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連載:「新書こそが教養!」【第7回】『盗まれたエジプト文明』

2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

今も謎のクレオパトラの墓

2020年11月14日、エジプト政府は、首都カイロ近郊のサッカラ遺跡で、2700年以上前の100基以上の封印された棺を発掘したことを発表した。公開されたのは、古代エジプト第26王朝からプトレマイオス王朝時代(紀元前8世紀~紀元前1世紀)に埋葬されたと推定される棺・ミイラ・副葬品で、保存状態は良好だという。壮大なロマンを掻き立てる大発見ではないか!

本書の著者・篠田航一氏は、1973年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、毎日新聞社入社。東京本社社会部記者・ベルリン特派員・カイロ特派員などを経て、現在は外信部デスク。著書に『ナチスの財宝』(講談社現代新書)や『ヒトラーとUFO』(平凡社新書)などがある。

さて、2017年から3年間、カイロ特派員としてエジプトに赴任した篠田氏が惹かれたのは、5000年前から今も続く「盗掘」の話である。ルクソールの土産物店に入ると、墓から盗掘したという副葬品の「本物の遺物」を店主がレジの下から取り出して売ろうとする。私にも経験があるが、なぜか彼らの表情は「骨董品」を高値で売りつけようとする日本人に似て、胡散臭い(笑)。

ファラオの神権政治に基づく古代エジプトは栄華を誇り、多くのピラミッドを建設した。しかし、プトレマイオス王朝最後の女王クレオパトラがローマ帝国のオクタヴィアヌスに敗れて紀元前30年に自殺し、王朝は滅亡する。その後、エジプトの「墓泥棒」は、盗賊はもとより国家レベルで行われてきた。

ローマ帝国からヴィザンチン帝国時代、ミイラに「ビチュメン」と呼ばれる「万能薬」が塗られているという迷信が流行し、盗掘されたミイラがヨーロッパに密輸された。実は、ミイラの肌が漆黒なのは、保存用に皮膚に塗られた樹脂が化学変化したからだが、当時はフランシス・ベーコンのような知識人でさえ、ミイラの表皮を削って「血止め薬」に用いていたという。

18世紀、エジプトは軍事的要衝とみなされた。イギリスと敵対するフランスは、1798年、29歳のナポレオン・ボナパルト将軍を遠征させて、エジプトを侵略する。ナポレオンは、軍隊と一緒に、医学・化学・薬学・地理学・建築学などを専門とする科学者170名を同行させた。彼らはエジプトに関する研究成果を発表し続け、1929年に貴重な『エジプト誌』全23巻を完成させた。

ナポレオンの遠征軍が発見した「ロゼッタ・ストーン」には、古代エジプト語の「神聖文字(ヒエログリフ)」・「民衆文字(デモティック)」と「ギリシア文字」の3種類の文字で同一文が記述されている。この宝を、ナポレオン軍を破ったイギリスが戦利品として持ち帰り、今も大英博物館に展示している。エジプト政府の返還請求に対して、イギリスはレプリカだけを渡した。

本書で最も驚かされたのは、ドミニカ共和国の弁護士キャスリーン・マルティネス氏が、2005年から「私費」を投じて、今も謎の「クレオパトラの墓」探しに挑んでいるということだ。篠田氏のインタビューによると、彼女は「徐々に発見に近づいています。証拠を積み上げ、真実に迫る。それは法律家の仕事と一緒です」と話したという。古代エジプトの謎は、国籍・性別・年齢・職業などに関わりなく、全世界のあらゆる人々を魅了するらしい!(笑)

本書のハイライト

エジプトには「ナイルの水を飲む者は、ナイルに帰る」とのことわざがある。冗談じゃない。ナイルの水は不衛生で、とてもそのまま飲む気になれない。水に限らない。エジプトはテロの危険があり、ぼったくりは日常茶飯事で、万事いい加減な人も多く、予定が予定通りに進んだためしがない。悪態をつけばキリがない。でもそんなエジプトを初めて旅した二〇歳の頃から、実はずっとずっとあの国に惹かれ続けている自分がいる。(p. 249)

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