見出し画像

拝啓、ダンテ様

僕がお前の作品に初めて触れたのは、15歳の夏休みだった。

La Divina Commedia神曲 (INFERNO地獄篇)』

アンドレアと中心街の図書館へ行ったときに、彼が勧めてくれたんだ。

名前くらいは知っている有名な作品だし一応読んでみるか、と思ってページを開いたら、変なイタリア語で書かれていて、ぜんぜん意味がわかんねぇ。
そう思うのは僕だけじゃないらしく、各ページ、その3分の1が注釈で埋められていた。

「なんでこんなのが名作なの?」と推薦者本人に尋ねると、
「理由は色々あるけど、単純な君でも分かりそうなのは、全編テルツァ・リーマで書かれているっていうことかな」という答えが返ってくる。
残念ながら、彼の想像以上に単純だった僕には、その意味が分からなかった。
しかし、『単純』と馬鹿にされた上に、
「テルツァ・リーマってなに?」などと、無知を露呈するのははばかられる。そこで、こっそりネットで調べると、

テルツァ・リーマとは、『1連3行からなり、各行末尾の単語のアクセント以降が、ABA、BCB、CDC...と韻を踏みながら続き、最後は前連2行目末尾の単語と同じ韻を持つ語で締まる1行ないしは2行で終わる詩』とのこと。

...なるほどね。

テルツァ・リーマが何なのか理解した僕の頭に、ひとつの疑問が浮かぶ。

『神曲』は、全編テルツァ・リーマで書かれてるって... この形式を保ったまま、こんなに長い話を書いたのか...?

百聞は一見に如かず、ということで、各行の末尾を辿っていくと、まさにその通りだった。
そこで、僕はお前のことを「こいつ、ガチでやべぇ」と思った。

注釈と、僕より前に本を借りたやつが残した書き込みを頼りに、とりあえず表面上は『La Divina Commedia神曲 (INFERNO地獄篇)』を読破して早8年。
今年、僕はテルツァ・リーマの短い詩を書き始めた。

ABA
BCB
C(C)

...正直、これで精いっぱいだ。
La Divina Commediaあんな長ったらしい物語を全部テルツァ・リーマで書けるのは、お前みたいな完全に頭のおかしいやつだけだ...と、思っていた。
今日までは。
でもさぁ、僕、気づいちゃったんだよね。テルツァ・リーマを長く続ける方法!

今までは漠然とした内容を思い描いて、それを韻を踏んで詩にしようとしてたんだけどさ、今日は書きたい内容をセンテンスの短い文章にして、それを3行に分けて、最後に韻を踏むように各フレーズの末尾を整えたんだよね。そしたらさ、上手くいったんだよ。

お前も、『La Divina Commedia神曲』そうやって書いたんだろ?
まず普通に話を書いて、そのあと3行に分割。で、最後に文末の単語の語尾を整えんの。
...今までお前のこと天才だと思ってたけどさ、案外ふつうだよね。
だって、僕にだってできるんだから!

...ん? 何連の詩を書いたのかって?

ABA
BCB
CDC
DD だから... 4連...

...なんだよ。今まで3連しか書けなかったんだから、すげぇ進歩だろ。
嬉しさのあまりお前に手紙なんて書こうと思ったんだから、大人しく褒めろ。
「さすがDantinoダンティーノ! 誰かが言っていたみたいに、いつかDanteダンテを超えてDantoneダントーネになるかもな」って...

なぁ、詩を書くのって楽しいね。
ずっと昔から教えようとしてくれていたのに、それに気付いたのは今になってからだったけど...
おもしろいことを教えてくれて、ありがと。

夏になったらまた墓参りに行くから、待っててよ。
11年前は、お前が昔眠っていたところに〇〇の種なんか植えちゃってごめんね。
でも、今度はすごくかっこいいテルツァ・リーマを葉っぱか何かに書いて持っていくよ。お前のかつての寝床を覆う緑の葉っぱの中に紛れ込ませておくから、天国でベアトリーチェと一緒に、
「なんだよ、この詩。下手だなぁ」って笑ってくれたら、とても嬉しい。

じゃあ、またね!

敬具

23.3.2023
Dantino

昔ダンテが眠っていた場所
ん…? 日付が…!