高齢者の睡眠について。

 普通成人の睡眠時間は6~8時間が適正で、少なくとも1日6時間以上は眠るのが良い。睡眠は脳や身体の休養、疲労回復、記憶の固定、感情整理など多くの重要な生理的な役割を果たし、適切な時間や習慣を保つことは健康にとって非常に大切である。
 睡眠不足は誰もが経験する。日中の眠気や疲労に加え、頭痛など心身の愁訴が増加し、イライラしたり、怒りぽっくなったりするなど情動も不安定になり、注意力や判断力の低下による作業効率の低下や学業成績の低下など多岐に影響を及ぼす。またミスや事故などの誘因となる。
 生涯の睡眠時間の推移を見ると、新生児と幼児は人生の半分以上を眠っている。学童期は約9〜11時間、思春期は約8~10時間の睡眠をとる。高齢になるにつれて、睡眠時間が短くなるが、65歳以上は5,6時間で、80歳にもなると、3、4時間に短縮する。
 高齢者は加齢とともに、体内時計が変化するので、睡眠に関係する体温やホルモン分泌などの生体機能リズムが早い時間にずれる。若年者に比べると、早寝早起きになる傾向がある。
 睡眠の内容は2種類に分類し、年齢とともに深い眠りのノンレム睡眠の割合が増加し、浅いレム睡眠(逆説睡眠)の割合は低下する。前者は大脳が休息していると考えられ、脳や肉体の疲労が回復し、後者では脳が活発に働いて、記憶の整理や定着が行われるが、身体は筋肉が弛緩してもっとも休まる時間である。
 ノンレム睡眠とレム睡眠が交互に現れ、90~110分のセットで繰り返される。平均的な6~8時間の睡眠では4~5 回のレム睡眠が出現するが、レム睡眠の時間は加齢とともに少なくなる。後期高齢者になると、夜間の睡眠は3、4時間で、しかも2、3回はトイレに起き、眠れぬままに布団の中でうつらうつらしている時間が増え、睡眠の満足度は低くなる。
 実際に高齢者の睡眠時間の判定は難しく、昼夜問わずうとうとしている時間もあり、半睡半生の生活を送っていると言える。それがいつの間にか半死半生の夢うつつの状態に移行し、早かれ遅かれ天国へ行く。これを大往生と言うが、そんな恵まれた人はごく一部だろう。
 高齢者の睡眠の質を悪くする障害には、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群、周期性四肢運動障害、レム睡眠行動障害などがある。アルツハイマー病などの認知症では、睡眠が浅く、さまざまな睡眠問題を認める。
 夜間の不眠とともに昼寝が増え、昼夜逆転の不規則な睡眠・覚醒リズムに陥るようになる。またしっかりと目が覚めきれず、せん妄と呼ばれるもうろう状態がしばしば出現する。このような時には何が何だかさらに分からなくなり、不安感から興奮しやすく、攻撃的になるため、家族や介護の負担が重くなる。重度の認知症ではわずか1時間程度でも連続して眠ることができなくなる場合もある。
 高齢者の睡眠は短縮化と分断化に特徴がある。

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