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『フェミニズムってなんですか?』清水晶子著

雑誌『VOGUE』のサイト「VOGUE CHANGE」に掲載された連載「VOGUEと学ぶフェミニズム」を書籍化したもの。

「一般向け」が意識されており、入門の入門といった内容だが、多彩なトピックが多角的な視点から紹介されている。

#MeToo 、セックスとジェンダー、生殖、身体、人種差別、Black Lives Matter(BLM)、同性愛者やトランスジェンダーなどのセクシュアル・マイノリティ、インターセクショナリティ、女性リーダー、性暴力、エッセンシャル・ワーカー、ケア、性教育、結婚、夫婦別姓、同性婚、スポーツとオリンピック、セックスワーク、中絶、家族など。

自身や家族のヌード写真で知られるアーティストの長島有里枝さん、スポーツとジェンダー・セクシュアリティの研究者である井谷聡子さん、台湾出身でセクシュアル・マイノリティを描く小説家の李琴峰さんの3人がそれぞれ著者と対談した話も収録されている。

最近気になっている「家父長制」。これまで考えていたよりも広くはびこっている概念であり、フェミニズムに関するあらゆる問題と関係し、思っていたよりも多くの人をむしばんでいるのかもしれない。

家父長制とは、女性の再生産能力とセクシュアリティとを男性支配の存続のために利用する仕組みのことです。その制度のもとでは「女性の再生産能力を誰が支配するのか」が問題となり、性暴力もその支配と密接につながっています。

清水晶子『フェミニズムってなんですか?』文藝春秋、2022年、p. 102

日本で最も権力を持つ政党の政治家が、「子どもを産んだ人の奨学金返済を免除すればいい」とか言うのも、「女性の再生産能力の支配」からの発想と思える。この政党を、日本の選挙権を持つ人たちが支持していると考えると、心底ぞっとする。

個別の身体経験や感覚と、社会を変えていく運動や政治へと結びつけるための共通化・抽象化・言語化を両立させる重要性と困難さも語られている(本書、pp. 234-235)。学問や運動としてのフェミニズムの難しさは、本当にまさにここにあるのだろう。

フェミニズムの出発点(の一つ)は、不当な扱いに対する違和感、不満、怒りなどの感情であり、それを「空気を読んで」抑えつけたりせずに、社会に向けて表現することが大切だ(本書、pp. 12-14)、ということからは、フェミニズムへの誤解が生じるさまも見えてくる。昔からある「ヒステリック」といった偏見だ。「ごたごた言わずにおとなしく我慢しておけ」というその圧力こそが、フェミニズムが存在しなければならない理由になっているというのに。

社会と人々に巣くう「家父長制」への信念は根深い。本人たちも気づいていないレベルで思考や行動の奥底に宿っている。根絶するために何ができるのか、自分の中にも残っているであろう危険な思考にも向き合いながら、考えたい。


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