見出し画像

小川糸《ファミリーツリー》とSalyu《Tower》


表紙が可愛いというのと、数年前に読んだ《ミトン》がとてもよくて、手に取った、
小川糸さんのファミリーツリー。

読み終わって、ちょっと素晴らしすぎて、
この主人公の男の子の人生の苦難と愛おしい経験の数々に思いを馳せて涙が止まらなかった。

日付がとっくに回っているけれど、この感情が消えないうちに記録を。



長野の穂高で生まれ育った主人公のリュウ。
人より特に秀でたところもなくて、気づいたらいつも遠い親戚の「リリー」より一歩後ろを歩いてる。
生まれ育った土地で悶々とした気持ちを抱えて、度々生きる意味を見失う彼は、自分に期待しないというか、どこか平凡な自分を諦めているところがあると感じる。

けれど彼には「海ちゃん」との永遠に続いてく友情がある。
何にも変え難い思い出。

そして、山の稜線に沈む夕日の空の色や、夏の終わりの風、満点の星々など、はっとする自然の美しさに心を震わせる彼は、
やはり、生きとし生けるものと、自分に関わってくれた人々(+生き物)への愛を持てる人なんだ。
そこを丁寧に書いてくれる小川さん、
少女少年が大人になっていく過程で失うものと、どんなに荒んで影を潜めても、ずっと持ち続けている、その人の生命の灯のようなものを、とても温かく見守るように書いてくれる。
あぁ、なんてすてきな。


穂高、安曇野は、私も10歳から16歳くらいまで毎年家族でお盆に旅行していたので、夏の鮮烈な美しさは、部外者なりによく知っているつもりだ。ちひろ美術館には5.6回は行ったし。

リュウは、行く年月「届きたい場所へ届かない自分」を、この美しく閉鎖的な土地でやり過ごしたきたのだろう。これがまた小説の世界になると、甘い痛みというか、自分の青春時代と重なって、色々なことを思い出させる。

曽祖母の菊さんのおおらかさも大好きだ。
自分の本当に行きたい道を選ぶだよ、とリリーとリュウに語るところは何回でも読み直したい。

誰かを愛して、愛を受け取って、自分自身も愛して、それがまた次の芽吹きに繋がっていく、そうして世界が作られていく。
自分が、地球の歴史の一部になる。

なんだか、全てのものが愛おしくて、涙が出ちゃうよね。

というのが、読書感想なのだけど、
たまたまこの本を読み始めたタイミングで発掘した、Salyuさんの《Tower》という曲が、
この小説と完全に共鳴し合っていて、こんな偶然あるんだと驚いている。


この偶然が、私に穂高で家族と過ごした思い出と、短い夏の切なさ、人を好きになった甘酸っぱさを怒涛の流れで思い出させた。
そして、私をつくってくれた私の周りにいる大切な人たちのことも。

小説《ファミリーツリー》そして《Tower》。このnoteを読んでくれた誰かの心にも、
涼やかで甘酸っぱい人生の機微が思い起こされて、同じ気持ちを共有できたらいいな。

#読書感想
#小川糸
#ファミリーツリー
#Salyu

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?