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【ギフトシネマ会員インタビューvol.5】上村悠也さま 〈前編〉

途上国の子ども達に映画を届けるNPO法人World Theater Project(以下、WTP)は、団体発足以来、多くの方達に支えられ活動を続けてまいりました。
どのような方達がどんな想いで支えてくださっているのか。
活動を支えてくださる大きな存在である「ギフトシネマ会員」の皆さまに、お話を伺っていければと思います。
第5回目のゲストは、上村悠也(かみむら・ゆうや)さん。WTPの活動初期からメンバーとして活動し、理事まで務めた上村さん。理事を退任した現在では形をかえ、会員として応援くださっています。本インタビューではたっぷりと前編と後編の2回に分けてお届けいたします。
前編の今回は、上村さんとWTPの出会い、そして活動する中で感じた映画ならではの力についてお届けします。

(聞き手:飯森美貴、記事:菊地夏美、取材日:2023年8月3日)

いろんな物語に出会い、蓄えておくと、
いつかピンチの時に支えになるかもしれない。

―上村さんは長らくWTPに関わってくださっています。WTPとのはじめての出逢いのきっかけを教えていただけますか?

僕は学生時代にTABLE FOR TWOという、アフリカ・アジアの子ども達に給食支援をするNPOで活動していて、当時一緒に活動していた後輩から紹介されたのが最初でした。

卒業後のことですけど、彼が何かで代表の教来石さんとお会いしたんですね。そのとき、WTPの前身のCATiC(キャティック:Create A Theater in Cambodiaの略)が立ち上がったばかりで、資金調達について悩んでいると聞いたらしくて。その後輩から「ちょっとお話ししてみてくれませんか?」と言われて、面白そうな活動だなと思ってお会いしたんです。

TABLE FOR TWOの活動時、ウガンダでの一枚

―そうだったんですね! 後輩の方が繋いでくださったご縁だったとは。そんなご縁もありながらCATiCに出会って、代表教来石の猛アプローチで団体のメンバーになっていただいたと聞きました。

そう!呪いのメール! 初めて教来石さんたちとお話した日の夜にFacebookでメッセージが届いたんです。呪いのチェーンメールみたいな、すごい長いのが(笑)

「さて、大変残念なご報告ではございますが(略)優しいお二人は、きっとこれから、徐々に徐々に巻き込まれてゆくのだと思います。お気の毒に…」

という「ホラーかよ」って思う内容で(笑) スタートがそんなだったというのも、今振り返ると思い出深いです。

―長文! なんとなく想像できます(笑) 出会ったその日に巻き込まれる形で活動に参画いただきましたが、既に別の団体で精力的に活動した経験があった上村さんはWTPのどこに魅力を感じてくださったのでしょう?

僕は本が好きだったんです。いろんな物語に出会って、それをいっぱい自分の中に蓄えておくと、いつかその物語が必要になった時ふっと蘇ってくる、そんなことがあるなとずっと思っていて。

それは映画もきっと同じですよね。子どもたちがいろんな物語を吸収したら、いつかピンチの場面とか必要になった場面で蘇ってきて、支えになる。それを映画という形で、異国の村々を回って届けているのがすごいなと思いました。

自分の「肉」にはなっていない物語も、「血」として流れ続けている。

―本と映画で共通する魅力なのかもしれませんね。物語を蓄えておくと、いつかピンチの場面で支えになるという表現、とても素敵です。でも、どうしたらたくさんの物語を蓄えられるんでしょう?

「あの本/映画はどうだった?」とか聞かれた時に、昔に読んだり観たりしたものってあんまり覚えてなかったりしませんか? 良い作品だったことは覚えているけど、「具体的にどんな内容だったっけ?」ということが僕はけっこうあって。

―そういうこと、たしかに私もよくあります・・・。

でも、それでも全然いいと思っています。

物語の蓄え方は2つあると思っていて。いつでも内容をすごく語れる物語ももちろんあって、それは自分の「肉」になっている物語だと思うんです。だけど、「肉」にはなってないけど「血」として体の中を流れている物語もあるんですよね。それは形になってないからすぐに説明はできないんだけど、でも確実に自分の中に流れている。そして自分の人生で近しい場面が来たときに、ふっとその物語が出てくるんですよね。その瞬間に「肉」になる感じ。

だから全部の物語を覚えてなくてもよくて、「血」としてたくさんの物語が流れているといいんじゃないかと思うんです。それが「物語を蓄える」ということだと思っています。

村の経済がまわったと感じた。それは映画ならではの力。

―「物語を蓄える」にもいろいろありますね、とても深いです。たしかにすぐに語ることはできないけど、必要になった瞬間に「肉」になることがあると感じます。
WTPの活動ストーリーもたくさんお持ちだと思いますが、上村さんの血肉になっている、思い出深いエピソードはありますか?

映画の力をすごく感じたエピソードがあります。

野外上映会にてポスターを掲示して子どもたちを呼び込み中

1回目か2回目の渡航で野外上映をしたんです。アンコールワットのすぐ近くの村で。4〜5メートルくらいの長い木材を2本立てて、その間にでっかい布をはってスクリーンにして。始めてみると、村人が200〜300人くらいわーっと集まってきたんです。それだけでもすごかったんですけど、呼んでもいないのに周りに屋台が集まってきてアイスを売り始めたりと、村の経済がまわり始めたんですよね。

僕は本が好きでしたけれど、その光景を見た時に、こうやって人を集める力というのは、大勢で一緒に観ることができる映画ならではだなと思いました。きっとこの活動は、子どもたちに夢を与える以上のいろんな可能性を秘めていると感じた瞬間でしたね。

野外上映会にて、上映直前の挨拶の様子

―映画ならではの力。本の魅力も知っているからこそ語れる上村さんならではのエピソードですね。今は出版社にお勤めだと聞きました。

はい。英治出版という会社に勤めていて、本づくりをはじめ、いろいろ楽しくやっています。著者が思い描いている未来像や挑戦している内容に共感して、「これが広まったらいい社会になっていくよね」と思えるものを届けていきたいなと思いながら本をつくっています。それと同じくらいかそれ以上に、本づくりの過程で著者に寄り添う一つひとつの行動のなかで、ポジティブな影響を与えられる応援ができたらいいなと思っています。

そういえば会社の仕事でも、教来石さんにオンライン連載を書いていただくご縁がありました。

より良い未来を夢見て活動する著者を応援する本づくり

いい社会になっていくと思えるもの、素晴らしいです。教来石のオンライン連載も本当にありがとうございました。上村さんはずっと本がお好きだったのですか?

それがですね、大学に入る前まではほとんど本を読んでなかったんですよ。むしろ活字嫌いだったんです。読書感想文とかもう大嫌いで。

そんななか、大学に入ってからはちゃんと本も読まなきゃと思って、たまたま大学生協で、当時流行っていた『ダ・ヴィンチ・コード』を手に取ったんです。読んでみたらめちゃくちゃ面白くて、初めて読書で徹夜しました。本はこんなにも自分に合ってるメディアだったんだと気づいて、ハマってからはもうひたすら本好きになりました。昔は毛嫌いしていたのに今は本に携わる仕事をしているんだから、人生って面白いですよね。

お仕事でフランクフルト・ブックフェアへ

活字嫌いだったとは。面白い作品との出会いは人生を変えるなと思いました。
上村さんにはWTPの理事も務めていただきました。長らくWTPに関わっていただく中で苦労されたエピソードもあればお聞かせください。

任意団体からNPO法人化するタイミングで打診を受けて、2年間理事をお引き受けしたのですが、当時団体にはほとんど実績もなければ、銀行口座も何もない状態。本当に全部イチから立ち上げていく感じでした。手探り、とにかく手探りな時間でしたね。

ゼロからイチにするって大変ですもんね。手探りの中でとりあえずやってみようで、取り組んだ一番の思い出などありますか?

手探りの中での思い出といえば、クラウドファンディングに初めて挑戦したことです。

当時はメンバーの持ち出しで、GWなどの長期休暇で渡航して上映しにいってたんですけど、それではやっぱりどこかで限界がくる。なので、ちゃんと共感してくれる人達の支援で届けられる仕組みにしていこうと、まずはクラウドファンディングをやったんです。

さっきも言った通りないないづくしの状態で、もちろん知名度もない中でのスタートでした。目標金額は85万円。クラウドファンディングの責任者は僕でした。既に渡航は決まっていたので、集まらないとまずい。そんな状況で悪戦苦闘の日々で、終盤、なんか胃がだいぶ痛いなと思って病院にいったら、胃から出血していたという事件がありました(笑)

胃から血! 大変な思いをされていたんですね。想像しただけで痛いです・・・。

最終的に集まった金額が960,960円で「くろーくろー(苦労苦労)」だったんですよね(笑) 本当にそうだったなと思って。

やっぱり当時はまだこの活動自体を知らない人もたくさんいたので、あのクラウドファンディングで知ってくれる人も多かったですよね。僕もこのときのご縁で筑井さん(第2回インタビューに掲載した会員の方)のことを初めて知ったんですよ。10年経った今でもランナー仲間として続いているご縁がありがたいです。

ランナー仲間の筑井さん(右)と英治出版原田社長(中央)との一枚

その時のご支援者さまが今のWTPの礎になっているのですね。
そして今は、その筑井さんと一緒にランナーとして走った距離×100円を寄付くださっていて本当にありがたいです。

筑井さんの記事に続いてこのインタビューが掲載されると、「WTPの支援者は走らないといけないのか」みたいな誤解が広がるかもしれないですね(笑)

「走った分を寄付します」と宣言した手前、リタイアしたくないという想いも強まるので、それが想像以上に自分を引っ張ってくれるんですよね。

ありがとうございます。WTPの支援者のみなさん、走らなくて大丈夫ですから(笑)
本当に様々な形でご支援くださっていますが、理事退任後も形を変えて会員としても応援くださる上村さんの想いをお聞きしたいです。
次回後編に続く:9月29日公開予定)


YUYA KAMIMURA
英治出版株式会社にて勤務。
近年は、90分の対話からその方へのおすすめの5冊を選定する「対話選書」も実験中。
自分に子どもができて中学生くらいに成長したら手渡したい本・ナンバーワンは、
冒険家・星野道夫の『アラスカ 光と風』(福音館書店)。



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