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『君たちはどう生きるか』を君たちはどう受け取るか

結局アニー賞を獲ったのか獲ってないのかよく分からないアニメ映画『君たちはどう生きるか』。
ちゃんとした賛否両論で、評価する人としない人がパックリ分かれているのが面白い。SNSの評価も5点満点の3点弱くらいで、ほんとに半々なんだなーと逆に信頼できる感じがします。私自身は、結構好きでした。面白い!オススメ!とは全然思わなかったけど、観る意味があり、心に残る映画でした。

※ここからは流れるようにネタバレしますので、知りたくない人は読まないようにご注意ください。

最初に思ったのは、これは宮崎駿さんの遺言だ、ということです。
自分がいなくなった後の世界に対して、言っても仕方ないと思いつつ言っておきたいことを書いた話だな、と。
「世界を構築したいなら、大した威力もない武器しか持たないままで後先考えずに飛び込むしかないよ」というメッセージを感じました。
これを若い人に言いたい気持ちは、自分にもちょっと分かります。
最近のフィクションは、チート能力で無双する系の話が多すぎて共感できない。それも転生前の知識が転生先では圧倒的だとか、血統的なアドバンテージでスゴイの能力を持ってるとか、苦労せずに得た力で絶対的優位で勝つ、みたいな。逆転スカッとといえば聞こえはいいけど、ラクしすぎちゃうか?と一抹のモヤモヤが残ります。それは勇気でも挑戦でもないねえ、と思っちゃうのです。もちろん勇気や挑戦がなくてもいいんです。逆にそれがテンプレ化しすぎたから、新たなフォーマットとしてチート物が生まれたのかも知れません。でも私や駿は、それを残念に思っているということです。
というか、フィクションの型としてそれがあるのはいいのですが、現実はそれでは立ち行かないよ、と考えているのです。
思えば宮崎駿作品はいつもこのメッセージに溢れていました。『天空の城ラピュタ』『紅の豚』『千と千尋の神隠し』どれも未熟な主人公が(紅では若いフィオが)すでに強者である他者に挑む話です。これが宮崎駿さんの経験則であり人生訓なのでしょう。最後までその信念が揺らがないことに感動さえします。
でも本当に、圧倒的勝者の一強時代にただ従うのがイヤなら挑む以外にないと思うのです。もちろん対策して準備するのは大切です。でもまともに考えたら、一強に絶対勝てる準備なんて不可能です。安全確実は無いんです。
勝ち逃げした年寄りが安全な場所から好き勝手言いやがって…と思うのは無理からぬことかもしれませんが、駿自身もそうやって「世界」をつくったんだと思いますよ。それがもう崩壊寸前だと、ストレートに言ってたじゃないですか。
この映画はだから、それなりの年齢の人が観た方が評価が高い気がしますが、駿は若い人に伝えたくて作ったと思います。需要を図ってではなく、ある種の義務感と衝動で作った映画。だから宣伝もしなかったんじゃないでしょうか。興行的な成功は難しいから、赤字がでないように先回りして。そういうところは抜かりない大人です。

義母の存在とか何かよく分からないところも多かったけど、そんなにハードルの高い観客でもないので(お客様感謝デーで1300円で観たし)、十分元はとれた印象です。これから観るという方も、定価じゃなくて1300円くらいで観ると楽しめるんじゃないかと思います。ではまた

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