小説家の連載 夫が絶倫過ぎて離婚しました 第5話

【前回のあらすじ:切迫流産で安静と言われた七海は、絶倫夫から逃げるために兄夫婦の家に避難。夫の大和から電話がかかってきて、兄に代わってもらう。兄・圭太の追及には大和も勝てない。妊婦と赤ちゃんに比べたら夫の性欲なんてどうでもいいと圭太は言い放った】

「もうあいつは駄目だよ。離婚した方が良い」
 電話を切った圭太は、うんざりした顔で言い放つ。
「だって、もしやり直してもさ、赤ちゃんが生まれた後、俺はよく知らないけど、きっと大変だろ?体もがたがただろうし、そもそも赤ちゃんの世話でさ、行為どころじゃないじゃん」
「うん、産後1か月はできないって」
「だろ?でもさー絶対あいつ我慢できるとは思えないもん。今ですら我慢できないのに、1か月もなんて無理だよ。出産前も、いつ産まれるか危ないぐらいの時に迫ってきそうだよな。獣かよ。いい年して中学生みたいな性欲の持ち主だよ」
「ただの絶倫っていうより、なんかもう病気じゃない?だいたいアラフォーで毎晩やりたがる時点でやばいって絶対」
 兄嫁も顔をしかめる。
「そこまで性欲強いと怖いよね。結婚前に気づかなかったの?」
「結婚相談所はそういうの禁止だから・・・」
「あぁ、確かに。でも相談所もそういうの禁止にするの間違ってるかもね。こういう絶倫が混じってるの見抜けなくない?にしても、怖いわ」
 兄嫁は冷蔵庫からビールを出してきて、ぐいっと一口飲むと、続けて、
「そもそも、アラフォーのおじさんが、10歳も年下の女の子と結婚する時点で、なんかどうかなあとは思ったけど、まあそこまでやばいようには見えなかったし・・・性欲以外はましなのかなあ」
「うーん。モラハラなのかな?」
「ねぇ、あんた私が体調悪い時に迫ろうって思う?」
 夫に問う兄嫁。
「いや、それより看病する」
「だよね。って事はそいつおかしいのよ。あの、こういう事言いたくないんだけど、離婚はした方が良いけど、産むのは、どうかなあ。七海ちゃんがいいならいいんだけど、そいつの子でしょ?」
「うーん。そう思うよね」
「うん、シングルで育てるって相当大変よ。もちろん、悪い事ではないんだけど、七海ちゃんはまだ若いし・・・死別した夫の子供を育てるのと、絶倫夫の子供を1人で育てるのって、全然違うよね。それにもし男の子だったら、旦那に似るかも」
 3人は黙り込んだ。
「とりあえず、父さんと母さんにもこの事を説明した方がいい。もし離婚して1人で育てるにしても、父さんと母さんの協力がいると思うし。俺から話をしておくから、話し合いをしよう」

 という事で、圭太が両親に連絡し、この事は親に伝わった。両親は七海に同情し、大和に憤慨していたようだ。七海を実家で静養させようと言ったようだが、兄が、
「とりあえずしばらくうちに居てもらいたい。今切迫流産で、あちこち移動するのも良くないだろうから、医師から大丈夫と言われるまで、うちに居てもらう。猫も懐いているし」
 と両親を説得したらしい。
 その後、兄の尽力によって、2週間後の日曜日に兄宅で両家の親を交えて話し合う事になった。大和や大和の父もどうにか来る事になったらしい。大和は毎日電話をかけてきたが、七海は出ずに無視していた。

 兄嫁は産婦人科へも一緒に付き添ってくれた。出血はおさまったものの、鈴木医師はまだ安静にしているように告げた。赤ちゃんは生きてはいるものの、初期で数ミリの大きさだし、まだまだ予断を許さない状況なのだ。
 中絶についても考えたが、お腹の赤ちゃんは可愛いし、簡単に判断できる事ではない。とは言っても、1人で育てるのも・・・。
 もし中絶するなら、鈴木医師に言われたように、早い方がいい。とは言え、すぐに決断できるとも思えなかった。
 兄嫁に付き添ってもらって法テラスにも行ったが、夫から性行為を強要された証拠が無いので、何とも言えないと言われた。兄嫁は憤慨していたものの、確かに、浮気された訳でも無いし、暴力や暴言を受けていた訳でもない。体にあざがあるのでもないし、LINEで脅迫めいた事を言ってきているのでもないから、物的証拠が何も無いのだった。
「どうしたらいいんだろう・・・」
 法テラスから帰ってきた後、兄嫁がフルーツタルトを作るためにスーパーへ材料を1人で買いに行った。フルーツタルトは七海の好物の一つだ。七海を元気づけようとして、手間のかかるスイーツを作ってくれるのだ。兄嫁は本当に料理が上手だ。七海は兄嫁が帰るまで、客用の寝室で横になっていた。足元に猫のダージリンも居る。
 寝っ転がってスマホをいじっていると、LINEにメッセージが届いているのに気付いた。一応友達登録はしてあるものの、ほとんどやり取りが無いアカウントだ。
「え、これって・・・お義姉さん?」
 メッセージを送ってきたのは、両家顔合わせで連絡先を交換したっきりの、夫の姉。夫と七海は10歳離れているが、その夫より更に年上の夫の姉と、取り立てて話す用事も無く、最初に挨拶のメッセージを書いたきり、そのままになっていた。
 夫の姉・42歳の優子は、
「突然ごめんなさい。弟から連絡があって、今度話し合いをするそうですね。私がでしゃばるのは筋違いだけど、弟とうちの父だけじゃ暴走するかもしれないから、話し合いに同席してもいいかしら?本当にごめんなさい」
 優子は独身で、バリバリ働いているのは知っていたが、今日は平日なのに、メッセージを送ってくる時間があるのだろうか。
 七海は同席を許可するのと、忙しいのにすみませんという内容を送った。すると義姉は、今は個人で仕事をしているからいつでも時間が作れるのだと言い、更に、
「できれば、全員で話し合いをする前に、七海さんにお会いして詳しい事情を聞きたいの。私はあなたの味方だから、安心して欲しい」
 と返ってきた。
 七海は切迫流産で安静中の身だし、ほぼしゃべった事の無い義理の姉と一対一で話す元気が無い。だが、顔合わせの時もまともそうに見えたし、もし義姉が味方なら、心強いかもしれない。
 悩んだ末に、兄宅に来てくれる事と兄嫁の同席を条件に、義姉との話を承諾したのだった。
                             次回に続く


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