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新国立劇場バレエ団「シェイクスピア・ダブルビル」:『マクベス』『夏の夜の夢』

シェイクスピアの悲劇『マクベス』と喜劇『夏の夜の夢』のダブルビル。各1時間のバレエ作品ながら見応え十分だった。公演の関連イベントも行われ、私が鑑賞した日は『マクベス』主演の2人によるアフタートークだった。

『マクベス』の音楽には、スコットランド出身のジェラルディン・ミュシャが1965年にこのシェイクスピアの戯曲をイメージして作曲したバレエ音楽を編曲したものが使われた。生演奏のオーケストラにピアノが加わり、太鼓の音がスコットランドっぽさを醸し出す。

ウィル・タケットが振付を担当した新作であり、シンプルな舞台装置や大道具のテーブルなどの使い方の演出や照明も巧みで、登場人物たちの心理描写に大いに寄与していた。舞台から遠い席で見たが、伸び伸びと(時におどろおどろしく、また繊細に)ダンサーたちはストーリーを表現しながら踊っていた。

公演に際して、流血表現や子役への残虐な行為の描写について事前に注意喚起があったが、特に子どもたちの殺害場面は原作の戯曲や舞台化・映画化などでも特に残酷に感じられることが多い。バレエといえど、その残虐性はしっかりと表現したかったのだろう。そうした場面があるからこそ、マクベス夫妻の葛藤や多面性、心情や関係の変化がより深みを増して迫ってくる。

マクベス夫人の亡骸を抱えてあたかもパ・ド・ドゥを踊るようにその身体を振り回すマクベスは、夫人を物のように扱っているようにも見えて不気味だった。夫人が死んでいるとは信じたくないと思っていて、またマクベス自身も狂気の縁へ引きずり込まれそうになっているという演出なのかなとも思うが、あまり気持ちのいいシーンではない。しかし、それが狙いなのかもしれない。

『夏の夜の夢』はフレデリック・アシュトン振付の、バレエファンにはおなじみの作品だが、私は生の舞台では初めて見た。合唱が2曲入っていてびっくり。

原作では人間界と妖精界が対比または呼応するように描かれるが、このバレエ作品は主に妖精の世界で展開する。原作の公爵とその妻となるアマゾン国の女王も登場しないようだ。バレエの主役は妖精の王オーベロンと妃ティターニア。オーベロンに仕えるいたずら者の妖精パックと、パックによって頭がロバに変えられた人間の職人ボトムが準主役だ。人間の4人の若い男女(最終的に2組のカップルとなる)も舞台に花を添える。

ボトムのユーモラスな動きは、近くに座っていた子どもの観客の笑いも誘っていた。演劇ではパックは小柄な俳優が演じることもあるが、今回はバレエダンサーらしい体つきながら身軽に動くパックで好感を持った。

『マクベス』は新作のため最近の作品らしくスピーディーに展開し、『夏の夜の夢』もスピーディーではあるが、ところどころに拍手のタイミングがあり、大団円で幕となるところは、古き良きクラシックバレエを思わせる。

『夏の夜の夢』は楽しく終わるので(魔法が解けてとんだ目に遭ったボトムや、魔法が解けないまま結婚するディミートリアス、妖精王夫妻の間で物のようにやりとりされる「妖精の取り換え子」など、実は陰となる要素もあるのだが)、上演順が『マクベス』『夏の夜の夢』だったのはよかったと思う。

アフタートークでは、マクベス夫人を踊った小野絢子さんがいい意味で空気を読み過ぎずに率直に語っているようで、面白かった。

公演情報

2022/2023シーズン
新国立劇場バレエ団
シェイクスピア・ダブルビル
マクベス<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>/夏の夜の夢<新制作>
Shakespeare Double Bill
The Tragedy of Macbeth / The Dream

公演期間

2023年4月29日[土・祝]~5月6日[土]

公演日程

2023年4月29日(土・祝)14:00 託児サービス利用可
2023年4月30日(日)14:00
2023年5月2日(火)19:00
2023年5月3日(水・祝)14:00 託児サービス利用可
2023年5月4日(木・祝)14:00
2023年5月5日(金・祝)14:00
2023年5月6日(土)14:00

予定上演時間

約2時間30分(マクベス60分 休憩30分 夏の夜の夢60分)

会場

新国立劇場 オペラパレス

スタッフ

『マクベス』
【振付】ウィル・タケット
【音楽】ジェラルディン・ミュシャ
【編曲】マーティン・イェーツ
【美術・衣裳】コリン・リッチモンド
【照明】佐藤 啓

『夏の夜の夢』
【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フェリックス・メンデルスゾーン
【編曲】ジョン・ランチベリー
【美術・衣裳】デヴィッド・ウォーカー
【照明】ジョン・B・リード

キャスト

『マクベス』
【マクベス】福岡雄大(29, 2, 4, 6)、奥村康祐(30, 3, 5)
【マクベス夫人】米沢 唯(29, 2, 4, 6)、小野絢子(30, 3, 5)
【バンクォー】井澤 駿(全日)
【3人の魔女】
  奥田花純、五月女遥、廣川みくり(29, 2, 4, 6)
  原田舞子、赤井綾乃、根岸祐衣(30, 3, 5)

『夏の夜の夢』
【ティターニア】柴山紗帆(29, 2, 4, 6)、池田理沙子(30, 3, 5)
【オーベロン】渡邊峻郁(29, 2, 4, 6)、速水渉悟(30, 3, 5)
【パック】山田悠貴(29, 2, 4, 6)、石山 蓮(30, 3)、佐野和輝(5)
【ボトム】木下嘉人(29, 2, 4, 6)、福田圭吾(30, 3, 5)

【指揮】マーティン・イェーツ
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【合唱】東京少年少女合唱隊

チケット料金

S席 13,200円
A席 11,000円
B席 7,700円
C席 4,400円
D席 3,300円
Z席 1,650円
(10%税込)

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