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【随想】小説『葉桜の季節に君を想うということ』歌野晶午

なかなかハードボイルドだった。
ハードボイルドという言葉であってるのか?
とにかく、書き味が猛々しいというか、雄々しいというか、勇ましい。
ネタばれ厳禁で、あらすじも書けないと言われるが、果たしてそうだろうか。
あらすじは、書いても特に問題ないような気がする。
自称なんでもやってやろう屋の主人公の成瀬将虎が、同じフィットネスクラブに通う久高愛子という女性から、蓬莱倶楽部という会社を調べてほしいとお願いされる。
成瀬は一時期、探偵事務所で働いていたことがあるのだ。
そんなある日、成瀬は電車のホームに降りて自殺しようとしている麻宮さくらという女性を助ける。
そこから、物語はいくつもの線を平行移動する。

①成瀬が探偵時代、裏社会への潜入捜査を命じられ、そこで起こった不可解な事件の顛末ついて
②成瀬が蓬莱倶楽部の闇を暴くために奔走する話
③成瀬がパソコン教室の生徒である安さんの生き別れた娘千絵を探す話
④古屋節子という女性が、蓬莱倶楽部によって転落していく話
⑤成瀬と麻宮の淡い恋模様

最後にこれらの線が一本に繋がるというのは、勿論ミステリーなのでそれはそうなのだが、どちらかというと、やはり成瀬という人物の性格や人生経験が伏線となって、ラストに込められたメッセージへと昇華していくところが見どころであった。
うん、何がハードボイルドかって、成瀬の探偵としての調査方法が、非常にアクティブでことごとく反社会的なのだ。
探偵というと、ついスマートな探偵を思い浮かべてしまうが、こういう探偵もいたっていいだろう。


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