小説家の連載 夫が絶倫過ぎて離婚しました 第3話

【前回のあらすじ:妊娠が発覚した妻の七海は、妊娠初期である事を理由に性行為を拒むも夫に理詰めで反論されてしまう。しょうがなく応じていたら出血して切迫流産と診断されるが・・・】

「せ、切迫流産ですか?!」
「はい。切迫流産とは・・・」
 鈴木医師は切迫流産の説明をじっくりした後、
「赤ちゃんが危ないですから、食事とトイレとお風呂以外は安静にしておいてください」
「し、仕事は?私在宅仕事なんですけど・・・」
「座ってされますか?」
「はい。翻訳の仕事で」
「仕事をするなと言う権利はこちらにはありませんが、安静にしておいて頂きたいので、その辺は仕事先の方とご相談された方が良いのでは」
「そうですね、そうします」
 医師は七海の顔をじっと見ながら、
「産む事にされたんですね」
 と言った。七海は少し微笑みながら答える。
「はい。やっぱり、ママになりたくて」
「そうでしたか。ご主人との関係は良くなったんですか?」
「いえ、それが、実は・・・」
 七海は、大和のせいで切迫流産になった事を説明する。
 鈴木医師は険しい顔になった。
「それは・・・入院措置をした方が良いかもしれません。入院しますか?今のまま自宅に居ても、そのご主人なら出血したから安静と言うのは聞き入れそうにない気がします」
 医師の言葉に、七海はがっくりとうなだれた。
「そうですね、私もそう思います。もう一度だけ話をしてみます。それで駄目なら、入院を・・・」
 そう答えながらも、いや、でも入院したところで、永遠に入院する訳にもいかないし、退院したらまた同じ事になるのでは?と七海は思った。
 病院は午前中に行ったので、昼休みの時間帯に大和に電話をかけて、事情を説明した。
「という訳で、セックスはもちろん禁止って言われたし、絶対安静って言われたから、家事も無理。仕事もしばらくおやすみして、寝ていようと思って」
 と告げると、電話口の向こうで、大和が溜息をついた。
「はぁ・・・がっかりだよ。なんか、七海って、そんなに体弱かったの?子供もさ、俺の子供にしては、貧弱だよね、その程度で流産しそうって。七海も子供もどっかおかしいんじゃないの?俺の周りでそんなの聞いた事無いよ」
 これには流石に七海もキレた。
「はぁ?!自分の子供だってわかってるでしょ?!あなたの子供が危ないのに、自分の事ばっかりなの?謝ってよ!」
「大げさだなあ。妊娠なんて今まで何万人の女がこなしてきたと思ってるの?そんなにしんどいなら、家政婦でも雇ったらいいよ。七海はしっかりしたいい子だと思ったのに、そんなに甘えるなんて、がっかりした」
 あまりの冷たさに、電話を切った後、七海は泣いた。
 もう無理。離婚しよ。弁護士さんに恥ずかしい話聞かせても、もうどうでもいいわ。
 その前に、ここから逃げないと。このまま家に居ても、どっちみちまた夜には体を求められるし、家事もいつも通り担当分をやらされるに決まってる。仕事もしないで寝てた事も文句言われそう。
 だけど、いきなり実家に帰ったら親が心配しそうだし・・・。
 その時、いつでも頼れと言ってくれていた兄の言葉を思い出した。とは言え、兄の圭太は仕事中で、電話する訳にもいかない。
 兄嫁なら?兄嫁は兄と同い年の31歳、専業主婦で家に居る。兄嫁と七海は割と仲が良く、七海の結婚前はよく兄を置いて二人で出かける仲だった。二人で旅行にも行った事がある。兄夫婦はあえて子供を作っていないのも知っている。でも頼っていいのか・・・。
「背に腹は代えられないし、電話してみよう」
 七海は腹をくくって、兄嫁に電話した。兄の家は七海と大和の家から比較的近い。とりあえず一晩泊めてもらって、あとは実家に避難すればいい。
「はい、もしもし」
 電話口に出た優しい兄嫁の言葉を聞いて、泣きそうになりながら七海は事情を話した。
「あ、お義姉さん、私、七海です。もう限界なの。実は・・・」
 途中で泣きながら助けを求めると、兄嫁は黙って聞いていたが、やがて電話が切れてしまった。
 あぁ、やっぱり迷惑だったよな。そりゃそうだよな。もう、実家に帰るか・・・と思っていると、しばらくして、インターホンが鳴った。
「え?!」
 来たのは兄嫁だった。ドアを開けると、兄嫁は七海を優しく抱きしめてくれた。
「七海ちゃん、辛かったね。荷造り手伝いに来たよ。とりあえず、うちにしばらく居なよ。妊婦さんは、安静にしてなきゃでしょ?うちで寝てればいいよ。私、話し相手も欲しいし」
 笑顔で安心させてくれる兄嫁。
「でも、お義姉さん、私」
「いいのいいの!それより、荷物、どうする?」
 兄嫁は、てきぱきと、避難の準備を手伝ってくれた。仕事で使う分厚いフランス語の辞書や、七海の洋服、化粧品、かさばるものが多い。でも、結婚前にある程度断捨離しておいたのが良かったらしい。私物の大半は持って出る事ができそうだ。大きめのトートバッグや、スーツケースに荷物を詰めまくる。
「あ、でも、どうやって運ぼう」
 七海は運ぶ方法を考えてなくて、困った。兄嫁も七海もペーパードライバーで運転ができない。
「私、ダイエットも兼ねて、電車二駅と、あとは歩いてきちゃったんだよねえ。でも大丈夫、タクシー呼ぶから!お金ならいいよ、私圭太君からたんまりお小遣いもらってるし」
 笑いながら言う兄嫁に、七海は安心させられたのだった。
 タクシーのトランクに、荷物を詰めた。妊婦に重い物は持たせられないと、兄嫁が頑張って荷物を運んでくれた。七海は申し訳無いと思いつつも、兄嫁の好意に甘えるのだった。
                             次回に続く
 
 

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