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オランダアートひとり旅#12.フランス・ハルス美術館(HOF)

 ただただ、このためだけにハーレムに来ました。フランス・ハルス美術館(FransHals Museum)です。

 フランス・ハルス(1582/1583-1666)はハーレム出身のオランダを代表する画家で、レンブラントやフェルメールと同じく17世紀の黄金時代に活躍しました。ユーロになる前のギルダー紙幣に肖像画が使用されるなど、時代を超えて多くの芸術家に影響を与える偉大な画家です。

 ハルスが得意としたのは、人物。当時としては画期的だった荒くも流れるような勢いのある筆使いは、人々の表情を生き生きと表現しました。個人の肖像画はもちろん、彼の描く集団肖像画は見応えたっぷりです。

聖バフォ教会の隣に位置する、レンガ造りの建物が HAL

 フランス・ハルス美術館は、その名の通りフランス・ハルスの作品を中心に所蔵している美術館で、HOF と HAL の2館あります。

 ハルスの集団肖像画を中心に17世紀の絵画を数多く展示しているのが HOF で、旧市街中心部のグローテ・マルクト広場に位置する HAL は別館になります。

HOF の建物

 HOF は、グローテ・マルクト広場から歩いて10分弱の場所に位置します。Groot Heiligland という細い路地にあり、知らないと通り過ぎてしまいそうな佇まいです。

FOH の入り口

 まずはチケットを購入し、無料オーディオガイドを受け取ります。言語は日本語を選べた気がするのですが、なぜか記憶があいまい。ホームページには蘭・英・仏・独となっているので、気のせいだったのかもしれません。

 最初にハルスに関する映像を見るのですが、そこでオーディオガイドが必要になります。映像が終わると、展示のスタートです。

絵画コレクション

 フランス・ハルス美術館では、ハーレム出身またはゆかりのある画家たちの作品を数多く所蔵しています。

◆不思議な絵

ヤン・マンデイン《聖アントニウスの誘惑》1555年

 この作品で祈りをささげているのは、キリスト教の聖大アントニオス(251-356)。周りでは様々な悪魔が誘惑するも、惑わされることはありません。

 これを見て、すぐ思いました。「ん? ボス?」

 実際は、ヤン・マンディン(1500‐1558/1559)という画家の作品だったわけですが、ヒエロニムス・ボスの《聖アントニウスの誘惑》からインスピレーションを受けて描いたそうです。どうりで。

こういう意味不明な奴がたくさんで、見入っちゃう
腕や脚から変なひげ的なやつが飛び出てて、なんかイヤだ
「おじいちゃん大丈夫ですか~?」
悪魔にしては弱弱しい。助けた方が良いのかなって思っちゃう。あ、そういう誘惑か?

◆祭壇画

マールテン・ファン・ヘームスケルクとコルネリス・ファン・ハールレム《Drapers Alter》1546/7年と1591年

 歴史画や宗教画もありました。

 そのなかで一番好きだったのが《Drapers Alter》で、もともとはハーレムの聖バフォ教会にあった祭壇画です。

 羊飼いが幼子イエスを崇拝しに来る場面を描いた左の絵画と、東方三博士が描かれた右の絵画はマールテン・ファン・ヘームスケルク(1498‐1574)の作品です。中央の幼児虐待は、1591年にコルネリス・ファン・ハールレム(1562‐1638)によって描かれました。祭壇画が完成した後、もともとあった画が紛失したためです。

◆ハーレムの風景

 17世紀のハーレムを描いた作品もいくつかありました。現在と比べても、それほど変わらない街並み。当時の様子が伝わります。

ヘリット・ベルクヘイデ《Grote Markt with Great, or St. Bavo's Church》1696年

◆静物画

 17世紀のオランダ絵画に、静物画は欠かせません。

ピーテル・クラース《ヴァニタス》1625年
ウィレム・クラースゾーン・ヘーダ《Still Life with Pasty》1633年

集団肖像画

 さて、ここからは集団肖像画です。昔の一列に並んだ厳粛なスタイルから動きを入れた表現へ。観ているうちに段々と、その魅力にハマります。

ヤン・ファン・スコーレル《Twelve Members of the Haarlem Brotherhood of Jerusalem Pilgrims》1528年
コルネリス・ファン・ハールレム《Banquet of Haarlem's Calivermen Civic Guard》1583年
Frans Pietersz de Grebber《Banquet of the Officers and Subalterns of the St. George Civic Guard》1619年

CIVIC GUARD HALL

CIVIC GUARD HALL の入り口

 市民隊の集団肖像画が展示されている CIVIC GUARD HALLは、フランス・ハルス美術館の一番の目玉です。ハルス作品を中心に、オランダならではの集団肖像画をじっくり楽しめます。

ヘンドリック・ヘリッツ・ポット《Officers of the Calivermen's Civic Guard》1630年
フランス・ハルス《Officers and Subalterns of St. George's Civic Guard》1639年
フランス・ハルス《Meeting of the Officers and Sergeants of the Calivermen Civic Guard》1633年
フランス・ハルスとピーター・コッデ《Civic Guardsmen of the Company of District 11 in Amsterdam, under Captain Reynier Real and Lieutenant Corneilis Michielsz Blaeuw, 'The Meagre Company'》1633年からハルスによって描かれ、1636年にコッデにより完成する
フランス・ハルス《ハールレムの市民警備隊士官の宴会》1627年

◆このために来た

フランス・ハルス《聖ゲオルギウス市民警備隊士官の宴会》1616年

 フランス・ハルス美術館に来たのは、この絵が観たかったからです。

 《聖ゲオルギウス市民警備隊士官の宴会》はハルスが初めて描いた市民隊の集団肖像画です。勢いを生み出す構造と人物の内面すらも描き出す豊かな表現力で、目の前に立っていると、まるで話し掛けられているような錯覚に陥ります。

 「遅かったじゃないか~。もう始めてるぞ。早く座って一杯飲め、飲め」

養老院の集団肖像画

フランス・ハルス
<左>《養老院の女性理事たち》1664年
<右>《養老院の男性理事たち》1664年

 フランス・ハルス美術館の建物は、もともと養老院でした。この肖像画は、養老院の女性理事と男性理事です。これら作品を描いたとき、ハルスは80歳を超えていました。

 この2作品も、美術館を代表する傑作です。

 どちらも地味な色彩に見えますが、たとえば《養老院の女性理事たち》では20種近い黒が駆使されているそうで、ゴッホが黒の多彩さに感嘆したと言った話にも頷けます。

おまけ

フランス・ハルス
<左>《Portrait of Nicolaes Woutersz van der Meer》1631年
<右>《Portrait of Cornelia Claesdr Vooght》1631年

 あれ、このおじ様、どこかで見掛けたような・・・。

 あ!《聖ゲオルギウス市民警備隊士官の宴会》で話し掛けてくれたおじ様だ!

◇◇◇◇◇

 ゆっくりと見学して2時間ほど。人はそれほど多くなく、ハーレムならではの絵画が堪能できる、大満足の美術館でした。特に、ソファーから眺めるハルスの集団肖像画は、癒しの時間でした。

 今回は西洋画を中心にお届けしましたが、美術館にはドールハウスや中庭もあります。またオーディオガイドでは、1608年に建設された建物の解説を聞くこともできるので、建築に興味がある方にとっても楽しいかもしれません。

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