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<地政学>日本VS中国!!二つに分断される東アジアの歴史と今後

 以前の記事では世界各地域の地政学的な多極構造について論じた。今回は日本が位置する東アジアの地政学的構造についてより詳しく考えてみたいと思う。

東アジアという地域

 まず東アジアという地域の特徴について考えてみよう。この地域は近代以前から文明が豊かに芽生えた土地だ。中国文明のレベルはローマ帝国と遜色なかった。農耕の開発も中東に次いで二番目に早く、文字も独自で開発している。文字を独自で開発した民族は人類史上中国人・シュメール人・アステカ人の三つだけだ。東アジアは中東やヨーロッパと並ぶユーラシアの大文明圏だったと言えるだろう。

 東アジアの伝統的な中心は中国だった。漢字や儒教をはじめ、この地域を特徴付ける文化は全て中国発祥だ。これもまた、ギリシャローマに負けない豊かさを見せている。人種はモンゴロイドで、西方のコーカソイド中心の地域とは大きく見た目が異なる。東アジアは農耕地帯だったので、非常に人口が多い。これは今に始まったことではなく、昔からだ。歴代の中華帝国は圧倒的にヨーロッパの国よりも人口が多かったし、実は日本も世界的にかなり人口が多い方だった。

 東アジアが低迷したのは近世から近代にかけてだ。宋の時代の中国は世界で最も技術的に進歩した国だった。しかし、明の時代になると成長がストップしてしまった。清朝は歴代の中華王朝の中でも最も強大で有能だったが、それにもかかわらず、西欧の勃興によって貧弱なイメージが付いてしまった。19世紀になると西欧列強の影響力が東アジアにまで及ぶようになり、アヘン戦争その他の戦争で清朝は深刻な問題を露呈するようになった。

 とはいえ、東アジアは後れを取っただけで、しばらくして西欧に追いつくことができた。1868年に日本が近代化を開始し、瞬く間に列強の一画を占めるようになった。日本は高度経済成長期を経て1970年代に先進国へのキャッチアップに成功した。韓国や台湾も後に続いた。現在は中国が成長期である。この停滞から急速な成長、そして先進国への仲間入りという歴史は東アジアの経済史において最大の特徴となっている。

 したがって、東アジアの重要度は年を追うごとに高まっている。現在、東アジアの経済規模は世界の4分の1を占める。これは北米やヨーロッパと同じくらいの規模である。世界経済は北米・ヨーロッパ・東アジア・それ以外でちょうど四等分されている。北米がアメリカの単独覇権で安定していること、ヨーロッパが衰退傾向にあること、などを考えると東アジアが世界で最も地政学的に重要な地域と言っても過言ではない。

近代以前の東アジアの地政学

 近代以前において圧倒的に文明の中心地だったのは中国だった。歴代の中華文明は周辺諸国よりも圧倒的に進んでいたし、軍事的にも強力だった。そのため、周辺諸国を朝貢国として臣下のように扱っていた。北方の遊牧民という例外を除き、中国は地域で敵なしだった。

 しかし、唯一影響力を及ぼせなかったのが日本である。日本との間には広大な海が存在し、中国は日本を攻めることができなかった。日本の君主は「天皇」を名乗っているが、これは中国の皇帝を格上として見ていないという証である。普通は中国以外の君主は「王」を名乗らなければいけなかった。日本は中華帝国の冊封体制を完全に無視しており、近代以前においても日中の分断は深かった。

 中国は大陸国家であり、海軍力は伝統的に弱体だった。清朝の中盤まで台湾を併合できていないことが何よりの証拠だ。中国にとって重要なのは北方遊牧民を防ぐことと、国内の反乱を鎮圧することだった。中国は海軍力が弱く、長年倭寇に苦しめられてきた。厳密に中国と言えるかは微妙だが、元朝の時代に中国は日本征服を企てている。しかし、結果は惨敗だった。文永の役も弘安の役も無駄骨に終わった。鄭和の遠征で中国は非常に優秀な結果を残しているが、これまた途中で中止になっている。中央政府としては北方民族や国内の脅威の方が重大に思えたからだ。

 一方で日本も何度か大陸進出を企てている。神功皇后の三韓征伐の伝説があるように、古代において日本は朝鮮半島に進出していたようだ。しかし、白村江の戦いで敗れたことにより、日本は大陸から撤退した。次に日本が大陸進出を企てたのは秀吉の朝鮮出兵だ。日本軍は平壌まで攻め上がり、現在の中朝国境にまで至る勢いだった。ここで日本は明軍と激しい戦いを繰り広げることになる。日本軍は戦場で敗北したわけではなかったが、秀吉の死後に結局撤退することになる。海洋国家の日本は大陸の戦線を維持できなかったのだろう。

 これらの事例から、海洋国家日本と大陸国家中国はお互いを征服できない、という根本的な宿命が存在することが分かる。ハンチントンの「文明の衝突」や梅棹忠雄の「文明の生態史観」では日中は全く違う文明と分類されていた。両者は一度も政治的に統合されたことが無く、国家としての生きざまの共通点も見いだせない。

近代の東アジアの地政学

 近世の東アジアはのんびりとした場所だった。日本は鎖国体制だったし、清朝も朝鮮も似たような内向き状態だった。19世紀中盤の段階で、李氏朝鮮は清朝の属国であり、日中の境界線は対馬海峡に存在していた。

清朝は東アジアのほとんどを支配していたが、日本だけは勢力が及んでいない

 ここから日本の躍進が始まり、境界は中国側に押し戻されていくことになる。明治維新で急速に近代化を果たした日本は強力な軍隊を持つことになった。日清戦争で日本は清朝を破り、台湾を奪取した。朝鮮も支配下に置こうとしたが、うまく行かなかった。なぜならこの時代、ロシアが北から進出してきたからである。

 ロシアはモスクワ周辺に住んでいたスラブ人が遊牧民を駆逐して大きくなった国だ。遊牧民の弱体化によってユーラシア内陸部に生まれた巨大な真空地帯をロシアは急速に埋めることになった。以前のモンゴル人や満州人にとって代わった存在である。日本にとって最大の仮想敵国はロシアになった。この国は重要な第三勢力として地域に影響を与えることになる。

 日露戦争の結果、日本はロシアに勝利し、朝鮮半島と関東州を手に入れる。ここまで来ると日本はもはや帝国主義国の仲間入りである。日本はどんどん攻め上がり、第一次世界大戦や満州事変で境界線を大陸側に押しやった。日本の絶頂期は第二次世界大戦だ。この時点で日本は中国の主要部を占拠していた。中国側が確保していた大都市は西安と重慶と成都くらいだった。この時、両者の境界は中国内陸部にまで押しやられていたことになる。

 日本は中国の内陸部にまで攻め込んだ結果、この国を征服することは絶対に不可能であることを知った。日本は進むことも退くこともできない泥沼にはまり込んでしまった。

最盛期の日中の境界線は函谷関や武漢にまで及んでいた

 1945年8月15日、日本は太平洋戦争に敗北し帝国を失った。これ以降、日本はアメリカの従属国として振舞うことになった。帝国の残骸を分割したのはアメリカとソ連である。

 アメリカとソ連には共通点があった。それは両者が東アジアにおいてアウェイの勢力だったということだ。アメリカは北米大陸に位置し、ユーラシアへの戦力投射が難しい。したがって、同盟国を通した間接的な支配を好んできた。アメリカは日本に安全保障と市場を与え、アメリカに従順な経済大国に作り替えた。日本は地域大国ではあり続けたが、地政学的問題についてアメリカにフリーライダーとなることが多く、独自の立場で関与することはなくなった。

 ソ連は伝統的な大陸帝国だった。大日本帝国の崩壊後は地域で突出して強力な勢力となった。しかし、ソ連にとっても東アジアは交通が不便であり、同じく戦力投射が難しい地域だった。1945年の段階でソ連は東アジアの北部を支配していたが、モンゴルのみを確保し、満州と新疆は中国共産党に譲り渡した。北朝鮮には東欧諸国には許されなかった独自路線を許した。朝鮮戦争とベトナム戦争でソ連は間接戦略を取り、ソ連の支援を受けた代理勢力に対して、アメリカは苦戦を強いられた。

 1949年に中国は共産党の手によって再統一された。毛沢東の中国は徹底した中央集権と核開発によってようやく大国の地位を取り戻した。毛沢東時代の後半の中国にとって問題となったのは中ソ対立だ。両国の関係は良好であったことはなく、特にフルシチョフがスターリン批判を行ってからは深刻になった。中ソは幾度となく戦争寸前になった。ここで中国はアメリカと組むことを考え、冷戦の後半期、中国は西側と歩調を合わせていた。この時代の東アジアで最強の国家はソ連だったため、勢力均衡を図った形だ。米中接近の供物として台湾は犠牲となり、国連を追放されてしまった。

 1991年、ソ連が崩壊すると冷戦は終結する。米中は共通の敵を失った。北朝鮮はパトロンを失い、破綻国家となった。日本は相変わらず平和ボケで何もしないままだった。この構図は現在の東アジアに引き継がれている。

現在の東アジア

 地政学的断層線は色々な種類がある。例えばヨーロッパには無数の断層線が錯綜している。ヨーロッパとロシアの断層線はいつの時代も不安定で、この断層が活動したことで現在はウクライナ戦争が起きている。イギリスと大陸の断層線はブレグジットをもたらした。ローマ帝国とゲルマン部族の断層線はそのまま仏独の戦争に引き継がれた。他にもカトリックとプロテスタントなど、上げればキリがない。中東も似たような感じで、宗教や民族などいろいろな断層線が紛争を引き起こしている。

 東アジアの断層線は遥かに単純だ。この地域の地政学的断層線は一つしかない。それは海洋側と大陸側の断層線だ。一つしかない分、エネルギーが集中することになる。したがって、この断層線はヨーロッパのそれよりも遥かに深刻で、遠い将来にわたっても克服される可能性は無い。東アジアの地政学的秩序はそれぞれを代表する日本と中国の二大大国と、外部勢力のアメリカ・ロシアの4か国によって形成されている。他の勢力は全て海洋側と大陸側というパワーバランスの中で自分の存在を規定することになる。朝鮮半島はほとんど常に両者の抗争地点となっている。

 日本は周囲を海に囲まれており、陸上からの脅威は全く存在しない。イギリスと比べても大陸への関心は低い。イギリスの文化的作品にフランス人が出てくる頻度と日本の文化的作品に中国人や朝鮮人が出てくる頻度はあまりにも異なる。特に第二次世界大戦以降は没交渉と言っても過言ではない。江戸時代と同様に、海洋国家の日本にとって大陸は異郷の地なのだ。日本は戦後に地域大国の座を降りたように見えるが、それは常にアメリカに歩調を合わせているからだ。アメリカがいてもいなくても日本が中国とライバル関係にあることは変わらない。

 日本と中国をヨーロッパの国で例えるならばイギリスとロシアだ。大陸ヨーロッパに該当するエリアがぽっかり存在せず、両者が朝鮮半島という狭小な緩衝地帯を挟んで向かい合っているような状態である。これではあまりにも落差が激しい。ヨーロッパに比べて東アジアの地政学的断層線は断崖絶壁のような状態ともいえる。

 現在の東アジアもこれまでと同様に海洋側と大陸側に分断されている。海洋側に所属するのは日本・韓国・台湾と最近は怪しくなっているが香港・マカオが含まれる。大陸側は中国と北朝鮮だ。ベトナムとロシアは含めても含めなくても良い。モンゴルは基本的にロシアの一部である。

民主主義指数
東アジアは海洋側と大陸側にはっきり分かれている

 海洋側の特徴はアメリカと同盟を結んでいること、自由民主主義の先進国であることだ。大日本帝国は消滅したが、代わりにアメリカが入ってきたので構図はあまり変わっていない。日本に触発され、韓国と台湾はあっという間に豊かになった。対する大陸側は共産党の独裁が続く専制国家である。昔は中国も北朝鮮も貧しかったが、ソ連崩壊後は中国は豊かになり、北朝鮮は経済破綻している。

 現在、この断層線は38度線を走っている。この境界は海洋国家と大陸国家の断層線であり、資本主義と共産主義の断層線であり、富裕国と貧困国の断層線でもある。この軍事境界線には東アジア、さらには世界の分断の圧力が重なって一点に集中している。38度線の両側は世界で最も緊張の激しい地域だった。その上、北朝鮮と韓国は世界で最も経済格差の大きい隣国となっている。その差たるや20倍を超える。アメリカとメキシコが3倍、日本とフィリピンが4倍である。韓国と北朝鮮は人種と言語を共有し、1945年まで歴史も共有していたが、それ以外の点では天と地ほど違う生活を送っている。大陸側と海洋側の相違をここまでグロテスクに表している地域は無い。

 アメリカはヨーロッパと同様に均衡を守るオフショアバランサーとして行動している。第二次世界大戦の時は日本が強力だったため、中国国民党を支援した。のちに自ら参戦し、大日本帝国を壊滅させた。戦後は東アジアで強力な国がソ連だけになったため、日本や韓国に米軍基地を建設し、東アジアの主要な同盟勢力となった。ヨーロッパではNATOが結成されたのに対し、東アジアではこのような包括的な地域同盟が結成されたことはなく、米軍は個別の国と二国間条約を結んでいる。それは日本が平和憲法にこだわったからでもあり、韓国が日本と同盟を組むことを建前上嫌がったからでもあり、台湾との同盟が中国を刺激することを嫌がったからでもある。

 米中関係は複雑だった。ソ連と戦う上で同盟者となるはずだった中国国民党はほどなくして崩壊した。毛沢東の中国とは朝鮮戦争で交戦しているが、のちに一時的な友好関係を結んだ。しかし、この時も朝鮮半島や台湾をめぐる問題は続いていた。ソ連という共通の敵がなくなった今、再び中国はアメリカのライバル国家となっている。

 現在の東アジアでは中国が強大化しており、アメリカは勢力均衡を保つために日本や韓国との同盟を強化している。ロシアを本当は引き入れたいが、うまくいきそうにない。実際に安倍政権は失敗している。2022年のウクライナ侵攻でプーチン政権は西側にきわめて敵対的になっているので、今後も中露離間は不可能だろう。むしろロシアは中国の属国になるかもしれない。

 近年、東アジアでは大陸側の拡張が始まっている。香港はイギリスの領土であり、中国本土はもちろん日本よりも豊かだった。しかし、習近平政権になってから中国化が進んでおり、大陸側に引き込まれるのも時間の問題だろう。台湾は海で隔てられており、香港のようにはいかない。中国が台湾を吸収するにはかなりの手間が必要だろう。

中国は東アジアの地域覇権国になりうるか?

 東アジアはたった一つの断層線によって引き裂かれている。海洋側と大陸側は深く分裂し、日本と中国はお互いを征服できない。したがって、東アジアは地域覇権国が極めて生まれにくい地域だ。断層線が少ない分、そこに圧力が集中するし、計算ミスで特定の勢力が突出して強くなることもない。ヨーロッパや中東のようにお手玉のような芸当は必要ないのだ。アメリカはただ弱い方と同盟を組んでいれば地域覇権国の誕生を阻止することができる。これはアメリカが台頭した第二次世界大戦の頃から変わらないし、今後も変わることはないだろう。

 ソ連無き今、東アジア地域で最強の地域大国は中国だ。中国は経済成長とともに自信を付け、ますます自己主張を強めている。アメリカが取る戦略は中国の封じ込めになるだろう。海洋側に位置する日本や韓国は喜んでこの封じ込めに加わるに違いない。米中が取引をして東アジアを中国に任せるといったシナリオが稀に危惧されるが、まずありえない。台湾が供物に捧げられた1970年代は米中にソ連という共通の敵がいた。これからの東アジアにそのような存在は現れそうにない。

 東アジアが統合されることもない。朴槿恵が親中外交を行ったり、鳩山由紀夫が東アジア共同体を提唱したこともあったが、全て夢物語で終わっている。それはつまるところ、この地域が海洋側と大陸側の二極構造で成り立っているからだ。この構造の安定性は高い。米ソ対立にせよ、印パ対立にせよ長期にわたって揺るがなかったし、しかも東アジアの分断は鉄のカーテンや印パ国境と違って地理的な必然性がある。

 逆に言うと、日米韓の友好関係は盤石だ。韓国人が日本のことを好きなのか嫌いなのかはよく分からないが、どのような政治的動きがあったとしても韓国には日本との友好関係を切り捨てるという選択肢はない。日本も同様だ。日韓関係が極度に悪化していた時代に韓国と敵対して北朝鮮と接近するべきだという意見を目にしたことがあったが、二極構造から逸脱する同盟関係が実現することはない。拉致問題が無かったとしてもだ。

 また、海洋側と大陸側はお互いを補い合うこともできない。人民解放軍は日本のシーレーンを守る能力は無いし、自衛隊は中国の内乱を鎮圧することはできない。さらに中国は成長著しいとはいえ、先進国には遠く及ばず、日韓とはまだまだ差がある。日韓が中国に従属する理由は存在しないのだ。

 第三勢力としてロシアの存在を考えることもできる。冷戦時代のソ連は地域で最強の陸軍大国だった。ただし、ロシアは地域大国として控えめな存在だった。それは突き詰めれば東アジアがロシアの人口密集地から離れており、戦力投射が難しいからだ。中国とロシアはシベリアの凍土という緩衝地帯があるため、お互いの存在を脅威に感じにくい。両国は冷え切った(凍土だけに)友好関係を長年続けてきた。19世紀の露清密約の時代から、ロシアはいつの時代も日本よりも中国に近かった。中国国民党が共産党と戦っていた時でさえ、中国とソ連は悪くない関係だったのだ。陸で接しているにも関わらず、両国の関係はアメリカとイギリスのような海を隔てた友好関係に近いものがある。

 こうした事情により、イギリスが欧州大陸に対して行ったような中露離間工作は難しい。ソ連があまりにも強力になった1970年代には中国は西側に接近したが、それもソ連崩壊とともに終了した。これからもロシアは大陸側の勢力であり続けるだろうし、対中勢力均衡の駒にはならないだろう。2022年のウクライナ侵攻でプーチン政権は明確に西側と敵対しているので、ロシアの西側への接近はますます考えにくくなっている。ドイツやトルコがNATOを脱退して反米路線に転じるといった革命的な事態が起きない限り、今後も変わらないだろう。

 今後の東アジアの地政学を考えると、おそらく現在の状況は大きくは変わらない可能性が高い。中国は海軍大国を目指してはいるが、現時点でアメリカ海軍を倒すような能力は無い。アメリカは対中封じ込めのために日本・韓国・台湾・フィリピン・シンガポール・マレーシアを引き入れて対中包囲網を作るものと思われる。ロシアは中国寄りの可能性が高く、インドはほとんど頼りにならない。インドもヒマラヤ山脈によって中国から隔てられており、地政学的に決定的な利害関係を持つことはないだろう。

 おそらくこの米中対立において争点になるのは台湾・北朝鮮・ベトナム・ミャンマーである。台湾は中国海軍の試金石になるため、残りの三つは米中の狭間の空白地帯であるため、それぞれ争奪戦が行われる可能性がある。これらの国の事情について詳しく論じるのはまたの機会にする。

まとめ

 東アジアの地政学事情は単純だ。三つの事実を押さえておけばいい。この地域の二大大国は日本と中国であること。日中はお互いを征服できず、同盟を結ぶこともできないこと。そして海洋側と大陸側に地域が分断されているため地域覇権国が永久に生まれないことだ。アメリカは地域覇権国の誕生を阻止するために弱い方と組めばいい。戦前は中国と、戦後は日本とだ。日米と中国が接近したのはソ連があまりに強くなった冷戦後半のみであり、それ以外は常に敵対している。ロシアは弱体化したため、東アジアの勢力均衡に関与する力は持たないだろう。

 日中の間に位置する地域は両者の綱引きの舞台となってきたが、特に悲惨な運命を辿ったのは朝鮮半島だ。この地域は常に戦場とされてきた。それは今後も変わらないだろう。どれほど核兵器を振りかざそうとも北朝鮮は破綻国家であり、東アジアの真空地帯となることは避けられないはずだ。米中対決を考える上で最大の不確定要素になることは間違いない。


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