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【音楽コラム】人生の泣き笑いを感じる5曲【夜明けはいつ来る?】

割引あり

音楽って、素晴らしいものですよね。
(金曜ロードショー風)

人生、何かと泣きたくなるようなことが多いわけですが。
日々をやり過ごしているうちに、気づけば時間ばっかりが経っています。
もう二十年経った、三十年経った、と言われても、にわかには信じられません。
絶対信じてやるものか、という気にもなってきます。
しかし、身の周りを見ていても、人はみんないつか亡くなってしまうのも事実で、自分もまた例外ではありません。
それならば、悲しみ苦しみを踏まえた上で、せめて生きているうちは楽しげな人でいたい、と思えてきます。
すると、今まで過ごしてきた時間の一瞬一瞬が、ひどく愛おしく感じられてきます。
なるたけ全てを肯定しつつ、おかしみや愛おしさを感じながら、笑って生きてゆきたい。
そんな気持ちで、大好きな5曲を選んでみました。
それではどうぞ!👇


①「Disco2000」 Pulp

90年代半ばのイギリス、ブリット・ポップというムーブメントの中でも一際異彩を放っていたPulp。
男女混成多人数バンドで、変なキーボードの音色とか、ギターの代わりにバイオリン担当がいたりして、何だか劇団みたいな雰囲気でした。
その言わば看板主演男優が、ジャーヴィス・コッカー。
ふにゃふにゃした理系風イケメンで、デーモン・アルバーンやリアム・ギャラガーとはまた一味違ったポップ・アイコン。
しかし実は1970年代末にバンドを結成し(デイヴィッド・ボウイがベルリンにいたころですよ!)、あまりに長い下積み期間を経てようやくブレイクした、究極の苦労人でもありました。
その代表曲と言えば、ギリシア人大富豪の娘とのやり取りを通してイギリス社会を風刺した「Common People」。

(ちなみに当時の雑誌でイエモンの吉井さんと対談して、『サンプルCD聴いてくれました?』『対バンしたら負けねえよ』と食い気味のロビンソンに対し、『ホテルにCDプレーヤーないからまだ聴いてないんだ』などとさらっと受け流してしまうジャーヴィスであった)

PULPは人生のペーソスを描く名手でもありましたが、中でもお勧めしたいのがこの「Disco2000」。
キラキラしたサウンドとメロディによって描かれるのは、幼なじみの女性との再会の顛末。

「2000年になったら会おう、君の赤ちゃんも連れてきていいよ」というのが泣けます。
今はもう、2024年です。

②「SURVIVE」 David Bowie

史上最高のアーティストかもしれないデイヴィッド・ボウイ。

星の数ほどある、星のように素晴らしい(スターマン!)名曲群の中から、この歌を選ぶ人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
しかし、彼の全てのアルバムを聴いてきた私が一番好きなのは、この「SURVIVE」なのです。

70年代にアーティストとして、80年代にポップスターとして、最盛期を迎えたボウイは、90年代にアート路線へうまく戻りきれず、良いような良くないような、徹底的にクサするほどでもないが称賛するほどでもなく、マニア受けとも言い切れない、モソモソした迷走期に入ります。

そういう迷走期の中でも、「ゲームのサントラとして作り始めたが思ったより良かったので自分の名義にした」という、どう考えても名作になりそうもない来歴を持つアルバム『hours…』に、この曲は収録されています。

このタイトルを一見すると、さしずめ「生き残れ!」「生き残ったぞ!」みたいな曲に思えるのではないでしょうか。
ところが、全くそんな内容ではありません。
昔の叶わなかった愛の思い出を、今もって何も叶えられたことがない、という視点から歌ったものです。

Where's the morning in my life? /
 (僕の人生の朝はどこにある?)
Where's the sense in staying right? /
 (しっかり保たれる感覚はどこにある?)
Who said "Time is on my side"? /
 (『時は味方』だなんて誰が言った?)
I've got ears and eyes but nothing in my life /
 (耳も目もあるけど 僕の人生には何もない)
But I'll survive your naked eyes  /
 (それでも君の剥き出しの瞳に)
I'll survive /
 (僕は残るだろう)

➂「ペンション」 岡村靖幸

岡村ちゃんの4thアルバム『家庭教師』は、日本のポップミュージック史上屈指の名作と言われています。
あのミスチルの桜井さんが、このアルバムを聴いて「自分はただ岡村靖幸Part2になりたかった」と感じたというくらいです。
「ペンション」は、余韻に満ちたそのラスト曲です。

「和製プリンス」と呼ばれることも多い岡村ちゃん。
「和製〇〇」と呼ばれた人の中では、一番才能があるのは間違いないと思われます。
ただ、プリンスも大ファンの私からしてみれば、二人は表面上、同じようにセクシャルな表現方法は採用しているものの、一人の人間としては真逆だと感じられます。
元バスケ部で、身長180センチもある、ギラギラしたイケメンの岡村ちゃん。
身長160センチしかない、引きこもってギターを弾き続けていた虚弱体質のプリンス。
神のごときダンスを披露するために鎮痛剤を常用し、ついには服用過多で亡くなってしまいました。
プリンスにとっては、ラブもセクシャルもゴッドも、永遠に到達できない憧れに向けられた叫びに他なりません。
「ビスケットLOVE」や「だいすき」のような曲は、プリンスのオマージュであるにもかかわらず、決してプリンスに作ることはできない。
本人の手にかかると、「Head」や「Darling Nikki」や「Eye know」のようになってしまうのです。

しかし、岡村ちゃんの表現には、また別種の痛みがあります。
それは「男の子が成長するときの痛み」です。
「青春の蹉跌」と言ってもいいかもしれません。
それが最も美しく表現されたのが、『家庭教師』収録の「カルアミルク」であり、「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」であり、そしてこの「ペンション」なのです。

曲がる順序 間違えて最終のバスに乗りそこねたけど
平凡な自分が本当は悲しい
君のために 歌のひとつでも作ってみたい
Oh my baby 素敵だぜ
いつか青春を振り向いた時
最高の夏 そして一番美しく心に灯したい

④「Goodbye Happiness」 宇多田ヒカル

日本の音楽史には、他の追随を許さない天才、と呼ぶべきアーティストが何人かいます。
井上陽水、中島みゆき、松任谷由実など。
宇多田ヒカルは、もちろんそのうちの一人です。
彼女が日本の音楽界の景色を一変させた、それも十代の若さで成し遂げた、というのは、同時代を生きた者からすれば、あまりにも鮮烈で忘れがたい事件でした。

あまりの若さで破格の成功をおさめた彼女ですが、ジャニス・ジョプリンやカート・コバーン、藤圭子的な破滅的な未来をたどることはありませんでした。
コンスタントに作品を発表し続け、その深みは増し、昔よりも美貌はますます輝き、ファンとともに生き続けることの素晴らしさを伝えてくれています。
(その点、私の大好きな川本真琴さんと同じです)

そんな彼女が、二作目のベストアルバムに収録の新曲として発表したのが、「Goodbye Happiness」でした。
👇自身初監督のMVが、とにかくかわいい。
(YouTube黎明期の作品だと思うとなおさらです)

ダンサブルなトラックと、胸を締めつけられるようなメロディー。遠い日の思い出と時が経った現在の、ビタースウィートな対比を感じさせる歌詞の内容になっています。

So Goodbye Happiness
何も知らずにはしゃいでた
あの頃へはもう戻れないね
それでもいいの Love me
Love me Love me

おお 万物が廻り廻る
Oh ダーリン ダーリン
誰かに乗り換えたりしません
Only you

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