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うたかたの日々(日々の泡)

「泡沫」。
「うたかた」と読む。
水面に浮かぶ泡。
儚く消えやすいもののたとえ。

ボリス・ヴィアンの「うたかたの日々」。
肺の中に睡蓮が生長してしまう奇病にかかったクロエと、恋人のお話。

毎年、冬に風邪をひいて咳が胸のあたりから出ると、
「肺に睡蓮の蕾がね・・・。」
曇った空の色に、モネの「睡蓮」の薄紫色が思い浮かんで、
そんな風に冗談を言っていた。

しかし、今年はそんな冗談は言えない。
コロナは、肺に棲みついて、いとも簡単に命を奪うものであるから。
人の一生が、儚いものであるということを、報道でどれだけ見たことか。


私はこの儚い物語が好きで、読み返してきた。
フランスの小説家であり、作詞家、ジャズトランペット奏者、歌手などとして幅広く活躍したボリス・ヴィアンの作品で「日々の泡」という名前でも訳されている。

大事なことはふたつだけ。ありとあらゆる形の、美しい娘たちとの恋愛、それにニュー・オルリンズかデューク・エリントンの音楽。
それ以外は消えてしまってよい。醜いんだから。


奏でる音によって異なるカクテルを作るカクテルピアノの演奏が出てくる。

おのおのの音符に、それぞれ一つの酒とか、リキュールとか、香料入りの酒を対応させてあるんだ。。強いペダルを踏むと、泡立たせた卵が出てくる。弱いペダルを踏むと氷が出てくる。ソーダ水のためには高い音域のトリルが対応するというわけだ。量は曲の接続に正比例する。(後略)

そして、色の描写が綺麗である。
クロエの恋人コランの服は、どれも美しい色彩で出てくる。
色彩豊かであり、味覚をくすぐる何かがあり、音楽が流れる小説である。

「恐ろしくうまいものができるよ。パールグレイのカクテルとペパーミントグリーンのカクテルが胡椒の味つけと燻製のような味つけででき上がってくるよ。」
古道具屋は再びピアノに向かうと「霧の深い朝(ミスティー・モーニング)」を演奏した。それから、今度は「泡のブルース(ブルース・バブルス)」を弾き始めたが、突然止めた。

「霧の深い朝」は、パールグレイ。
「泡のブルース」は、ペパーミントグリーンのカクテルなのだ。



肺の中に睡蓮の蕾ができる病気のクロエのために、医者に言われたとおり、彼女の周りに花を絶やさないコラン。
クロエは、
「カーネーションをちょうだいよ。それとっても効くんだから。」
といい、唇を近づけ、長いことそのにおいを嗅ぐ。
カーネーションは突然、蒼白になるとしわくちゃになり枯れてしまう。
そして、細かい粉になるとクロエの胸に落ちかかる。


純愛風であるけれども、悲痛でもある。

何度も映画化され、2013年には、「アメリ」のオドレイ・トトゥが出演していた。「ムード・インディゴ うたかたの日々」

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『人生は泡のよう。消えないうちに、愛して。』

人生は、泡のようなもの。
うたかたの日々。

もしも、この世に生きていて、一番幸せだった記憶だけをあの世に持っていけるとしたら、いつの、どんなものだろう?

それを思い出すときに、かかっている音楽は?
匂いは?
見えるものの色合いは、どんなものだろう。


コロナの早い終息を、クリスマスにも祈りたい。
そして、医療従事者の方々や介護職や、葬儀社の方々の安全を祈りたい。


他の訳もでているが、私が読むのはボリス・ヴィアン全集3の「うたかたの日々」だ。荒俣宏さんが「睡蓮が咲くまで・・・」というあとがきを書かれていて、こちらも読みがいがある。


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