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リップクリームの君

善悪の境目は本当に難しいと感じる事が多い。
私は一応犯罪と名のつく事はした事はないが(小学校1年生の時友達とスーパーでねるねるねるねを万引きした事は内緒である)、日常生活の中の「ちょっとしたルール違反」は正直、かなりの数やらかしている。でもきっとこれは私だけではないと思う。
例えば、短い横断歩道、車はもちろん人も誰も歩いていない、そんな時の赤信号。皆様はどうするだろうか。もちろんきちんと青信号に変わるのを待つ人もいるしそれがルールである。だが、こういったケースの場合、私はしれっと渡ってしまう。
昨日も夫と話をしていて、大型商業施設の中にある映画館へ行く予定があり時間的にランチは外で食べる事になるが、節約の為その施設に併設されているスーパーでパンなどを買って施設内のフードコート(かなり規模の広いところ)で食べるのはどうかと提案したところ、「あのね、フードコートはあそこに入ってる店で買ったものしか食べちゃだめ。持ち込みは禁止なんだよ」と即座にたしなめられた。確かにいわれてみればそれがルールだ。だが言われた時のわたしは正直「真面目か!」とふてくされてしまった。

そんな事を考えていたらふと思い出した事がある。
中学生の時に少しだけ中の良かったAちゃんという女の子の事だ。
彼女は、本当に稀に見る「真面目な子」だった。薄茶色の髪の毛に色白、小柄でお人形さんのような雰囲気。本と歌う事が大好きで、とにかく「純真無垢」とう言葉が似合うジブリ映画の主人公のような女の子だった。
そんな彼女を、私はなんと二回も泣かせてしまった事がある。今振り返ってみても本当に最低だったなと猛省している。
その一つが当時流行っていた「手帳」を私を含む他の生徒が学校に持ち込んでいた事だ。もちろん余計な物を持ってくるのは禁止されていたが、結構みんなおかまいなしに、こっそりといろんなものを持ってきていた。ところがAちゃんは、本当に真面目な子で、部室(同じ合唱部だった)で手帳を広げていたら「そんなもの、持ってきちゃだめじゃない」とたしなめられた。ムカッときてしまった私は「でもみんな持って来てるじゃん」「ちょっと真面目すぎるよ」なあんて言ってしまったのだ。彼女は俯きながら「でもだめなものはだめじゃない」と言って目を潤ませてしまった。
そしてもうひとつはリップクリーム。これは個人的にかなり衝撃だった。うちの学校はリップクリームも禁止していた。(口紅とかじゃないよ、普通のリップクリームだよ。信じられる?)もし持ち込みたい場合は親の許可と先生の許可が必要というのが建前だ。だが、たかがリップクリームを持ってくるのに、わざわざ本当に許可を取ってる子はいなかった。みんな先生の目を盗んでこっそり持ち込んでいたのだ。
でもAちゃんは違った。親と先生に本当にきちんと許可を取った上で、おそらく校内で唯一リップクリームを正式に持ち込んだ子だったと思う。生徒手帳を見せてもらったら本当に母親の字で「唇が乾燥するのでリップクリームを持たせます」と書かれており、その下に担任の印鑑が押してあった。そして堂々と緑色の薬用メンソレータム系のリップクリームを校内で使用していた。これを見て、あまりの衝撃に「え、本当に許可とったの!?びっくり。多分こんな事してるのAちゃんくらいだよ」的な事を言ってしまったのだ。そしてまた彼女は目を赤くしてしまった。(最低である)

「善悪の境目」なんていい方はやや大げさかもしれないけれど、でもルール違反とは言っても「ここまではイケるっしょ」「いやそれはさすがに・・・」の線引が人によって違うのが難しい。例えば冒頭で話した横断歩道の赤信号の件でも、仮に車は一切通ってなかったとしても、そこに小さなこどもがいてちゃんと青信号になるのを待っていたら、私は必ず一緒に待つようにしている。それは私の中に「さすがに大人としてこどもの前でルール違反してるところを見せるべきではない」という考えがあるからだが、これも人によっては気にせずしれっと渡ってしまう人もいるだろう。

もちろんルール違反など一切せず、品行方正に生きていければそれが一番いい。でも現代社会を生きる大人になるとそう正しく生きれないのが現状である。

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