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小説「田舎町の地味な書店員 そこで輝く本屋の物語✨」

小説「田舎町の地味な書店員 そこで輝く本屋の物語✨」


https://youtube.com/@kimukamedia?si=3xFSojoFVWTt6dB4

ちょっと長めのお話です。
よろしければ、音楽を聴きながらお読みください♪



本を書く人の手伝いをしたい。
そんな夢を描き出したのは、いつからだっただろう?

映画「舟を編む」の編集者や石原さとみちゃん主演のドラマで知った校閲の仕事に興味を持つようにもなっていた。

「表に立つ仕事より、どちらかというと脇役の方が性に合う」
そう私は感じていた。
そして大学入学。

始まった平凡な学生生活。
サークルに入ったものの幽霊部員化し、毎日バイト三昧になるかな?
友だちがいないわけでもないけど、合コンにも行く気もしないしな。
でも…せっかくだから、
もう少し学生時代を楽しんでみようか…

しかし、そんな心配もするよしもなく襲ったパンデミック。
本屋に行く事も満足にできないステイホームな日々。

本を読むだけなら、あまり変わらない日常。
でも物足りない。
宅配便で届く本を受け取りながら、はっきり、わかった事がある。

「私は本屋が好きなんだ。」

コロナの波を何回か超える中、
私たちはオンラインでの就活の時期を迎えた。

名だたる大手の「〇〇出版社」や「有名書店」にエントリーシートを出すも全敗。
J堂やK屋、Y堂などの大手の書店…
あんなに、しょっちゅう通っていた憧れの書店。
なのに入社となると門は開かない。

本好きなら本を書く側もあっただろう。
でも私はそれにも興味が無かった。
司書のような本にまつわる資格をとっておけば良かったのかな?
ましてや営業なんて口下手な私にはやれそうも無い…
ただ本に、うもれて過ごす事が好きなのに…

世の中、難しい…



どうして本が好きになったかって?
それは幼い頃の原風景に由来するものかもしれない。

私の祖父母は、地方の小さな街で本屋をしていた。
もう私が小学生の頃には店を閉じたから今はもう無い。

オールウェイズ三丁目の夕日を配信で観ながら思った。こんな頃にできた街の本屋だったんだろうなぁ。
幼い頃、本屋のおばあちゃんの膝に座って絵本を読んでもらうのが楽しみだったな。

そんな日を思い出して、エモい気分になっている私にメールの着信音。
今日も「お祈りします」の文言。

そして、もうエントリーする気力もどこかに失せてしまい引きこもる日々が続く。

就活を次々と決める友人たちとオンラインだって顔を合わすのも苦痛になってきたよ…
大学に行く気にもならない。
ため息…

窓から注ぐ日差しに思った。
「季節も忘れかけていた…今って何月?」

そう呟きながら、私は思った。
部屋にいても鬱々とするだけね。
「どうせなら電車で本を読もう」
そこらにあった読みかけの文庫本をユニクロのラウンドミニショルダーに詰めて各停に乗って海の方へぶらりと出かけようか。

どこにでもありそうなチェーンのコーヒー店に入り一日を過ごし本を読み、夕方前には帰る。
そんな日を過ごしていた。

ちょっとずつメンタルも回復したある日、海辺に向かう電車に乗ってみることにした。
明るい日差しが眩しい。

いつものように、何となく降り立った街並みは幼い頃の原風景そのものだった。というか、おじいちゃん、おばあちゃんから聞いた話で、本当はみたことのない生まれる前の風景かもしれないけど…。

ちょっと早めのお昼ごはん。
働く人のランチタイムに被らない様にと今日は珍しく昔風の喫茶店に入ることにした。

老夫婦が営む昭和レトロな喫茶店。
日の当たる窓辺に座った。
ナポリタンを食べ終えて、セットのコーヒーを飲みながら私は思った。

「こんな所に住みたい…」

どうした私?
そんな突拍子もない思いが込み上げできたのだった。


その時だ。
カランカランというドアベルの音で私は振り返った。入り口に目をやると70前後の男性が店へと入って来た。

「よう、かっちゃん。今日は早いね」
「いや、店いたってお客も来やしないよ。ゲンちゃん」
「そうかい…」
「昔はね。親父の時代は立ち読みの客みると追い払うようにハタキをかけたりしてたけどね。今じゃあ、あんな立ち読み客でも来てくれたらなっておもうよ…」
「寂しい時代だね…」
他の客もいない静かな店内には、サイフォンのコポコポとした音が響き、店には珈琲の香りが広がった。
チェーン店では気づかなかった懐かしさがこの喫茶店には、いっぱいある。

「それでかっちゃん、さやちゃんの具合は最近どうだい?」
「ありがとうね。まあ、退院したものの、きつそうかな。寝たり起きたりって感じだね。帰って来られただけ、ありがたいよね」
「そうだよね」
「本屋って言ってもさあ。高い所の本を出し入れしたり、仕入れた文房具を陳列するのも、最近の俺たち夫婦には重労働でさ。そろそろ潮時かなってね」
「わかるよ。考えるよな…。でも親父さんから続いた店だろう…寂しくないかい?張りにもなってんだろうし。誰かバイトでも頼んだら?」
「こんな田舎の小さな本屋に来る子がいるかね…」
「バ、バイト…?」私は、そう呟いた。
どこにそんな積極性を持ってたのか?とツッコミを入れたいくらいの大きな声で、とっさに話に割り込んだ。

「…やります!私、この街で働きたいんです!本が好きだし…私のおじいちゃん本屋だったんです!」




私は晴れて、その本屋に採用された。なんと2食付きの正社員の待遇で。

「おはようございます!」
その街に引っ越した私は自転車で颯爽と出勤した。

「おはよう、舞ちゃん。ほんと、助かるよ」
「おはよう舞ちゃん、今お茶入れたところよ。ご飯は食べて来たかい?」
「舞ちゃんが来てから、母さん張りが出たのか、すっかり元気になったよ」

本屋のおじさん、おばさんは私のことをすごく可愛がってくれて居心地が良い。

でも、ほぼ客は来ない。
売れた本は日に数冊。
そんな日が続いた。

「駅ビルの中の本屋すら閉店する時代だからね…」
大切な本屋に閉店して欲しくない一心で、私は勇気を出して言った。

「あの…社長さん。考えたんですけど。ここをパリのカフェっぽい本屋にしたら、どうかなって…人の事はわからないけど、私なら、そんな本屋に行きたいかなぁ…」
私は、ぼそっと言った。

すると、さやちゃん(社長夫人は、そう呼んでくれと言っている)が言った。
「いいわね!それ!で、どんなふうに?」
「あの…店の前にパラソル出してプランターにラベンダーとかバラとか植えて季節ごとに飾るんです。
お客様がそこで本をよめるようにしたら、なんか素敵そう。
本屋の前はパリって言うか…
南フランスのプロバンスみたいな花を植えて。
もちろんコーヒーとスイーツくらい食べられる所にして」
「うんうん、それで?」
「パリの音楽っぽいオシャレな曲を流して。そこに座りながらゆっくりできるブックカフェ」
「そりゃ、いいね。都会ではそんなの聞いたことあるけど、うちでやろうなんて思いもしなかったよ」
「あなた、ゲンさんの喫茶店の出前みたいに頼めないかしらね。
出張カフェにしてコーヒー出すんですよ」
さやちゃんものってきた。
「花も飾るだけでなくて農家さんの苗をワンコインくらいで買える商品として置いたら、お客様買っていきそう」
「そしてクッキーは…、
隣の駅前で評判のパン屋さんの手作りクッキーも頼んで置いてみたらどうでしょうか?本屋だけど、あれこれ集めて道の駅みたいにするんです」
「どんどんアイディア出るわね…さすが若い人は違うわねー」
「善は急げだ、ゲンちゃんとこに行ってくるよ」




本屋は生まれ変わっていった。

私は話題作りのためにSNSへ投稿し始めることを思いついた。

その店の様子を配信する中で、若者向けのあれこれのイベントをコラボしてできるスペースも企画した。
本当のこと言うと、私が企画というより、そんなスペースを求めていた若者が集まってきた。

就活生向けの本とメーク術、
オンライン面接向けのレッスンコーナーも行われた。

本屋の駐車場スペースでの野菜と花のコンパニオンプラントの作り方講座や防災サバイバルグッズと詳しい書籍のコーナーのイベントも実施された。
近所の診療所の先生を招いて認知症予防と長生き体操も行われた。


やがて小さな本屋のスペースは、
その小さな街の憩いの場となっていった。

ゲンちゃんの喫茶店にも本屋の本を置いてもらって本も買えるコーナーを作ってみることになっていった。

SNSで話題を呼び、
お年寄りの元気な街、
防災に強い街、
若者が住みたい街のランキングにも上がるようになって評判となっていった。
商店街の空き店舗には20〜30代くらいのニコアンドに身を包んだ若い人たちも新しい店を出すようになっていった。


「就活していた、あの頃には考えられない」
私はこの街に来たあの日を思い出していた。

「舞ちゃん、もうすぐよね。本屋大賞」

今年も本を書く人へのエールを送る時期が訪れる。
大好きな本をもっともっと、たくさんの人に手に取って読んでもらいたい。
それが本屋の私のささやかな願いだ。


「本屋大賞」
本屋に勤めて良かった。
そのことを実感する時期でもある。


          おしまい


あとがき

本屋ではありませんが、街の本屋さんを応援する気持ちで書いた小説です。


小牧幸助さま、
企画に参加させて頂きます。
いつもありがとうございます。

#シロクマ文芸部
#企画参加
#本を書く


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