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【読書#8】リチャード・ブローティガン 『ブローティガン東京日記』

(2023年1月28日読了)

穂村さんの読書日記で見つけて気になった本。東京への遠征が決まったころだったので、これはぴったりなのでは?しかもこの本を東京で読んでいたらオシャレなのでは? と思い、図書館から時期を合わせて借りてきた。
結局、帰りの新幹線で読み終えたが、内容的にはホテルで読む方が相応しかった気がする。雰囲気は新幹線というよりホテルの方が近い、そんな本だった。

1976年5月から6月にかけての1ヶ月半の間、東京のホテルで過ごしたブローティガン。彼が日記のように書いた詩をまとめたものがこの東京日記だ。

実は、翻訳された詩集というものを初めて読んだ。
海外の絵本なども元は詩であるものが多いが、あれは絵という助っ人がある。文字だけでしっかりと元の作品を味わえるのか、少し不安があった。
正直、ちゃんと味わえたのかどうかは怪しいところだ。けれど、海外の方、しかも有名な詩人の方でも、見知らぬ土地に行けば自分と同じような感覚になるということはわかった。
ひとりの異国に心細さを感じたり、初めてのことに興奮したり、失礼な人に腹を立てたり、見知らぬ女性に見惚れたり。
自分と変わらない、旅人の姿がそこにあった。

若い日本の女性のレジ係、   
   彼女はぼくがきらいだ   
   なぜだかはわからない   
   ぼくは存在するというほかには彼女に何もしていない
彼女は光にせまるような速度で   
   計算機を使って伝票の数字を足してゆく

カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ   
   彼女はぼくに対するその嫌悪を     
      足してゆく

『レジ係』

引用した詩は、私が特に好きだったもの。
多分、レジ係の女性は彼のことが嫌いでは無いと思う。好き嫌いの感情などなく、ただただ仕事をこなしているのだと思う。
けれど、異国の地で不安になっている彼にとっては、とても愛想が悪く見えたのだろう。この怒りは不安の裏返しなのではと思い、ちょっと可愛さを感じてしまった。

この旅から二十年近く後の1984年、ブローティガンは拳銃自殺でこの世を去っている。
日本で様々なことを感じ、たくさんの詩を残した彼がなぜそのような最期を迎えなければならなかったのか。とても気になっている。
訳者あとがきで藤本和子さんによる評伝『リチャード・ブローティガン』(新潮社、2002)がおすすめされていたのでぜひ読んでみたいと思った。

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