デザインで笑いを誘い、幸せにする意味があるようだ。

著書では、梅原さんがこなしてきた43の仕事を、独自のデザイン理論?で面白く披露、土地の力を引き出すデザインシンキングで村おこしの例を熱っぽく、皮肉を込めて語る。

ものの本賓というのは「笑い」に近いものがある。
その本質を突くためには、ある意味、そこに皮肉も含まれている。
皮肉というのは笑いの根源かもしれない。デザインにもその手法があってもよいと思う。ポクはその皮肉を笑いに転化したいんや。
デザインは笑い。それだけ。
と言い切る。

病院のデザインでは、患者の気持ちになってデザインする。
デザインは心理学 そこに笑いと光を見つける。
グラフィックデザイナー原研哉さんの「ものごとの本質を見極めて可視化すること」、それがデザインだに共感を覚え、腑にも落ちた。
と、デザインの本質に迫る。

また著者なりのデザインの極意を次のように明かす。
世の中には「この程度」がなくなって、やり過ぎちゃうんかい!と思うような「やりきった感」のあるデザインが多過ぎる。
デザインを作り込んで、これ、すごいねと言わせるようなものでもないんじゃないの。ポクはそこに反発する。足していくデザインよりも、引いていくデザイン。
情報が最小限のもののほうが信頼性もあるし、それが「おいしい」と感じる。これがボクのマーケティング理論。
「なんで?」というところが、大きな方向性。違和感とともに、そこに何かが起こる。ポクはそれをコミュニケーションと呼んでいる。
説明しすぎると、全て完結しているから「そうなんだ」で終わる。
余韻を残せば、そこに不思議が残るのだ。
こうやって残像、余韻、解決しないものを相手の手に持たせることで、相手の中に情報がドパツと入っていくのではないかーーという、心のサイエンスみたいなものを自分なりに発見している。つまり、「相手に預けるデザイン」だ。と、なかなか味わいのある言葉だ。

ローカル愛の強い著者は、田舎のスローなものが時代遅れとされ、社会からどんどん退場して行っている実情に、ポクはこういう絶体絶命の「瀬戸際」に立つ人や食材を見捨てられないのである。と義憤を吐露する。

グラフィックデザインだけでなく、村おこしのビジネスまで立ち上げてしまう、そのデザインセンスは、周りをどんどん巻き込んでいく。いや、巻き込まれていく?

新商品誕生まで、ほんの5秒やで。そうすることで商品が売れれば、地域も売り先を心配せずに芋を作ることができるようになり、換金作物にもなり、小さな経済が生まれ、山の芋畑の風景や産業を取り戻すこともできる。これがボクのデザインシンキングである。
著者自身の生活体験による「体内マーケティング」を通した、常に見た瞬間にパッとひらめく「直感マーケティング」の本領発揮である。
その直感マーケティングの威力は強力だ。「パッケージデザインの75%はネーミング」というのが持論であり、ボクの場合、そのネーミングとデザインはほぼ同時にできあがる。

川のほとりに住んでいるうちに、なぜ、かつて流域を支えて来たはずのお茶や栗、ヒノキ、芋などの一次産業が廃れようとしている。のかが気になり、それを1つずつ掘り起こし、プランディングし、商品をデザインしてきた。振り返ってみると、自分たちがやってきたことはすべて「自然が資本」だった。
エコノミック、エコノミックと叫ぶのではなく、ビジョンを叫ぷぺきなのに、地面の問題をどこかに置いて来たのではないのか。それをもう一回取り戻していくべきじゃないの? 成長から成熟にまわるべきじゃないの? 必要なのは土地のチカラを引き出すデザインであり、農業なのだ。
ボクは農業のことを思う時、いつも「愉しき農業」という文字が浮かぷ。常にりっしんべんの「愉しい」がくっついている。
その心は、著者が言う、本質に”笑い”がある。どんなモンダイでも最後は”笑い”で解決したい。にあるのでは。

43の仕事は著書に写真付きで紹介されている。ほのぼのする笑みを誘うユーモアが感じられる作品が多い。だが、ずっと見ていると同じようでマンネリ化している感じもする。よく考えると、それが個性なのかもしれない。デザイナーの人間性が現れ、それを理解、共感できる人たちがデザインを依頼してくるのだろう。デザインの本質、意味を訴える”笑える”好著である。

因みに、
「わらうデ」刊行記念 梅原真×原研哉トークイベント「デザインは笑い」が、2023年8月25日に行われるようだ。詳細はここから主催者サイトへ


わらうデ

出版社 : 羽鳥書店
発行日 : 2023/5/8
単行本 : 270ページ
定 価 : 2,300円、税抜き

著者プロフィール
梅原 真(うめばら まこと)
高知市生まれ。高知県在住。「土地の力を引き出すデザイン」をテーマに「そこにあるもの」をデザインする。柚子しかない村の「ぽん酢しょうゆ・ゆずの村」。かつおを藁で焼く「一本釣り・藁焼きたたき」。荒れ果てた栗の山から「しまんと地栗」。4㎞の砂浜を巨大ミュージアムに見立てる「砂浜美術館」。四万十の鮎を原稿料に『水』の本。高知の森林率84%を自慢する「84プロジェクト」。秋田美人をモチーフにした「あきたびじょん」。島根県隠岐郡海士町のアイデンティティ「ないものはない」のプロデュースなど。農林水産省の支援を受け、一本の川全体の生き方をブランディングする「しまんと流域農業organic」進行中。MBA(Master of Bunkou Administration)が取得できる、実技と座学の学校「しまんと分校」を建設中。2016年、毎日デザイン賞特別賞受賞。武蔵野美術大学客員教授。

トップの写真:かつらの木陰

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