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ミートソースの魔法

このシリーズは、私にとって興味深い伴侶である夫I氏について研究しようと思って始めたのですが、どうも夫I氏を通した自分研究のような気が、回を追うごとに強まっています。

夫I氏の得意料理はいくつかあるのだが、ミートソースはその一つ。
いま、うちの家族は賃貸マンションの3DKに住んでいるのだけど、第一子のichikoが独立する際に、空いた部屋にシェアメイトを迎え入れた。
音大生のRちゃん。今年で同居生活も3年目になるが、思春期のnikoと私の母子バトルが起ころうと、夫I氏と私の夫婦バトルが起ころうと、部屋がいい加減にしか掃除されてなかろうと、食事時間がまちまちであろうと、まだ同居を続けてくれている。シェアメイトのRちゃんが居てくれることは、家族だけでは息が詰まるようなシーンに、他人の風が吹いていることで、全員にとっての良きチューニングメーターのような存在でいてくれてとてもありがたい。

そのRちゃんの好きな食べ物を尋ねたら「ミートソース」。しかも。

「Iちゃんの作るミートソースが、好きなんです」とな。

これは嬉しい。唐揚げも好きらしいけど、「Iちゃんの作る唐揚げ」ではないらしい。

私の子どもの頃のミートソースの思い出は、小学校の給食のミートソース。ソフトめんという名のゆでうどんを入れて食べた。ひき肉よりも野菜よりもどろっとしたソース部分の多い食べ物だった。

高校生になって、市街地に通うようになり初めて喫茶店のミートソースを食べた、その美味しさに驚いた。ひき肉は弾力があり、ケチャップじゃないトマトソースのコク、いまならわかるけど当時はわからなかったスパイス・ハーブの風味。理屈はまったく不明でも、なにこれ、うまい、うまいことはわかる。たまにバイト代で学校帰りに食べて、夕飯は残すと怒られるから、夕飯も全部食べた記憶がある。

その、「外で食べたミートソース」の味がする、Iちゃんのミートソース。たぶんRちゃんにとっても、実家を出て、我が家に同居して「初めて外で食べたミートソース」なのだろうなあ、と思う。

作ってもらう時には、ひき肉500グラム、たまねぎ2個、ニンジン1本、セロリ1本、トマト缶2缶使って、大量に作って、小分けにして冷凍する。すると、Rちゃんがせっせと解凍して、冷凍うどんやご飯やパンに載せてチーズをかけたりして消費してくれる。

ミートソースには甘みと酸味と旨味があって、そしてちょっと何か思い出があったりする郷愁の食べものじゃないかな、と思う。
この先、娘のichikoやnikoが、どこかでミートソースを食べた時に、夫I氏を一瞬も思い出さないってことがあるのかな?意外とあるのかな?

私はいま現在でも外でメニューにミートソースを見つけるだけでも、自動的に夫I氏を連想してしまう。反射で。
それが、ミートソースという料理が持っている魔法なのか、夫I氏のミートソースが持っている魔法なのか、わからない。

ただ、もしかすると、私が病気とか老衰とかで食べ物をとれなくなる直前に、スプーンでこのミートソースを口に入れられたら、消化できないとしても、きっと脳がスパークして、嬉しくて、笑顔になるとか涙がこぼれるとか、なんか起きるんじゃないかな。

夫I氏の得意料理はほかにもあるけど、餃子でもシュウマイでもローストビーフでもハンバーグでも唐揚げでもなく(ひき肉率高い・すべて肉)、ミートソースが一番魔法が強いよな。


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